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北海道開拓記念館における視覚障害者への対応

三野 紀雄、麻生 典子、斎藤 智子、越田 雅子
埒見 裕子、水島まゆみ、浅井 雅世、今村ゆみ子
北海道開拓記念館

北海道開拓記念館は、野外博物館「開拓の村」とともに、札幌市の中心から15キロメートル程の距離にある面積約2000ヘクタールの野幌森林公園の一角に位置しています。昭和46年に北海道立の歴史系総合博物館として開設され、常設展示室では北海道島の生い立ちをはじめ、人類が住み始めた2万数千年前から現代に至るまでの自然や人間の歴史の移り変わりについて約4000点の資料と映像を用いて展開しています。

当館では、平成10年度に、身体障害者専用のエレベータの設置を計画しています。エレベータは講堂や体験学習室が設置されている中地階から、一階の常設展示室、中二階の食堂、二階の常設展示室および特別展示室を経て、屋上展望室に到るものです。大方にとっては今頃になってのエレベータ設置と不審に思われるかもしれませんが、本館が開館した昭和46年当時にはバリアフリーが現在のようにまだ社会的常識になっていたわけではないので、致し方ないものと思われます。これまでも、この身障者専用のエレベーターについては幾度か設置が検討されましたが、技術的な問題から実現に至っておりませんでした。このほか、身体障害者のためには専用駐車場、トイレ、スロープなどが逐次設置・整備されてきてはおります。また、車椅子やベビーカーも館内に備えております。エレベータについては、ここにきてやっと幾つかの大きな課題が解決できたので、実現の運びとなったものです。

本館ではこのように、ハード面については足取りは緩やかですが、北海道の福祉行政の一環として、身体障害者への対応が進められてきております。しかし、視覚障害者に関してはこれまで「博物館や美術館を利用することはないだろう」といった考えがあったためか、誘導タイルや点字の展示解説プレートなどのハード面並びにソフト面での整備はほとんどなされておりません。本館での視覚障害者への本格的な対応は、将来に設置を目指している参加体験型学習施設「歴史文化交流センタ―(仮称)」の中で実現を図りたいと考えております。

しかしながら、開館して27年、受付案内や常設展示室さらには体験学習室などにおいて、展示解説員が視覚障害者への展示解説とあわせて、その都度学芸員と相談し、工夫をしながら個別的な対応に努めてきております。したがって、ここではそれら受付案内あるいは解説現場での対応の幾つかについて紹介をしながら、博物館での視覚障害者対応についての問題点などついて考えてみたいと思います。

1 受付案内においての対応

受付案内では、健常者も含めて来館者に、館事業や常設展の展示内容を紹介するリ―フレットや広報資料等を配布しています。

視覚障害者に対しても、点字リーフレットと常設展示のより深い理解を図るために点字の「常設展示の解説書」を用意し提供しています。また、有料の小型展示解説器の貸し出しも行っております。ただ、個人の入館者へは付き添いの方などからの申し出によってリーフレットを手渡しておりますので、申し出がない場合に身体障害者の方々すべてには行き渡らない場合もがあります。それら入館者へは、解説員が気づいた時には、つとめて手渡すようにしています。

当館の常設展示は、開館20周年を記念して、平成4年に全面的に改訂いたしました。昭和46年にオープンした旧展示では、財団法人札幌市盲人福祉協会が好意で作成してくれた点字リーフレットを希望者に貸し出しをしておりました。平成4年の常設展示のリニューアルに合わせて、この盲人福祉協会にリ―フレットと常設展示の解説書の二種類の印刷物の作成を委託しました。

それらリ―フレットや解説書は案内窓口で配布するだけでなく、道内各地の盲学校や道内各地域の盲人福祉協会に送付して館の広報に役立ています。さらにまた、年度始めに開かれる道内の特殊学校長会議では、これら資料を配布し児童生徒のより一層の利用を学校にお願いしております。

2 常設展示室および体験学習室においての対応

当館には常設展示に加えて、「触る、作る、体感する」などの行為をとおして、昔の生活を追体験すること、あるいは常設展示を補完しその常設展示のより一層の理解を図ることを目的に体験学習室を設置しております。

