[戻る]

展示解説員による対話形式の解説
―視覚障害者と解説を共に考える―

三浦和信(現 財団法人千葉県文化財センター)
石橋みゆき・川内希弥子・椎名聡子・大熊 愛
千葉県立中央博物館

平成元年に自然誌を中心とする総合博物館として開館した当館には、大きな特徴として、来館者に対話形式で解説等のサービスを行う展示解説員が18名います。展示解説員は、本館の受付(写真)・各展示室・情報センターに配置されており、平成8年度には、来館者数約176,000人に対して約13%の延べ約23,000人の方々に、一周・定時・随時等の解説サービスを行い、大変好評を得ています。

当館では、開館当初から、障害を持たれている方々へ、どの様なサービスができるかを展示解説員と共に検討してきました。ここでは、展示解説員が、来館者への様々なサービスの一環として、視覚障害者に行っている解説等について、試行錯誤してきた経緯と、どの様に解説に反映させているかを述べたいと思います。

展示解説員が視覚に障害を持たれた方との出会いは、開館間もない頃、解説を希望された時から始まります。どうしたら展示を理解していただけるのか、その場でいろいろ考えながら対応しました。そのことを、レポートにまとめて、普及課員全員に回覧し、レポートを読むことによって少しでも共通理解を深めようと考えました。その後、解説の事例が少しずつ蓄積され、見学される前に読んでいただく「しおり」の必要性が考えられ、平成6年度にそれぞれ同じ内容の約40ページの「点字の見学のしおり」・「拡大文字版の見学のしおり」が作成されました。作成にあたっては、視覚障害者と直接対応する展示解説員を中心とするプロジェクトチームが編成され、当館本館のリーフレットを基に、視覚障害者が必要とする情報と、展示解説員が視覚障害者に解説する場合に事前に知っておいて欲しい情報等を加味しました。これらの「しおり」を作成した経験から、視覚障害について、今まで以上に、より具体的に考えられるようになり、解説事例報告も、館の概要・展示室の構成や展示物に対しての解説方法がより具体的、かつ詳細になりました。

視覚障害者への解説を詳細に検討するために、再度プロジェクトチームが平成八年度に編成され、話し合いの結果、視覚障害についての体系的な研修が必要な事、解説を行った後に視覚障害者から解説等の内容について率直な意見を聞く機会を設ける事(解説を行った後で解説が大変良かったとの感想をいただいているが、どの点が良いのか、反省点は無いのか)、解説の事例の蓄積と資料の収集を継続して行う事の3点が必要ではないかとのことになりました。

研修については、国内外の状況・視覚障害者への接遇・当館の盲学校博物館学習に参加すること等が考えられ、実施されました。夏の展示解説員研修期間に、イギリスのレスター大学大学院で福祉と博物館学を研究されている大西万知子さんに、「博物館と福祉について」というテーマで、イギリスにおける障害者に対する対応について講演をしていただきました。講演では、イギリスの博物館が接遇・設備・教育等を視覚障害者にどの様に行っているか、幅広く具体的に且つ詳細に話していただきました。特に、美術館における絵画や彫刻の説明方法には、解説するうえで、大変参考になりました。それは、説明員が自分の体を使ったり、見学者グループの協力を得て人々の立つ位置としぐさで絵画の構図を写し取って演じたりしており、人間の体を使って絵画や彫刻を触察物に置き換える解説方法に、大きな衝撃を受けると共に、言葉による解説と展示物への触察だけではない、解説方法の再確認が行われました。

接遇については、専門家の山口崇さんから視覚障害者をガイドする誘導方法の研修を受けました。視覚機能と視覚障害者についてお話を聞くと共に、弱視の方の見え方が千差万別であることをシミュレーションキットを使用して、実際に体験しました。その後、具体的誘導については、階段の上り下り・狭いところの通過・ドアの開閉と通過・トイレへの案内を行いました。館内のイメージや実際の展示物の大きさ、位置関係などは時計の文字盤を用いて方向を説明したり、例えを用いることによって理解しやすくなること等を指摘していただきました。そして、展示解説員が持っている知識や触察ができるもの全てを過不足無く伝えようとするよりも、相手のご希望を聞きながら、対応するのが良いとのことでした。また、相手の安全に配慮すると共に、リラックスした状態をつくり、心を通わせた解説を行うことの大切さが話し合われました。解説を行う本人が緊張すると、相手にも緊張感を生んでしまい、いかに自分がリラックスして解説するかは、やはり練習と経験を積んで心に余裕を持つようにすることが良いのではないかということになりました。(福)日本盲人職能開発センターからは、ビデオをお借りし、展示解説員全員による接遇についての研修を行いました。

