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視・聴覚障害者の認識支援について
―全国調査におけるから博物館スタッフの意見から―

村上良知
熊本県立大学

はじめに

博物館の基本的な機能は、多様な形態の展示を媒介にしてその背後にある知識体系を得ることである。しかし、視・聴覚障害者にはこの本質的な点でハンディキャップがあり、展示の認識を支援するために、博物館はソフト・ハード両面のさまざまな配慮をしなければならない。これは、障害者にとっては生活圏と内的世界の拡大につながり、博物館にとっては共生社会の生涯学習の拠点施設としての本質を問われる問題である。

筆者は九七年に全国の主要な博物館に対して、視・聴覚障害者の配慮水準に関するアンケート調査を行った(注1)。結果の詳細は別に譲り(注2)、本稿は視点を変えて、調査票の自由回答欄の記述を手がかりに、視・聴覚障害者に対する配慮のあり方を考えたものである。自由回答欄には博物館職員が最も重要だと判断したことが記述された可能性が高く示唆的であると考える。以下、手法、理念、普及の3つの視点で見ていく。

認識支援の手法について

1.人的対応

(1)消極的な人的対応:機器や設備による配慮は財政的に困難であるので、人的対応にならざるを得ないという意見で、「設備・予算が不足。担当者が個別に対応するしか方法がない(19:整理番号)」「建物・人的な不足を嘆いてもしようがない。現状を受け入れ、係員が付き添うなどできる限りの対応をしたい(76)」等が代表的な意見で、多くの博物館の共通の問題である。

(2)積極的な人的対応:逆に、機器や設備による対応だけでは不十分であり、スタッフが直接に解説する方法を、細かく理解しやすい解説ができる手法であると積極的に位置付けた意見であり、記述数も多い。「施設・設備面の充実が最低限必要であるが、これだけでは細かな対応に欠ける。人的対応の充実が望ましい(38)」「音声・ビジュアル即機械でなく、人的対応の方が理解しやすい(23)」「設備も大切だが、最終的にはその館の人々の暖かい対応が一番(636)」

(3)ボランティアの育成:「職員が障害者と接し、現場からのアドバイスが必要。対応できる職員の充実。講座を開講しボランティアの育成・登録を行い、解説勉強会等を続けている。その中で手話・点字等のボランティアの育成を行う計画(654)」「職員だけでは全ての障害者の案内や解説は困難。ボランティアを充実しサービス向上(143)」等、対応者としてボランティアに期待する意見が多い。

(4)研修や専門職の必要性:職員には障害者に対する理解、対応方法の知識や経験が求められ、研修が重要である。手話ができる専門職員が必要であるとする意見もある。「研修で障害者への対応を習得する必要。手話の研究を計画(377)」「ボランティアや職員がマンツーマンで質問や説明を行う方が血のかよった対応で、柔軟に対応できる。ただ、不慣れで知識もないので、ボランティアや職員に対する体系的・組織的教育(202)」などである。

2.機器よる認識支援手法の提案

視覚障害者に対して「博物館が元来「見る」ことに重点があるため、特別の工夫が必要。音声による説明と、「触れる」、「体で感じる」、「音で想像する」ことのできる展示コーナーを要所に設ける。健常者の理解も深める(1034)」という認識から、「触れる資料の展示。音声資料の展示。音声による展示解説。必要に応じて点字の表示(102)」、大きな文字のキャプション、「音声ガイドと展示品ごとの解説(236)」「電子機器による解説の導入(366)」「バーチャルリアリティーによる移動博物館(457)」などが提案されている。

聴覚障害者に対しては、「アストロビジョン、プラネタリウムの文字投映も可能な装置(57)」「分かり易くて大きな字の展示解説、館内表示」等の意見がある。

ただ、これらはすでに実施されており、新しい手法の提案は意外に少ない。

基本的理念と障害者のニーズの把握

1.博物館のあり方

博物館の生涯教育の核としての役割や理念が語られている。「誰もが学べて楽しめる考え方を基本に企画運営(578)」「地域文化の継承と社会教育の振興を願う博物館の目的から・・・今後充実(544)」「点字や音声だけでなく、五感をフルに刺激する展示(265)」等。その中で、障害者への配慮の重要性は深く確認されている。「視覚・聴覚障害者に限らず、バリアフリーへの対応は急務(294)」「それ以前に国民レベルでの博物館利用の意識の高まりが必要(244)」「障害者の方がもっと気安く出かけられる環境(44)」条件整備などの意見は多い。

