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ユニバーサル・ミュージアムをめざして

田口公則・鈴木智明・奥野花代子・濱田隆土
神奈川県立生命の星・地球博物館 3周年記念実行委員会

はじめに

当館は今年3月で開館3周年を迎えます。

この3周年を記念し色々な行事を計画しています。周年事業では、外に向けての問題提起を行い、併せて館の主張やコンセプトをさらに明確にしていき、博物館が社会的に果たす役割をひろげていきたいと願います。

今回のシンポジウムでは、障害者、非障害者にかかわらず博物館を共有できるユニバーサル的なミュージアムをめざして、先ずは視覚障害者と博物館の視点から検討を試みたいと思います。

視覚障害者と博物館

「ユニバーサル・ミュージアムをめざして―視覚障害者と博物館―」がシンポジウムのタイトルです。

現在、ノーマライゼーション(平等参加)のもとに各方面でバリアフリーに関心がもたれています。公共の図書館が点字図書や対面朗読等の視覚障害者への対応を進めているにもかかわらず、同じ社会教育施設である博物舘での対応は十分とはいえない状況です。これは図書館が主に文字情報を提供しているのに対して、博物館においては『モノ』により情報提供を行っていることが多く、利用する側・される側とも『モノを見る』ということを中心に考えているためです。しかし、かなり多くの身体障害者が博物館を利用されるようになった現在、視覚障害者にも同様に開かれた博物館づくりをめざすべきでしょう。

当館では、視覚障害者のために展示資料の説明として音声ガイド機を用意しています。このガイド機には展示についての館長とガイドアナウンサーとのやり取りが録音されており、視覚障害者だけではなく、どなたにでも興味が持てる内容となっています。視覚障害者へのバリアを取り除くことを目的としていたことが、結果的にはすべての人に展示解説を補足するものとなりました。実は、このことが「ユニバーサル・デザイン」の考え方につながっており、すべての人々への自然な平等参加になるといえます。

ユニバーサル・デザイン

ユニバーサル・デザイン(Universal Design)とは、提唱者のロナルド・メイス(Ron Mace)によると、「できうる限り最大限、すべての人に利用可能であるように製品、建物、空間をデザインすることを意味する」と説明されています。つまり、障害者のためだけのデザインではなく、高齢者、妊婦、小さな子供などを含むすべての人に利用できる製品や環境をデザインすることを指しています。ユニバーサル・デザインの支持者たちによって、デザインのための原則が七つにまとめられています。

ユニバーサル・デザインの7原則

(出典―http://trace.wisc.edu/docs/ud_princ/ud_princ.htm、訳‐松本 廣・小林 巌)

  1. 公平な利用―どのようなグループに属する利用者にとっても有益であり、購入可能であるようにデザインする。
  2. 利用における柔軟性―幅広い人たちの好みや能力に有効であるようにデザインする。
  3. 単純で直感的な利用―理解が容易であり、利用者の経験や、知識、言語カ、集中の程度に依存しないようデザインする。
  4. わかりやすい情報―周囲の状況あるいは利用者の感覚能力に関係なく利用者に必要な情報が効果的に伝わるようデザインする。
  5. 間違いに対する寛大さ―危険な状態や予期あるいは意図しない操作による不都合な結果は、最小限に押さえるようにデザインする。
  6. 身体的負担少なく―能率的で快適であり、そして疲れないようにデザインする。
  7. 接近や利用に際する大きさと広さ―利用者の体の大きさや、姿勢、移動能力にかかわらず、近寄ったり、手が届いたり、手作業したりすることが出来る適切な大きさと広さを提供する。

この原則は、デザイナーと利用者の両者に、より利用しやすい製品や環境の特色を気づかせるためにまとめられたものですが、博物館の仕事に携わる者や利用者にとっても参考となりそうです。とくにユニバーサル・デザインの概念がデザインからスタートしていることもあり、展示企画を考える際には大きな指針となると思われます。さらに、このユニバーサル・デザイン概念の背景には、その商品力によって製品を開発する側にもメリットが生まれ、産業が活性化することが重要な要素としてあげられています。この点でもすべての人に開かれたデザインといえます。博物館の場合、その商品力は、よくいわれるように資料の収集・保存、調査・研究、展示、学習・普及の四つの柱が機能する包括的な力といえます。すべての人にやさしく、それぞれの機能が全体としても充実するようにデザインされた博物館づくりが「ユニバーサル・ミュージアム」理想の姿といえましょう。

ユニバーサル・ミュージアムをめざして

ユニバーサルの観点では、「もの」を展示し情報を提供するという点で博物館と共通性をもつ美術館でいくつかの試みが進んでいるようです。「タッチ・エキシビション」といわれているような作品に触れて鑑賞することのできる展覧会のことです。それまでの視覚優先の展覧会に手で触れる鑑賞をとりいれた形態は、「触」を体感する新しい鑑賞の可能性をひろげています。ある美術館では、これを「視覚障害者のための展覧会」とこだわるのではなく、視覚障害者、晴眼者をとわず純粋に「触」を鑑賞するものと位置づけています。ユニバーサルの考え方に協調できる新しい潮流を感じる企画だと思います。

博物館の分野で、すべてのユニバーサル・デザインを満たしたユニバーサル・ミュージアムをつくることは現実には難しいことです。しかし、バリアの一つ一つを改善クリアしていき、バリアフリーの実績の積み重ねによってユニバーサルをめぎすことは、博物館にとって素晴らしいことでしょう。博物館に携わる人々に新しいユニバーサルという考え方が意識されるとともに、それを育むような社会になることが期待されます。


参考(1998.3.13.)

※3周年記念実行委員会 1998 ユニバーサル・ミュージアムをめざして.「自然科学のとびら」第4巻第1号3頁より転載

[目次]あとがき

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