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博物館における視覚障害者への対応について
―全国の主な博物館園のアンケート調査結果及び当館の事例―(口頭発表から)

奥野花代子
神奈川県立生命の星・地球博物館

おくの・かよこ

はじめに

神奈川県立生命の星・地球博物館は、1995(平成7)年3月20日の開館以来、“開かれた博物館”として様々な活動を展開しております。

一般に「手を触れてはいけない、写真撮影も禁止」という博物館が多いなかで、当館の展示は、できる限り来館者に近づけ、触ることのできる展示物や音声ガイドなどを用意した関係で、視覚障害者の方の利用も多く見られます。館内は広く、エレベータやエスカレータ、障害者用トイレ等が設備され、段差をなくしたことから車イスの方々にも安心して利用していただいております。

1981(昭和56)年の「国際障害者年」をきっかけにして、公共施設等では障害者が利用しやすいように施設の整備が進められました。博物館の場合でも、これまで施設面でかなり改善されてきましたが、施設面の整備に比べて利用面での対応が遅れているように思われます。とくに、視覚障害者の方の利用にあたっては各々の博物館で検討され、いくつか試みられてはおりますが充分とは言えません。それは博物館の場合には“もの”を対象としているために、どうしても視覚をとおしての展示や映像表現が多くなり、そうしたことが視覚障害者の方には大きな障壁となってしまうと考えられます。

このような状況から「目の不自由な人のための優しい博物館とは」そのありようについて、全国の博物館園にアンケート調査や訪問調査をさせていただきました。この調査は「博物館における視覚障害者のための展示、学習活動及び学習教材の開発等に関する実態調査とその研究」という課題で、平成九年度笹川科学研究助成を受けて、その研究の一環として行いました。詳しくは、『神奈川県立博物館研究報告書 自然科学第27号』(1998.奥野)をご覧いただければ幸いです。

視覚障害者の方には、生まれた時またはごく小さい頃から目の不自由な方と中途で失明された方、また全盲の方と弱視の方がいらっしゃいます。弱視の方の中にも見え方が様々で、それぞれにあった方の対応を心がけなければなりませんが、ここでは同様に話を進めさせていただきます。

本来「障害者」「健常者」というように分けて考えるべきではなく、「障害者の方に配慮することは、すべての人に配慮されたもの」になります。この場ではその対策を検討した結果をご報告するために、あえて「視覚障害者のために」という限定的な表現や言葉を使わせていただきます。

全国の主な博物館園のアンケート調査結果

現在、日本にはさまざまな博物館があり、その数は『平成8年度文部省社会教育調査速報』によりますと4500館を超えています。今回は総合博物館も含めて、全国の自然系博物館と人文系博物館の414館園を対象に、「博物館における視覚障害者への対応について』アンケート調査を実施しました。このうち自然系182館と人文系156館の合計、338館園からご回答をいただきました。回答率は81.6%です。アンケートにご協力いただきました皆様方に改めてお礼申しあげます。

アンケート結果によりますと、誘導用ブロックが設けられている館園は少なく、全体でもわずか14%です。

この誘導用ブロックには、「進め」の意味を示す線状の「誘導ブロック」と「止まれ」または「何らかの意味をもった場所」を示す点状の「警告ブロック」とがあります。この警告ブロックは、「危険を知らせる」意味と「ここです」という意味を持っています。例えば、案内板のある場所、階段の始めと終わり、横断歩道の入口、エレベータやトイレの場所等を示します。弱視の方にもわかりやすいように、黄色に着色されているのが普通です。誘導ブロックは、線の短いものや小判型の小さいブロックが互い違いになっているものは警告ブロックと紛らわしく、黄色の4本線のものが望ましいとのことです。

「館内の誘導のしかた」は、全体の75%にあたる博物館園から「職員をはじめ案内員、または連絡があった時に対応している」との回答をいただきました。誘導用ブロックの設置が少ないことを考え合わせますと、多くの館園で“人対応”を重視していると思われます。

「触れる展示物」としては、科学館を含む自然系博物館では35%の64館で触ることができます。また、回答をいただいた半数の館園には触れる展示コーナーがあります。

人文系博物館では基本的に触れることができるのは13館、8%です。触れる展示コーナーを設置しているのは54館、34%です。

「申し出があれば触れる物を用意する」との回答が得られたのは、自然系博物館では72館の40%、人文系博物館も72館の46%です。各館園の準備体制が整いつつあるようにみえます。

