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丹沢の自然

細々とツキノワグマ

 神奈川県では、唯一、丹沢だけにツキノワグマが生息するが、丹沢でクマに出合ったという話はあまり聞かない。六百平方キロの範囲に、わずか三十数頭という密度の低さを考えると当然ともいえる。

 ツキノワグマは本州に生息する最大級の食肉類だが、主な食べ物は果実や葉、花などの植物性のものである。クマが木に登って採食した跡はクマ棚といい、大きな鳥の巣のようにみえる。

 丹沢では、コナラやミズキなどにクマ棚がよく見られる。現在、クマが登れるほどのこれらの木は、森の中にパッチ状に分布するだけとなり、クマたちは広範囲を歩き回らなければならない。丹沢のクマの遊動域は、白神山地の広大なブナ林のクマの二倍近くにもなる。

 狩猟や伐採、道路工事などによってかく乱されることのない越冬地が確保されることもクマの生息には重要である。丹沢の場合、このような越冬地が限られることも、生息数が頭うちとなる要因の一つである。

 丹沢のクマにとって最大の問題は、個体群が小さく、孤立化していることである。小集団は、急激な環境変動などによるダメージを受けやすい。また、孤立化によって近親交配の危険がふえ、集団の中の遺伝的多様性が減少すると、産子数や生存率が低下する。実際、白神山地や奥多摩と比較すると、丹沢の個体群は遺伝的多様性が小さく、危機的な状況にある。

 丹沢から富士山一帯までを緑地帯でつなぐ、緑の回廊計画が林野庁によって設定され、現在整備中である。回廊によって丹沢と富士山がつながり、野生動物たちの移動が可能になると、丹沢のツキノワグマの窮状を救えるのではないかと期待している。

(県立生命の星・地球博物館学芸員 広谷 浩子)

クマ棚

丹沢・大山で発見されたクマ棚(撮影:青木雄司)


※ 2003年12月18日に、神奈川新聞に掲載された記事を再録しました。

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