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現在、満々と水をたたえる宮ケ瀬湖(清川村、津久井、愛川町)の湖底には、丹沢の衝突を物語る貝化石が眠っている。丹沢と本州が衝突する少し前、丹沢と本州の間には狭くて深い海が存在していた。その海でできた地層が貝化石を産する落合層である。
この地層には、北側の関東山地と南側の丹沢の両方の礫(れき=小岩石片)を含み、それは狭い海の存在を示している。また、落合層の貝化石の構成から海の深さや環境を推定できる。
落合層には、サザエ、アワビ、ウラウズガイ、ヘビガイの仲間など、岩場に棲(す)む貝の化石が多い。また、浅海の砂底に棲むビノスガイ、ダイニチフミガイ、イタヤガイの仲間なども多い。
一方、キヌジサメザンショウといった深海の貝の化石が見つかることで、この地層の堆積(たいせき)深度が水深一、〇〇〇メートルまで達していたことも分かる。つまり、浅い所から、礫とさまざまな深度に棲む貝が流れ込み、深い海へ堆積したものが落合層なのである。
面白いのはケショウシラトリの貝化石である。この貝は、北海道では潮間帯に、相模湾では深海に生息している。黒潮が流れる相模湾では水深一、〇〇〇メートルもの深海に生息しているのである。深海の海に堆積した落合層の砂の地層からは、二枚の殻がそろったケショウシラトリが産出する。
つまり、流されてきた貝ではなく、深海に棲んでいたケショウシラトリであり、この貝は暖流を避けて深海に生息していたとも考えられるのである。事実、落合層の浅海性の貝には、暖流の存在を示唆する南方系の種類が多く含まれている。
およそ六百万〜五百万年前、丹沢と本州の間には暖流が注ぐ、狭くて深い海が存在していたことが宮ケ瀬の地層からわかるのである。
(県立生命の星・地球博物館学芸員 田口公則)
左上から時計回りに、アオシマオキナエビス、ダイニチフミガイ、ケショウシラトリ、キヌジサメザンショウ、ミウラニシキ、サザエ属の一種
※ 2003年12月9日に、神奈川新聞に掲載された記事を再録しました。
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