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視覚障害者による参加体験型展示の利用

樺澤 誠
群馬県立自然史博物館

はじめに

群馬県立自然史博物館は、群馬県では初めての大規模な自然系博物館として、平成8年10月、県西部の富岡市にオープンしました。博物館がある富岡市もみじ平総合公園は、富岡市の北側の丘陵地に位置し、北側には、西から東へ妙義山、浅間山、榛名山、赤城山を見渡すことができる風光明媚な場所でもあります。

当館は、地球や生命の歴史と群馬県の豊かな自然を紹介し、利用者の自然に対する興味と関心を高めることを目的として建設されました。計画に当たっては、子どもからお年寄りまで楽しみながら学べるよう、近年主流になりつつあるハンズオン方式を採用しました。標本をガラスケースから出して、間近で見られるように努めるとともに、可能な限り手で触れたり、鳴き声を聞く、臭いを嗅ぐといったいわゆる参加体験型の見学ができるよう工夫しています。当館の「見て、触れて、発見する博物館」というキャッチフレーズは、このような考え方を表したものです。

この、標本に触れることができたり、装置を使って様々な体験ができるよう工夫された展示は、視覚障害者の利用にも非常に有効です。ここでは、群馬県立自然史博物館における参加体験型の展示の概要と、視覚障害者の団体が利用した具体的な事例を紹介します。なお、「参加体験型」の定義に関しては様々な意見がありますが、ここでは「見る以外に様々な感覚を使って体験できる」という意味合いで使用することとします。

五感を使って体験できる展示

群馬県立自然史博物館の常設展示は、「A、地球の時代」「B、群馬の自然と環境」「C、ダーウィンの部屋」「D、自然界におけるヒト」「E、かけがえのない地球」の5つのコーナーに分かれています。高さ12メートルの天井の高さをフルに生かして、ブラキオサウルスなどの恐竜の骨格(写真1)、ブナ林やシラビソ・オオシラビソ林のジオラマ(写真2)を展示して人気を呼んでいますが、さわれる標本やいろいろな装置を使って体験できる展示も非常に好評です。

表1に常設展示室における参加体験型の展示の概要を示します。

当館では、下の写真に示すような「さわってみよう」の表示を添えて、前述のAからDのコーナーで、利用者が手でさわって、感触を確かめられる標本を数多く用意しています(写真3)。学校等の団体観覧者に対するガイダンスでも、さわれる展示があることを積極的に紹介し、自分の手で感触を確かめてみるように勧めています。ここには、点字解説パネルも設置しています。

これらの参加体験型の展示には、さわれる展示の他、鳥や虫の鳴き声を聞く装置、臭いが出る展示などがあります。鳴き声を聞く装置は、丘陵帯や山地など群馬県内を標高で区分し、その地域にすむ動物のうち、81種類の鳥、21種類の虫、11種類のカエルの鳴き声を聞けるようにしたものです。番号を入力して聞きたい種類を選択すると、約20秒間その鳴き声がスピーカーから流れる装置です(写真4)。また、臭いが出る展示は、ジャコウジカの絵やユーカリの写真などを入れた額の裏側に香料を入れる部分を作り、ジャコウジカからとれるムスクやユーカリの葉の香りを体験できるようにしたものです。

また、「群馬の自然と環境」の大ジオラマの脇に置かれている縮小模型は、視覚障害者の利用に備えてジオラマ全体の様子をすぐ近くで見られるようにしたものです。視覚障害者の中でも、全盲の人から弱視の人まで障害の程度には幅があり、弱視の人ならば、標本のすぐそばに顔を近づけて見ることが可能であることから、点字パネルを添えて展示しました。

視覚障害者の利用例

当館の施設には、建物の内外とも誘導ブロックや音声誘導装置がなく、点字による案内や解説も決して十分とはいえません。そのような視覚障害者にとって使用しづらい部分は、「案内員」や「解説員」と呼ぶ職員が補っています。案内員は総合案内や観覧券のもぎり、団体観覧者へのガイダンスを担当し、解説員は展示室でガイドツアーやスポット解説という形で、展示資料の解説を行ないます。

開館以来、視覚障害者の団体が何回か利用していますが、ここでは、1998年5月15日に朗読奉仕のボランティアと一緒に来館した視覚障害者のグループへの、当館の対応の状況を紹介します。

