[戻る]

身体障害者対応について若干の報告

山崎尚之
江戸東京博物館

はじめに

江戸東京博物館は平成5年3月に開館し、平成10年の3月で5周年をむかえました。比較的新しい博物館ということもあり、バリアフリーについては開館時から取り組んでいます。今回の記念事業および論集は「視覚障害者と博物館」ということがテーマのようですが、もう少し広くとらえて江戸東京博物館での障害者対応の5年間の状況をいくつかの点について概観してみたいと思います。

身体障害者対応

平成9年3月に発行した「江戸東京博物館建設のあゆみ―建設と開設準備の記録―」の74ページに「身体障害者への対応」として以下のような施設設備がなされたことが簡略に書かれています。

身体障害者の施設については、財務局営繕部が東京都における「福祉のまちづくり整備指針」に従い整備を進めるよう建築設備関係事業者へ指示

視覚障害者のための触察展示(「手でみる展示」)製作や点字ガイドブック作成には、江戸東京歴史財団職員が社会福祉法人日本点字図書館の指導や視覚障害者の方々の助言を受け準備

身体障害者のための施策内容は次のとおり

  1. エントランス
    • 車寄せの歩道と車道の段差を2センチメートル以下に設定
    • 入口に自動扉の設置
    • 触知案内板の設置(サイン工事)
    • 車椅子利用者駐車場3台分の用意
    • 誘導鈴の設置
  2. 便所
    • 車椅子用便所の四階を除く各階への設置(四階は非公開部分です。以下「四階を除く」と出てくるのはすべて同じ理由)
    • 一部の便器への手すりの設置
  3. 客席
    • 車椅子専用スペースの設置
      ホール・・・4台分
      映像ホール・・・2台分
    • ホール内への、イヤホン利用の難聴者用設備の設置(床にループコイル)   
    • 映像ライブラリーへの車椅子対応ブースの設置
  4. エレベータ
    • 車椅子対応型の設置
      非常用エレベータ・・・4台、展望用エレベータ…2台
      洋風レストラン用エレベータ・・・1台
  5. エスカレータ   
    • 五階六階間移動のエスカレータの車椅子対応型・福祉型の設置
      車椅子対応型:人の介添えにより、車椅子ごと乗り降り可能
      福祉型:ステップの水平部分が踏み板3枚分(約120センチメートル)になるもの
  6. 公衆電話
    • 四階を除く各階電話機1台の車椅子対応(低い位置)
    • 四階を除く各階1台の難聴用の電話機(音量調整可能)設置
  7. 水飲み機
    • 車椅子対応型(都庁と同型)の設置
  8. 誘導
    • 一階および三階の案内所までの誘導ブロックの設置
  9. 緊急時対応
    • 来館者の主導線にあたる避難口誘導灯の誘導音付加点滅型の設置   
    • 避難口ドアの把手のパニックハンドルの使用
  10. 触察展示
    • 常設展示室五階へ視覚障害者のための触察展示(「手でみる展示」)の用意
  11. 視覚障害者用ガイドブック
    • 点字と大きい文字による博物館ガイドブックの作成

実際の状況

以上長々と引用しましたが、この中から開館から現在までの間に来館者と接することで気がついたことをいくつか拾いあげたいと思います。

2.便所については、ひとつは小さなことですが、車椅子用便所の水洗用ボタンとトラブル発生時の外部通報用ボタンの見分けがつかず、誤ってしまうケースが多いことです。内部の警備担当者はそのたびに駆けつけなければならないため困っています。実際のトラブルになったことがなく幸いですが、トラブル発生時にタイミングよく対処できるためにも、デザインだけにとらわれず分かりやすさを追求したものでなければならないと思います。