これら常設展示室並びに体験学習室とも、視覚障害者に対しては、解説員による展示解説と合わせて「資料を触わってもらう」ことを基本にして運営しています。ただ、触ることのできる資料には限りがありますので、北海道の自然や歴史を学ぶうえで必要かつ十分な資料が用意されているとはいえません。常設展示室内の触ることのできる資料の主なものは次のとおりです。また、体験学習室の資料は逐次変更しておりますので、以下のものは現在(平成10年4月)の展示資料です。

【旧常設展示(昭和46年~平成3年)】

2テーマ(先住の人びと)
チセ(アイヌ民族の家屋)、イナウ、熊の檻
3テーマ(新天地を求めて)
長者丸(北前船)
4テーマ(開け行く大地)
開拓使仮庁舎の門、目安箱、開拓用具の斧や鎌、ヒグマやリスの剥製、開墾地の切り株、道産子(馬)、馬橇
5テーマ(産業のあゆみ)
クワなどの農機具、プラウでの馬耕模型、酪農用具や機械、小牛や羊の剥製、樹木の伐採用具、木材搬出用具、澱粉工場の道具、炭鉱の炭車など
6テーマ(北のくらし)
三等列車、大正家屋、台所、明治時代の郵便ポストなど

【現常設展示(平成4年以降)】

1テーマ(北の大地)
ヒグマの剥製、ナウマン象とマンモス象の骨格標本
2テーマ(アイヌ文化の成立)
チセ(アイヌ民族の家屋)、イナウ、熊檻
3テーマ(蝦夷地のころ)
イタオマチップ(アイヌの外海航海用の板綴り舟)
4テーマ(近代のはじまり)
プラウ・カルチベーターなどの農機具等の模型、学校の机と椅子
5テーマ(開けゆく大地)
いずこ、行李、信玄袋、鍋、開拓の際の作業手袋、石臼、鍋、ニシン漁労の用具類、ニシン船の模型、プラウでの馬耕模型、クワ・稲の種子直播器などの農機具類
6テーマ(不況から戦争へ)
プラウ、伐木用具、木材の馬搬模型、採炭用具類、三等列車、ストーブ類など
7テーマ(戦後の北海道)
闇市の模型、コンバイン、田植機、冷蔵庫など初期の家電製品、自動車(パブリカ)、除雪具、スキーなど

【体験学習室】

(1)団体来館者への対応

盲学校等の団体に対しては、展示室内の露出されている触ることのできる資料の周りの結界や障害物などを取り除いて、見学してもらっています。また、常設展示室には展示されていない土器や石器などをあらかじめ収蔵庫や体験学習室から展示室内に移動することもあります。さらに、家屋模型などの展示物の場合は結界を取り除き、その内部に入って直接展示資料に触り、学習に役立てています。

旧展示では、露出資料も多くまた通路部分もゆったりしていたので、見学者は資料を取り囲んで触わって「見る」体験をしてもらうことができました。ヒグマなどの動物剥製は牙や爪、毛の感触、大きさなどを実感できたので人気がありました。

また、チセ(アイヌの家屋)、大正時代の三等列車や家屋・台所などの復元では実物大の展示物の中に入って身体全体で「見ている」子供達は、指先でさわって形をなぞっているだけの時よりも、はるかに生き生きとして見えました。また、展示の効果音、例えば木の倒れる音、小鳥の鳴き声、ニシン場の作業歌、馬耕での馬を追う声、三等列車の中での乗客どおしの会話なども好評でした。

しかし、現在の展示では露出している資料も少なく、また室内のスペースもやや窮屈で、旧展示よりは利用しづらい状態になっています。特に、露出した触れる資料の少ない3テーマや4テーマではおおまかな歴史の流れを解説員が言葉で説明するだけになっています。

旧展示および現展示のいずれにおいても、解説員は、種々工夫をこらして対応につとめております。しかしここ数年、盲学校など団体の利用減少が目立っております。その原因としては、ほかに類似した学習施設が増加したことと、盲学校などに児童生徒が北海道の歴史を学ぶためには当館の展示が適切ではないといった評価が場合によってはあるのかもしれません。当館の展示が盲学校の児童生徒の学習にとっては適切なものでないとするならば、自信をもって「北海道の歴史を学ぶために来館して下さい」とPRすることは難しくなります。今後、アンケート等による調査が必要と思われます。