この日来館したのは、全盲の視覚障害者11名と同数のボランティア、そしてボランティアグループの代表者2名の合計24名です。これを2グループに分け、それぞれのグループに、解説員1名が付き添って誘導しながら解説しました。解説員はあらかじめ行われた、代表者と館職員との打ち合わせの内容を受けて、解説する展示を選び、解説する上での注意点を整理して当日を迎えました。

当館の建物の壁面は、直径20センチメートル程度の石を埋め込んだコンクリートでできています。視覚障害者の方にはまずこの壁にさわってもらいます。ここで壁の様子や床の素材、天井の高さなどを説明して、博物館の建物のイメージをつかんで展示室内に入ります(写真5)。

常設展示には、表1の通り合計43点の参加体験型の展示がありますが、この時は、その中から20点を選んで案内し、触れる、鳴き声を聞く、臭いを嗅ぐなどの感覚を楽しんでもらいました。この中には、通常はさわれない標本の中から、ジャコウウシとオグロヌーの剥製にさわってもらい、毛並みの違いを確かめた上で、住んでいる地域によって体のつくりが違っていることを説明するなど、特別な対応も含まれています(写真6)。

「ダーウィンの部屋」には、通常は利用者が骨格を組み立てて楽しんでいるデイノニクス(小型の動物食恐竜)の模型がありますが、さわることによって歯の様子や尾の長さなどの恐竜の体のつくりを知ることができ、このような展示が視覚障害者の利用に非常に有効であると感じました(写真7)。

今回は、約1時間30分をかけて展示室を一周しました。これは、健常者がごくふつうの早さで見学する場合の所要時間とほぼ同じです。もっと時間をかけて、より多くの展示の案内をすることも可能ですが、普段外出することが少なく、外の気持ちのいい風に当たることを楽しみにされていることもあり、この程度の利用時間で抑えることが多いようです。

今後の課題

視覚障害者の利用という視点で当館の施設を見直した場合、これまで述べてきたように、たくさんの参加体験型展示を用意して利用しやすくしている反面、駐車場から玄関まで、あるいは館内の展示室や洗面所への誘導ブロックが全く設置されていないなど、大きな問題点も抱えています。せっかくさわれる展示を用意しても、視覚障害者の利用を前提にしたものではないため、その展示がどこにあるか、どのように進めばよいかがわからない状態です。結局、このような不足している部分は、職員の対応によって補わざるを得ないのが現状です。

視覚障害者への解説の方法も、まだまだ検討の余地があります。単にさわれる展示や声を聞ける展示のコーナーに案内するだけでなく、利用者の身体的な個性にあった解説の方法を工夫する必要があります。

例えば今回紹介した団体の見学に際しては、色に関する説明は控えることとしました。全盲の人でも中途失明の場合には、例えば、「このジオラマのブナの若葉は透き通るような緑色ですよ」という説明で、その林の様子をイメージできますが、先天的な場合には色の情報を伝えることは非常に困難です。この時は、事前の打ち合わせにより、先天的な全盲の人が何人かいることがわかったため、色に触れることを控えることにしました。今後は、あえてその場で「色がわかりますか」と確かめ、わかるようならばその説明も加えるというように、解説する職員が対応の技術を身につけることも必要だと考えています。

また近年、博物館による視覚障害児の教育への支援も盛んになりつつあります。移動博物館による学校への資料の持ち込みは、そのもっとも顕著な例といえます。

博物館ではとかく珍しい種類の動物の剥製を展示することが多いのですが、視覚障害児にとっては、スズメやカラス、ヘビなど健常者にはごくありふれたものでも、さわってみる、あるいはごく近くで見ることをしなければ、身近な生き物の形や大きさを知ることができません。体のつくりを調べるような学習においてはなおさらです。こうした場合、子どもたちがあらゆる方向からさわれるということも大切で、これは博物館の展示台の上のおいた場合には非常に難しいことです。移動博物館はこれらの問題点を解決するために最も適した方法で、今後当館でも考えていかなければならない事業です。

まだ博物館としては動き始めたばかりですが、より多くの、さまざま個性を持った利用者に親しまれる博物館として、今後の活動を進めていきたいと考えています。

謝辞

本稿の執筆に当たっては、前橋市にあるボランティア団体「朗読奉仕ひまわり会」の皆様とその利用者である視覚障害者の方にいろいろなご教示をいただき、また、見学の際の写真の撮影とその使用についてもご快諾をいただきました。厚くお礼申し上げます。

[目次]知覚障害者・身体障害者への配慮について―栃木県立博物館の場合―

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