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視覚障碍者に配慮した展示、教育活動について
―国立科学博物館の事例

濵田浄人
国立科学博物館

国立科学博物館は、東京都台東区の上野公園に位置しています。

我が国唯一の国立の自然科学に関する総合博物館として、自然史科学や科学技術史に関する資料の収集、調査研究を行うとともに、それらの成果を展示や教育活動という形で広く公開しています。

博物館の立地する上野公園とその周辺には、私どもの博物館の他にも東京国立博物館、国立西洋美術館、東京芸術大学芸術資料館、東京都美術館、上野の森美術館、東京都恩賜上野動物園、台東区立下町風俗資料館など多くの博物館があります。そのため休日には、家族連れや親しいグループなどで、また平日は学校等の団体見学やグループ見学など、たくさんの方が、これらの施設を見学・利用するために訪れています。

その中で、特に私どもの博物館には幼児、小学生、中学生の利用者が多く見られます(もちろん、それに付随して引率教員や保護者の方々も訪れています)。

そのため、展示や教育活動の実施にあたっては、これらの子どもたちを念頭に置くことも必要となります。

参加体験型展示「たんけん広場」

このようなことから、国立科学博物館では、昭和60年(1985年)に新しい展示室「たんけん館」を設置しました。この「たんけん館」は、当館に多く訪れる児童・生徒を主な対象としたもので、子どもたちが様々な装置や標本に実際に触れ、また操作することにより、科学的なものの見方、考え方を養い、自己教育力を育むことを目的としたものです。

また、「たんけん館」設置にともない、子どもたちの科学に対する関心や疑問を引き出す手助け役として、インストラクター制度を始めました。インストラクターには博物館の科学教育担当の専門職員(教育普及官)とともに、後に発足する教育ボランティア(1986年1月発足)があたることになりました。

この「たんけん館」設置後、学校団体等の博物館利用の方法が、それまでと比べて大きく変わってきました。

それまでは、1時間半や2時間の見学時間、子どもたちは自由に館内を見学するという形が多かったのですが、十分な事前準備もなく館内に放たれた子どもたちは、恐竜展示など主な展示をひとしきり見たあとは、しばしば見る目的もないまま時間をつぶしているような状態も見られました。ところが、「たんけん館」を設置したあとは、インストラクターによる見学前のオリエンテーションを始めたこともあり、子どもたちは「たんけん館」でインストラクターとともに遊びながら「たんけん」するとともに、それ以外の展示室でも博物館への親しみを深めたためか、より積極的に展示に接するようになったようです。

また、このような変化に伴い、博物館サイドでも、これまで以上に学校等の利用団体との事前打ち合わせを積極的に行うようになりました。

1994年、「たんけん館」のあった建物は新館建設のため、取り壊されましたが、展示室を替え、「たんけんフロア」として運営を続け、1999年春の新館常設展示公開に伴い、「たんけん広場」と名称を変え、装いもあらたにリニューアル・オープンしました。

視覚障碍者とたんけん広場

従来の展示は、その多くがガラスケースの中や、手すりの奥に置かれ、見学者はそれらを離れて見るのみだったのですが、「たんけん広場」では、様々な実験装置や、ニホンジカ、タヌキなどの剥製標本、化石が展示室内にむき出しになって展示されています。

これは、参加体験型の展示の特徴でもあり、見学者が単に見るのみでなく、様々なかたちで積極的に展示に関わることができるようになっているのです。

言い方を替えれば、これまでの展示がほとんど視覚にのみ頼っていたのに比べ、「たんけん広場」などの参加体験型展示は視覚だけでなく触覚や聴覚など、五感を広く使って展示を体験できるようになっています。

このことは、視覚障碍者の博物館利用に大きな変化をもたらしました。

それまでは、事前の要望に応じて、館内の学習室で化石などの標本に触れるようセッティングすることはあったのですが、気軽にいつでも来館、利用できるという状態ではありませんでした。ところが、このたんけん広場の存在により、盲学校等の視覚障碍児も、他の利用者とともに、様々な標本を触りながら、展示を楽しむことができるようになっています。

探求コーナー

たんけん広場の一角に、「探求コーナー」というスペースがあります。ここには、小形の剥製標本や、骨格標本、化石標本、人骨模型、理化学関係の実験器具、顕微鏡各種(電子顕微鏡、生物顕微鏡、実体顕微鏡など)が置かれています。