(2)個人や家族など―般来館者への対応

一般来館者の場合、来館者の中に視覚障害者がいることを解説員が気がつかない場合もあります。気がつき次第、声をかけて希望を聞き、結界をずらなどして資料に触ってもらっています。あらかじめ触れる資料を準備することはできませんが、基本的には団体での来館者と同じような方法で見学をしていただいております。ただ、「あまり迷惑をかけたくない」と遠慮されて、結界をずらしたり、資料を触ったりすることを望まない方もおられるので、その時は引率の方も含めて展示解説を自から希望されるのを待ち、希望を受けて解説をするようにしています。

3 問題点

来館者の案内・誘導上の問題点としては、公園内および館内に誘導タイルが設置されていないことが上げられます。バス停から館までは約200メートルの距離があります。バス利用者は、バス停に降りると、園内の遊歩道を通って館に到達します。展示室内においても同様に誘導タイルは設置されていません。

展示室に関しては、常設展示室および体験学習室ともに視覚障害者の展示観覧を念頭においたレイアウトや資料展示になっていないこと、さらには触ることのできる資料の絶対数が少ないことについては先に述べたとおりです。

解説員は、現在の展示がはたして視覚障害の人びとに満足を与えているのかどうか、また健常者に対する解説と同じような解説内容や方法ではたしてよいのだろうかなど疑問に思ったり、また戸惑ったりしているのが現状です。

たまたま弱視の方が全盲の方に、指で触るだけでは理解できないことや物足りない部分について簡潔な言葉と表現で補い、説明している場面に遭遇する機会がありました。その際に、視覚障害者の「触る」という行為やそれをサポートする「言葉」の重要性を理解することができました。しかし、解説員を含め館職員には、解説にあたってどのような言葉や表現を用い、また事前にどのような準備をしておくべきなのか解らない点が多々あります。したがって、盲学校の先生など利用者の要望や考えを聴く勉強会や研修会の必要性を強く感じています。

体験学習室においても、物語性をもたずに触ることのできる資料をただ配置している現状がはたしてよいのか、機織りやわら細工あるいは月ごとに行っている月決めの体験学習行事などが視覚障害者にとって適切な学習プログラムといえるのか、子供たちが一人で備え付けの昔の遊具で遊ぶことが可能なのかなど判断しずらく、また不明な点が多くあります。これらについても視覚障害者を交えての勉強会や研修会をもちたいものと考えています。

4 今後の課題

常設展示は、視覚障害者が一人で見学する時でも、簡単にそして楽しく北海道の歴史を学習することのできる場でなければなりません。そのためには、視覚障害者が指で触ることを「見る」と表現するように、北海道の歴史を示す「触ることのできる資料」を体系的に展示するなど、次の事柄の整備が必要と思われます。

  1. 展示場内に観覧順序を示す誘導タイルを設置する。
  2. 各テーマに「触れる資料」のコーナーを設け、障害者が一人ででも触って学習・見学できるようにする。
  3. テーマごとにあるいは「触れる資料コーナー」ごとに点字の解説プレートや、展示室の順路も含めての資料配置図を設置する
  4. 展示に対応した解説テープを製作する
  5. さらに詳しい点字の「常設展示解説書」を作成する。

加えて老人や弱視者のために、文字の大きいリーフレットや展示解説パネルの作成や整備も必要となります。

さらに、博物館職員は展示場の中で「ともに共感し、感動し合う」ことのできる心と言葉を持つこと、そして「はたして本当にこれで充分なのだろうか」と自分自身をいつも振り返ることのできる姿勢をもつことが大切なのだと思います。そして、人が持つ障害が障害なのではなく、単にその人が持つ個性の一つにしか過ぎないと感じられるような社会になるために、博物館においても障害者にとっての障壁の一つ一つを取り除いて行くことが必要だと思われます。

[目次]視覚障害者による参加体験型展示の利用

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