2.障害者のニーズ把握の要望

理念のレベルでは十分に認識されているが、具体的な手法や整備の体系的知識のレベルでは明確な指針がなく、博物館の困惑がみられる。「手法がわからない。ノウハウの共用・公開が必要(184)」「マニュアル(237)」「専門家・専門業者の方からアドバイスや障害者から直接ニーズをお伺いして・・(245)」など障害者の要望を把握したいとする意見が多い。

3.建設プロセスへの反映

「設計段階で専門的職員を交えた話し合いが必要。完成後の追加は予算的にも無理(187)」という指摘や「企画設計段階での障害者の参画(1021)」など、建設プロセスや利用者参加についての指摘や「展示業者へのフィードバック(184)」等展示業者に言及した意見もある。

配慮手法の実現と普及について

1.整備の困難性

障害者への配慮の必要性は認めつつも悲観的な意見も多い。まず、整備の余裕がないという切実な意見である。「厳しい財政状況で、(略)館の事業・運営に苦慮している状況。視覚・聴覚障害者への対応を考える状況にない(223)」「建設時、維持管理共に予算がつかない事には始まらない。当館のような小規模施設では特に切実な問題(362)」「障害者まで力が及びません(387)」。また、触察にはなじまない展示物が多い館で「国宝・重要文化財などほとんどが指定文化財(430)」「文学施設は、作家の内面という目に見えない世界を目に見える形で提示することによってそこから生み出された文学作品へと人々の関心を誘う試みで、視覚障害者には難しい」など配慮方法に関する意見も多い。

2.公的な資金援助の要望

財政的な困難から、「国や自治体が零細な企業博物館に公金で援助すべき。企業博物館といえども社会的に大きく貢献(473)」など公的な資金援助を求めるコメントが極めて多い。

おわりに

博物館職員の意見を概観した。これらをふまえ、最後にやや大胆ではあるが今後の展望にふれたい。第一は博物館スタッフは、設備の充実を前提にしつつ、人的対応を重視している。財政的に設備を充実できない代償という面がない訳ではないが、柔軟できめ細かく分かりやすい解説ができる点で機器設備より優れていると認識されている。このことは配慮を考える上で基本的に重要である。職員の研修、訓練、ボランティアの組織化などの課題も多い。

第二に人的な対応の重視が設備・機器の重要性を損なうものではないのはいうまでもない。電子機器の急速な進歩は、この分野の飛躍的な発展を促すと予想される。たとえば、音声・点字・文字などのメディアが合体した小さな端末などはすぐにでも実現できる技術であろう。このような機器は建物の大改修を伴わずに適用できる。

第三に博物館全体の飛躍的な普及のためには公的な資金と技術的な研究・普及システムへの公的援助が不可欠である。少数の博物館が先進的な試みを蓄積しつつある一方で、全国の多くの博物館では、整備できない状態がある。個々の博物館が単独で進めるには限界があり、あきらめに近いコメントを述べた館も少なくない。

第四に、配慮手法の開発でも個々の博物館の努力の範囲を超えている。博物館の横断組織的な研究、成果の蓄積、普及が必要である。この点で公共図書館の発展過程に学ぶべき点は多いと思う。

このような多くの課題があるものの、博物館が共生社会において地域の文化の核たる役割が求められているという社会的条件と、博物館が障害者のための配慮の重要性を深く認識しているという内発的条件が成熟しつつある今日、少し楽観的ではあるが、飛躍的な普及は近いと考えている。


(注1)調査は715館へ送付し、有効回収数は522(回収率は73%)。自由回答を得たのは187館である。

(注2)「博物館における視覚・聴覚障害者に対する配慮に関する全国調査」熊本県立大学 生活科学部 紀要第4号 1998年3月

[目次]知るために触る―博物館資料の再考―

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