みなかん

さかなだより
小田原の在来メダカ個体群に遺伝子汚染の危機!!

在来種 神奈川県小田原市の酒匂川左岸側にある農業用水路と、その用水路の酒匂川本流と の合流点付近にある河川敷内の池には、いわゆる在来のメダカが分布している(写真右)。このメダカは、現在では神奈川県下唯一の在来個体群である可能性が高く、 1979年、1991年、1998年の3回にわたって行われた遺伝的調査により、少なくとも過 去20年間にわたって遺伝子組成に変化がないことがわかっている(酒泉ほか, 1999: 神奈川自然誌資料, No. 20, pp. 61-64)。

小田原市内では、過去に観賞魚店などか ら入手されたメダカが放流された事例が少数知られているが、幸いなことに在来個体群に影響のない場所でのことであり、それらのメダカが自然水域に定着したという事 実は今のところない。

ところが1997年から1999年4月にかけてのことであるが、小田原市に隣接する南足柄市内に造成された要定川調整池で、出所不明のメダカの繁殖が確認され、さらに、同年6月になって、いわゆる「ヒメダカ」の混入も確認されたのである。

この調整池は1本の通路により隣接する要定川と連絡しており、河川の氾濫を未然 に防ぐ役目を担っている。通路の底は池側では池の水面とちょうど同じレベルにある が、川側では平常時の河川の水位からはかなり上方に設置されているため、通常の降 雨時には池から河川へ排水される。しかし、通路の底のレベルを越えるような河川の 極端な増水時には、河川からの水が逆に調整池へ流入する。
この仕組み故に、降雨のたびに池内で繁殖したメダカが要定川へ流出するのはほとんど避けられない状況にあると考えられる。特に大雨による増水で、池と川が通路により完全に連絡してしまう ような状況下ではなおさらである。

問題はこれら出所不明のメダカたちが、調整池から要定川へ流れ出し、上記在来個 体群と交雑する危険性があることである。
要定川は狩川を経て最終的には酒匂川の右岸側に合流するが、合流点の対岸はちょうど上述の在来個体群の繁殖地になっている 。ここのメダカが降雨により流出した場合、通常は酒匂川本流の流れによって遮られ 、繁殖地への混入はないと思われるが、本流が大幅に増水した場合には両者が混じり合ってしまう可能性はきわめて高い。

もし、これら出所不明のメダカの混入による在来個体群への遺伝子汚染が起これば 、市民団体や市内の小学校が中心になって盛り上がりを見せている『生息地の保全や在来個体群の保護活動』に水を差すことになるし、何よりも県内唯一の貴重な在来個体群 の学術的価値を著しく低下させることになる。

1999年7月現在、「ヒメダカ」と「出所不明のメダカ」との交雑が進行中であり(写真下参照)、この交雑個体が在来個体群への遺伝子汚染源になる可能性があることは明白である。

メダカ
従って、在来個体群の保護のためには何らかの手段で調整池内のメダカを早急に取り除く必要があることだけは間違いない。技術的には市の協力さえ得られれば、市民等による有志によ って容易に実現できる取り組みのはずであり、早期の実現を期待したい。

添付画像の説明
1. 在来のメダカ(KPM-NI 5393, 小田原市産)
2. 「ヒメダカ」の特徴を部分的に持つメダカ(KPM-NI 6673, 南足柄市要定川調整池産)
3. 「ヒメダカ」の特徴が強くでているメダカ(KPM-NI 6674, 南足柄市要定川調整池産)
*2と3は出所不明のメダカとヒメダカの交雑個体

瀬能 宏(神奈川県立生命の星・地球博物館)


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