実際に触れる学習教材を用意している博物館園は少なく、人文系では6館です。その主なものは、石器や土器などの考古資料、衣類や藁製品などの民俗資料のほか複製資料として仏像や銅鐸、銅剣などです。

自然系では11の博物館園で学習教材が用意されております。アンモナイトや恐竜の化石、隕石、岩石、鉱物、貝類などの標本のほか、動物の剥製や骨格標本などです。他に鳥の鳴き声のテープ、植物の匂いの出る装置、タッチプールでの生きた生物など様々な資料があります。恐竜のように大きなものは縮小模型を、昆虫や木の実などは拡大模型をともに揃えている博物館もあります。

視覚障害者の方に向けた学習活動には、盲学校へ資料を持っていく移動博物館と逆に盲学校が博物館を利用した際に資料を用意して説明する方法があります。

今回のアンケート結果の中には、野外での自然観察会や学習活動の例は見られませんでした。視覚障害者向けの野外観察会は、日本自然保護協会などで実施されておりますので、今後は野外での活動事例も少しづつ報告されると思います。

神奈川県立生命の星・地球博物館の事例

写真1 神奈川県立生命の星・地球博物館は、基本構想段階からバリアフリー精神を考慮して設計・建設されましたが、なお、改善すべき箇所や課題が残されております。

まず、敷地から玄関へ誘導用ブロックが敷かれていますが、いずれも敷設タイルと同色または同系色の線の短いものが用いられおり、弱視の方には見えくいとのことです。

視覚障害者への誘導や案内はできるだけ職員が対応するよう心がけていますが、入口に設けられた総合案内カウンターが展示室の方を正面にしているため、入館された際に案内員が背中を向けた形になり、障害者の方が来られたことに気付くのが遅れてしまうとの指摘があります。

点字による展示解説案内板は、各展示室の入口に設置されていますが、展示概要と展示室平面図の解説板の同面に同様に仕上げられたために、エレベータなどに付けられているものに比べて点字の凹凸が少し薄いです。そのため一字一字確かめながら読むようになってしまいます。点字はある程度の早さで読まないと意味が理解しにくくなりますので、凹凸のはっきりした読みとりやすいものに改善する必要があり、解説板の高さや傾斜についても再検討の余地があります(写真1)

写真2当館の音声ガイドは携帯電話を少し大きくしたイヤホン型で、開館2周年を記念して1号機を、このたび続きの2号機を制作しました。1号機はエントランスホールにあるシンボル展示から地球および生命展示室にかけて13の展示物を、2号機はその続きの「昆虫」展示から「神奈川」展示室の14箇所を、濱田隆士館長と女性アナウンサーとの会話型、質問形式でできています。一方的なガイドではなく、親しみやすく聞きやすいために一般の来館者にも好評を得ています。このガイドは展示物の前だけではなく、館内のどこでも利用できるためにミュージアムライブラリーやレストランでゆっくり聞いている姿も見られます。ガイド番号を示す案内板は三角型にして、表側にガイド番号を、裏側に点字シールを貼るようにしました。この音声ガイドは開館後に計画されたために、ガイド番号位置が展示物により様々で、また、視覚障害者の方だけでは利用しにくいため、今後、誘導・案内ボランティアの導入やペアイヤホンの用意など考えなければならないと思っています(写真2)

スライドによる事例紹介

それでは、訪問調査をさせていただきました中からいくつかスライドでご紹介させていただきます。

今回、調査している時にたまたま目にした光景で、私たちが日常、気をつけなければならない例をご紹介します。

以上でスライドによる説明を終わります。

今回の訪問調査で、博物館園の中にはせっかく誘導用ブロックが敷設されているにもかかわらず、その側に案内表示板やチラシの棚が置いてあり、視覚障害者や車イスの邪魔になる光景が見られました。 私たち健常者が、管理する側が、指導者が、視覚障害者の方の利用について、もう一度「誘導用ブロックが何のためにあるのか」を再認識して、日頃の優しい思いやりが大事であると痛感いたしました。

博物館園全体の課題として、職員の不足や体制の不備、財政的な問題、一般の方の理解の不足、建設時での配慮、管理運営面での意識の改革など様々であり、今後別な場での議論や検討の必要性を感じました。

博物館は、生涯学習のための開かれた機関として「障害者のために」ではなく、あらゆる人に」優しい博物館として、“さりげない配慮”に心がける必要があります。博物館を訪れるすべての人の新たな発見・感動の場となる魅力ある博物館に、実物に触ることができ五官(感)が使える博物館をめざして、ともに考えていきたいと思います。

皆様のご支援・ご協力をお願いいたします。ありがとうございました。

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