以前からも実施されていましたが、平成8年度からは、できる限り展示解説員が、館内における視覚障害者に関する講演会やセミナー、当館で実施している盲学校博物館学習等に参加しました。博物館学習では、講師が教材をどの様に使用して、どの点に留意しながら説明を行うのか、生徒がどの様に理解していくのか、そのことをいかに解説に反映させるかを考えながら、それぞれ参加しました(写真)。説明の仕方や触察の工夫等をレポートにまとめて回覧し、共通の理解を深めるよう努めました。講演会やセミナーに参加した展示解説員からは、「私たちの観察は、大部分を視力に頼っていることが実感できました。また、視力以外の感覚をフル活用してみて、視力に障害のある方は、観察するときの五感の使い方が違うだけだという事に、初めて気づきました。逆に私たちも他の感覚を使うことで、より深い観察ができたように思いました。」というレポートが提出され、研修等に参加し経験することがいかに重要か、改めて考えさせられました。

視覚障害者との検討会を、これまでの視覚障害者へ実施してきた解説の実績を基に、大西さんの協力を得て平成8年度後半に3回実施しました。当館の展示部門は、6展示室・1学習室・1企画展示室の延べ床面積が約4300平方メートルあります。通常、展示解説員が企画展示室を除いた全展示室の一周解説を行う場合は約60分ほど、1展示室の定時解説の場合は約20分ほどそれぞれかかります。検討会に参加したプロジェクトチームの展示解説員は、解説はもちろん、一般の方への接遇・展示室の構成・個々の展示物についても熟知し、視覚障害者へ解説を行った経験がそれぞれありました。そして、視覚障害者や同行者の立場から検討会に参加された方々は、国内外の美術館や博物館の見学を楽しまれたり、館のあり方について考えられている方々で、この企画に積極的に協力していただきました。

この度の検討会を行うにあたり、視覚障害者への解説シナリオ構成は、受付で館の概要を、展示室では地学展示室を中心にして他の展示室は概要のみとし、最後の体験学習室をしてじっくり触察をしていただくことにしました。地学展示室は、体験学習室以外で最も触察資料が多くあり、また、プロジェクトチームが解説事例集の基本形をこの展示室を利用して作りたいと考えていたからです。ただし、この他の希望があれば、適宜対応することにしました。

第一回は、弱視の方1名、同行の方1名、展示解説員2名、当館学芸員等4名で行いました。事前に教育普及課でこの企画について打ち合わせを行い、その後、展示部門の解説として、館の概要を約10分、触察物の多い地学展示室を40分(写真)・他の展示室はそれぞれの入り口付近で概要をまとめながら一周して約15分、体験学習室を10分の合計75分をかけて行い、その後、検討会を行いました。今までに来館された視覚障害者は、突然のため、事前に触察物を用意できなかったのですが、今回、視覚障害者が触察可能な展示物リストの再確認を行いました。そして、今まで蓄積してきた解説の成果を基に、展示解説員1名が主に行い、経験を共有するため、他の1名が補助役になりました。触察物として、特に展示物以外に用意したものは、アンモナイト2種、古代ザメの歯、琥珀の原石・琥珀製の復元勾玉でした。

展示部門では、受付のある第一ホールの一般用案内板の前で、建物のイメージ、歩くと約1.2キロメートル・所要時間約何分と具体的な言葉を使って、当館の概要のイメージを持っていただき、その後、受付前の点字案内板を触察していただいて、各展示室の配置とこれから説明を行う展示室の順番を説明しました。次に、入館者が最初に入る地学展示室の解説を行うにあたって展示物の触察資料の他に、解説シナリオの構成上必要な触察資料として実物のアンモナイト等の化石を学芸の協力を得て事前に用意しました。その結果、展示構成の流れに沿って展示解説が行い易くなり、ケース等に入っていて触察の出来ない展示物の前で、用意した触察物を使用して触察していただきながら解説をすることができるようになりました。触察していただいたのは、琥珀・アンモナイト・岩石・古代ザメの歯の化石・ナウマンゾウの復元骨格標本・サンゴでした。特に体長4.2メートル、高さ2.7メートルのナウマンゾウの体長は、展示台に触りながら約5メートルほど歩いて大きさを測っていただき、門歯は両手を広げたくらいの長さと体を使って表現しました。複製頭骨は別のアクリルケースに入っており、安全に注意して触察していただきました。今まで触察ができなかった、ナウマンゾウの復元骨格標本の後ろ足に触ることができるようになり、触って大きさを実感していただきましたが、部分のため、全体像の把握が困難でした。そこで、急遽、マンモスのミニチュアを用意して全体像をイメージしていただきました。床面積約500平方メートルの地学展示室の前半は、触察できる展示物が多いのですが、後半は触察できる物が殆ど無く、口頭での説明が多くなり、海食洞の前では声を大きく出して音の反響により洞窟であることが分かるように解説しました。他の5展示室は、一周する事によって展示室の配置、雰囲気を味わっていただきながら、概要説明を行いました。その後、「比較」がテーマである体験学習室はで、触察できる本物の骨格標本・剥製標本が多く展示してあり(写真)、概要を説明すると共に、ニホンジカ、ニホンザル、イルカ等の骨格標本を触察していただきました。