また、これは高齢者時代を向かえるにあたって必要になってくると思えるのですが、高齢で身体の不自由な方のためのおむつ交換ができる場所の確保です。江戸東京博物館は歴史系の博物館で高齢者の方々の割合が多く、最近の企画展などでは来館者の二分の一近くが高齢者である日もあります。このような高齢者の方の中には、身体が不自由でご自身では身の回りの世話ができず、介添えの方と来館される方がいます。そのような場合に展示室に入る前に介添えの方が換えておきたいということで、そのようなスペースの有無を尋ねられることがあります。江戸東京博物館には救護室があるのですが、実際にはこの部屋が本来の救護という目的で年中使用される場所ではないため、バックヤードスペースとして一部が他の用途に利用されており、この部屋では交換ができなくて空いている会議室、学習室を使用していただいているというのが実状です。もちろん便所にはベビーベッドがありますが、大きさやまた本人の人格を無視することになるので便所のベビーベッドは使えません。このような方のためにこれからの博物館にはパーティションで見えなく囲われたコーナーや部屋の確保が必要かと思われます。

4.エレベータと5.エスカレータですが、江戸博の常設展示は最初に六階の展示を見てから五階の展示を見るという順路になっています。六階から五階に移動する手段としてエレベータとエスカレータがあるわけですが、現在車椅子の方はすべてエレベータにより移動していただいています。これはエレベータのほうが安全だからという理由によるものです。

10.江戸博の触察展示は小さなスペースなのですが、物に触れられるコーナーとしてお子さんたちに人気があります。また、触っているのは健常者の方が大多数で割合からすれば視覚障害者の方はずっと少なくなっています。このコーナーの問題は展示物が壊されることです。実際に古い物にも触っていただいているため、展示物自体が脆くなっていて壊れてしまう場合もあります。しかし、一方で点字説明板を台からはがそうとしたり、展示品をつないでいるワイヤーを切るなど触っていて壊れたとはいえないものもあります。確かに触る人の立場から検証して、丈夫に作成する必要もあるとは思いますが、基本的に来館者の良識を待つよりほかありません。1998年春に福岡県の動物園でゴマフアザラシがお客の与えたおもちゃなどで腸閉塞をおこして死亡するという事件がありました。生物と博物館資料の違いはありますが、共通するものがあるのではと思います。博物館が来館者にとってより身近な存在になってゆく過程ではさけられないことかもしれません(そのように努めている博物館では既にきちんと対処されていて、ここでとりあげてもしかたがないことかとは思いますが、当館の状況ということで述べさせていただきました)。

11.視覚障害者用ガイドブックは「江戸東京博物館見学のしおり」といい、「江戸東京博物館ご案内」という健常者向けの12ページの全館案内を点字と弱視者用の大きい文字であらわしたものです。これは平成5年3月に初版を発行して以来、平成10年4月までに改訂第四刷を出しました。実際は変更になった部分を差し替えるという加除式でおこなっており、今年度は200部ほど作成しました。これを来館された視覚障害の方に差し上げています。昨年度は100部ほど差し上げました。実際の展示(常設展示)については、イヤホンレシーバーをお貸しするようにしています。これは各コーナーごとの解説をレシーバーからイヤホンで聞くもので、日本語のほかに英語、中国語、ハングルがあり、お貸しするときに保証金を預からせていただいています(保証金は平成10年4月から1000円になりました)。介添えの方などには自分たちが展示室でずっと説明するよりもあらましをこれで説明されたほうが便利だということで好評です。この装置は主に外国人対応用に設置されたものですが、視覚障害者の方々への対応という点でも有効な装置です。

また、これは今までになかった点ですが、車椅子の方からすると展示台の高さが高かったり、手すりや展示解説板で資料ケースが遠いため資料や模型が見えにくいということがあります。展示台の高さは健常者の大人や児童など視線の高さが違うため簡単には決められないと思いますが、やはり配慮が必要だろうとの指摘を受けています。

おわりに

以上雑駁にいくつかの点について取り上げ述べてきました。もちろん、まだ触れていない問題もありますが、これらの点について具体的にもっともよく知っているのは、展示室に常時いて来館者の対応をしている者―江戸博の場合は展示室の案内をしている案内担当や警備担当です。学芸員は企画展の実施や資料の調査研究など忙しく、館内の身体障害者用設備の利用状況を細部まで知ることはできません。そのような学芸員の行き届かない点を補うためにも来館者と接する人びととのコミュニケーションは大切です。その中から学芸員は日々の業務で対応できることとリニューアル時に対処すべきことを見極めて配慮していくことが必要と思います。

[目次]名古屋市博物館の「触れてみる学習室」について

Copyright (c) Kanagawa Prefectural Museum of Natural History. All rights reserved.