これらを活用し、また新たな標本等を教材として加えながら、国立科学博物館の教育普及官が様々な実験・観察プログラムを開発しています。これまで、「動物の骨」「化石のいろいろ」「土の中の小さな生きもの」「光であそぼう」など、50種以上のプログラムがすでに開発されました。

展示では実現が難しい、これらの体験学習プログラムは、教育普及官と教育ボランティアが担当となって、開館日の午後1時から3時まで、一般に公開しています。

また、平日の午前中は学校等の団体が利用することもできます。事前に打ち合わせてどのようなプログラムを実施するか相談することになりますが、盲学校等特殊教育諸学校の利用もかなり見られます。顕微鏡を使っての観察は困難なことも多いため、動物化石や植物化石、骨格標本を用いた観察プログラムを実施する例が多いようです。

教育ボランティア

以上あげた「たんけん広場」、「探求コーナー」のいずれにしても、当館の教育ボランティアが大きな役割を果たしています。

現在、教育ボランティアとして約230名の方々が登録されています。週1回、決まった曜日に活動するようになっており、1日平均30人強の方が来館され、「たんけん広場」「総合案内所」「探求コーナー」「サイエンス・シアター」など、館内各所で活動しています。

見学者からも「親しみやすい」などの声をいただいていますが、特に障碍者等の見学にあたっては、ボランティアの手助けにより、大きな効果をあげていると思います。視覚障碍者の「たんけん広場」や「探求コーナー」の利用においても、マンツーマンに近い密度の濃い手助けができる状態になっています。

また、ボランティアから、障碍者が使いやすい博物館を目指して、様々な意見や要望が出されるほか、ボランティアによる手話の学習会なども開かれています。

国立科学博物館ニュースのテープ貸し出し

国立科学博物館では、広報誌として「国立科学博物館ニュース」(月刊)を発行していますが、毎月、発行後すぐに、教育ボランティアが朗読し、テープに吹き込んでいます。このテープは、当館から目の不自由な方に貸し出すとともに、日本点字図書館にも寄贈しています。

関心のある方は、お問い合わせいただきたいと思います。

教育用標本貸し出し事業

博物館には、たくさんの標本が収められていますが、それらの中から学校や社会教育施設などに気軽に貸し出せるよう、標本のセットを作成し、ジュラルミンケースに入れて貸し出しています。

今あるセットは、「化石」「岩石鉱物」「隕石」「骨格」「頭骨」です。貸し出し期間は2週間、送料等は利用者負担になりますが、宅配便を利用するため、それほどかかりません。

「化石」には、点字の解説シートもついているセットもありますので、学校の授業での教材や、小規模な体験型展示としても利用できると思います。ご希望の方はご連絡ください。

おわりに

国立科学博物館の本館は、1930年(昭和5年)に落成した建物です。1923年(大正12年)に起きた関東大震災で、当時の博物館の建物が全焼してしまったこともあり、今の建物は関東大地震級の地震が発生しても倒壊しないような耐震耐火設計になっています。頑丈なのはいいのですが、古い建物でもあり、身体障碍者にとって決して使いやすい構造とは言えません。また、その他の建物にしても、三階から五階建ての建物がバラバラと建っており、展示室を一回りするのも大変な状態です。

このように、ハード面はまだまだという感がしますが、教育ボランティア活動をはじめとしたソフト面で、少しずつ障碍者にも使いやすくなってきたのではないかと思います。もちろん、「たんけん広場」「探求コーナー」などは、特に視覚障碍者だけを対象に作成した展示室・学習室ではありません。しかし、子どもたちを始め、博物館に来る様々な利用者を念頭に置いて作成したこれらの参加体験型の施設は、障碍者だけでなく、広く多くの方に使いやすいものとなっています。

障害者基本法第22条の2に触れるまでもなく、博物館のような公共的施設は(当館の場合は国が設置した博物館であるから一層そうですが)、構造、設備、展示、教育活動の各面について、障碍者が使いやすいように配慮していかなければなりません。本館等、古くからある建物の大規模な改修は難しいですが、博物館には障碍者、幼児、高齢者等様々な利用者が来られるということを常に念頭に置き、これからも、施設面とともに、展示、教育活動の面で、広く利用しやすい博物館を目指していきたいと思います。

問い合わせ先 電話03(3822)0111(代表)

[目次]身体障害者対応について若干の報告

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