解説が終了した後の検討会では、解説方法の再確認や具体的事柄などが率直に話し合われ、以後の検討会の基本パターンになりました。

解説を行う前に、視覚障害者の見学の目的を十分理解して、館の概要・展示室・展示物・触察等のどこを重点に解説したら良いのかお聞きし、それぞれを選択肢として用意し、できるだけ希望を聞くようにした方が良いのではないかということになりました。そして、解説を行うにあたって、視力の状態を聞かれることに抵抗感を持つ方もいますが、適切な情報の提供や安全面での配慮のうえで必要なので、打ち合わせの会話の中でさりげなく聞くのがいいのではないかとのことでした。また、必要以上に解説についての情報を流すと、かえってストレスを覚えることがあり、その兼ね合いが大変難しいことがわかりました。また、一方的に聞くだけの場合は大変疲れるので、対話形式の解説の問いかけ等は、視覚障害者の心を和ませる効果があり、博物館の案内方法としては非常に有効な方法であることが再確認されました。ただし、全ての視覚障害者が解説を必要とするかどうかは、同行者と一緒に楽しんでいる場合があるので、お客様へ何時も行っているように、依頼された場合や声掛け、あるいは会話の中意思の確認をすることになりました。

展示部門での解説では、最初に博物館の概要解説を行ってイメージを描いていただくことが大切であり、その後、展示室や展示物等を説明すると理解し易いとのことでした。そして、解説を始める前に、あらかじめ所要時間をお知らせし、触察物の点数等がわかれば、自分なりに見学の工程の想像ができ、ある程度気分が楽になるのではないかとのことでした。また、触察のために特定の場所に案内されて隔離されてしまうと、学校の授業の様な感じになってしまうので、博物館の雰囲気等を他のお客様と一緒に楽しみ、解説を聞きながら展示物に触察できた方が、良いとのことでした。触察については、特別扱いするのは芳しくなく、触察ができるものとできないものをはっきりさせ、触察する場合は、学芸員が展示物を扱う場合と同様に手を洗ったり、指輪や時計を外したりして展示物に傷をつけないように注意していただくのが良いということなりました。ただ、展示ケースにはガラスやアクリル製が多いので、安全面を促し過ぎると、興味がそがれてつまらなくなる場合もあるのではないかとのことでした。そして、全体の解説が終了した後で、再度触察したいものがあるかを聞いて欲しいとの希望がありました。最後に、開始した場所に戻れば、途中で離されたような不安感を生じることはなく、帰り方が分かり安心感があるのではないかとのことでした。視覚障害者も障害の程度や興味が個々に違うので、基本シナリオのみではなく、一般の来館者と同様に経験を多く積むことによって、臨機応変に対応できるのが最も良いのではないか考えられました。それには、展示解説員が接遇の方法を修得し、両方の緊張感を取り除くことによって、解説に余裕が生まれ、相手に対しても安心感と好印象を与え、ゆとりを持って視覚障害者も解説を聞けるのではないかということになりました。

第二回は、全盲の方3名、同行の方1名、展示解説員2名、当館学芸員等3名で行いました。前回を参考に、どの様な見学を希望されているかお聞きしたところ、当館は初めてでよく分からないとのことでしたので、スタイルとしては前回担当した展示解説員の記録等を基に、展示部門の解説を合計75分かけて行った後、検討会を行いました。打ち合わせの段階では、視覚障害者の日常生活や、実際に海外に行かれたときの博物館の事情を、うち解けた雰囲気の中で当事者の立場で聞くことができました。特に、複数の視覚障害者がおられたので、話しかける時には必ず相手の名前を呼ぶように心掛けました。前回と違った条件としては、地学展示室でサメとクジラの脊椎骨化石、インドゾウの歯とマンモスのミニチュアが、体験学習室では魚・鳥・カエル等の骨格標本が追加されたことと、日曜日に行われたことでした。

館の概要を、一般案内板の前で具体的に行い、地学展示室では、入り口で構成を説明し、房総の大地の成り立ちを化石・地層・岩石等の展示物を使って、古い方から順々に新しい方へと展示していることを、前回の教訓を生かして解説しました。用意した触察物を、ケースの中に入っていて触察できない同じ展示物の前で触察していただきましたが、日曜日とあって入館者が多く、触察物の置く場所の確保に苦労しました。ナウマンゾウの複製頭骨の触察の場合、触る場合の中心となる基準を明確にしないと(写真)、牙・眼・歯の位置関係が不明瞭になることがわかりました。そして、人数が多いので、同行の方に手伝っていただいて、補助的な解説をお願いしました。海食洞では、手を叩くことによって、音の反響から空洞になっていることを理解していただきました。他の展示室については、入り口付近において、それぞれの展示室の概要を紹介しましたが、現在立っている館内の位置については、時計に例えて何時の方向にいると説明しました。また、小動物展示室では、水槽の数や生物について具体的に話しましたが、部屋の独特な匂いを感じていただくと共に、個々の説明は、同行の方の応援をいただきました。また、解説ということで口頭でどんどん説明するばかりではなく、パネルを読むことも大切である事が分かりました。自然と人間のかかわり展示室では、ジオラマの前で泉が湧きだしている林の様子を再現していることを説明していた時に、「声(鳥)がするよ、あ、キノコだ」と近くにいた子供が話していたのを聞いて、展示解説員から得られる情報以外にも展示物があるのに気づかれたのと同時に、一緒に博物館を見学しているとの一体感を持たれたとのことでした。体験学習室では、魚・鳥・サル・カエルなどの骨格標本に自由に触察していただきましたが、人数が多い場合、何時までと時間を決めて行ったほうが良かったようでした。

検討会では、人それぞれ考え方が違うので、その人がどうして欲しいか意向を聞くことが大事であることが話し合われました。そして、個々の展示物の説明も必要であり、なぜ、この展示物がここの場所に展示してあるのか、展示の意図も解説していただくと、博物館は何を情報として発信しているかが分かり易いとのことでした。体験学習室のように体系的に触察して比較できると、より一層興味が湧いてくるとのことでしたが、単に触るだけでなく、触察している時に触っているところが、どこで、どの様な意味があるのかを解説すると、触察の価値が一層高まり、更に、触察をしている時に解説を行う「間」の取り方を考えれば素晴らしい解説になると指摘されました。そして、多少展示室がにぎやかな中で、説明を求めたり、会話をしながら歩くのが、一緒に博物館で見学している雰囲気に浸ることができるとのことでした。特に解説で大切に感じたことは、展示解説員の一方的な押しつけにならないように、相手の意向や希望を聞くことであり、そのためには、視覚によって得られる展示室や展示物の状況や状態を正確に伝えて、そこから、再度相手から知りたい情報を聞くということが重要であり、それを行うには、練習や経験を多く積むことが大切であると考えられました。また、触察資料数が多くなると運搬の方法と触察場所の確保をどうするか、簡単な図や線画の立体コピー等がどの様に使用するか等の課題が生じました。

第三回は、全盲の方2名、弱視の方1名、同行の方3名、展示解説員2名、当館学芸員等2名で行いました。事前打ち合わせの後、展示部門の解説として、館の概要を約五分、触察物の多い地学展示室を80分・他の展示室はそれぞれの概要をまとめながら一周して約30分、体験学習室を40分の合計155分と非常に多くの時間をかけました。前二回と同様に、展示解説員を配置しましたが、違った条件は、前回課題となった、千葉県地図の立体コピーを用意したこと(写真)、触察物を運ぶものとして二段のワゴンを用意し、下段に触察資料を載せ、上段は触察のスペースとしたこと、そして新たに、地学展示室で千葉県及び沿岸の地形模型を学芸から借りたことです。打ち合わせの段階で、視覚障害者が千葉県在住の方だけではないので、千葉県地図の立体コピーを使用して、千葉県の地形、地名や川の位置関係を事前に説明しました。館の概要を解説した後、地学展示室の構成は大きく三つの分かれていて、時代順に展示されていることと触察できる物が12点ほどあることを伝えました。銚子の地名の場合、立体コピーに触察した時の位置を覚えていますかと、問いかけを行いました。解説は、展示物で触察できる岩石を中心に解説を進め、古銅輝石安山岩では、瀬戸内産と銚子産の物を叩いて音を比較し、同じ岩石でもなぜ違うのか考えてもらい、後で構成物が疎と密の関係であることを説明しました。古代ザメの歯の説明を行っていたところ、一般のお客様も聞かれていて、触察物に興味を持たれていたようなので、補助役の展示解説員がそのお客様にも、触っていただきました。今回は、新しく地球のプレートの話をするために地形模型を用意し、千葉県の位置を確認していただいてから、伊豆・小笠原海溝、相模トラフを指でなぞり、トラフの意味を理解していただきました。ただ、一人一人じっくり触っていただいたので、時間がかかってしまいました。地学展示室が終わった段階で、質問の有無を確認しました。他の展示室は、雰囲気を味わっていただく形になりましたが、歴史に興味を持たれている方がおられ、歴史展示室を一周する形になりました。ここでは、展示解説員が主導権を取らずに、同行の方と視覚障害者にお任せする方法をとり、聞かれた場合のみお答えするようにしました。体験学習室では、触察資料が多数あることから、概要説明の後、同行の方と共に自由見学していただき、基本的には、展示室を巡回しながらポイント解説を行うような体制を取りましたが、シカの剥製標本や骨格標本については、角先が危険なために安全面に注意していただくようにお願いしました。弱視の方に土器パズルを説明したところ、土器パズルの得意な男の子が近くにいて、教えてもらいながら挑戦していました。この様に、すべてを、展示解説員が主導的に行うのではなく、同行の方の協力を得、また、機会があるならば入館者との触れ合いの中に、博物館の特徴を取り入れられるように一歩下がった解説方法を取り入れました。また、電子走査顕微鏡を使って、ミクロの世界の画面を近くで見ていただきました。

検討会において、複雑な触察物は、少人数と多人数、触察の得手・不得手によって相当な時間幅が生じてしまい、待ち時間を費やす工夫が必要になることがわかりました。それでも、時間を気にするよりも、全体像をつかむことが必要なので、一人一人、しっかり触察し、一緒に見学を楽しむパートナーとして同行の方にも協力を得ることが大変重要ではないかと話し合われました。そして、触察物全てが、個人の興味と合致するとは限らず、触察物を多く使用する場合、事前の打ち合わせの段階でいかに個人の希望をお聞きすることが重要か再認識されました。触察物としての立体の地形模型と平面の立体コピーは、簡略化されたコピーの方が分かり易く、立体地形模型は約60センチメートル四方のものならば、十分手が届くので分かり易いとのことでした。視覚障害者・同行の方・展示解説員の関係で、展示解説員が、視覚障害者のそれぞれの希望を聞きながら、どの様に解説を組み立てて、同行の方にも協力していただくか、ますます、研修と経験が必要になると考えられました。

以上三回の検討会をとおして、視覚障害者と同行の方の率直な意見をお聞きすることができ、視覚障害も一様ではないことや、様々な見学目的を持たれて来館されていることが分かりました。解説前の事前打ち合わせの重要性を再確認するとともに、接遇の基本を習得し、通常行っている解説の中にご希望を取り入れていきたいと思っています。展示解説員は、心を込めて解説をしていますが、検討会の成果を基に、経験を積みながら、安心してゆとりを持って聞いていただき、中央博に来て良かった、また、来てみようかと思っていただけるよう、頑張りたいと思っています。

これらの検討会を実施している期間内にも、視覚障害者団体の方々(全盲の5名、弱視の方1名、同行の方7名)や全盲の1名と盲導犬・同行の方1名のグループ、その他にも多くの方が来館され、成果を踏まえた解説が行われました。

平成9年度からは、プロジェクトに携わった展示解説員が、他の展示解説員へ接遇の方法(写真)や新採用展示解説員研修に「障害者に対する研修」と題して、解説の心構えや技術の成果を詳細に後輩に伝えています(写真)。今後、更に、研修や経験を積んで切磋琢磨し、特別なことではなく、普通のサービスの一環として視覚障害者の方への解説を引き続き行って行きますので、ご来館をお待ちしています。

検討会でご協力いただいた、新井光美・上野佳与子・大西万知子・笠原優里・河田 満・河西佐和子・渋木敏子・高橋玲子・福本正幸・村上 錬・森 朋子・山口 崇・和田佐知子、常日頃からご指導いただいている前千葉県立盲学校成子良子先生、前展示解説員の小沼良子・福尾貴美子の各氏に、記して感謝いたします。

[目次]視覚障碍者に配慮した展示、教育活動について―国立科学博物館の事例

Copyright (c) Kanagawa Prefectural Museum of Natural History. All rights reserved.