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ユニバーサル・ミュージアムをめざして―視覚障害者と博物館― ―生命の星・地球博物館開館三周年記念論集―』39-45ページ

参加体験型の博物館における視覚障害者への対応

的場伸一
ミュージアムパーク茨城県自然史博物館

まとば・しんいち 3周年の記念事業としてこのようなシンポジウムをもたれるということ、それからまた初めて見学させていただいた時から、この博物館には何かあたたかさを感じております。

 茨城県自然史博物館は、平成6年11月にオープンいたしまして、3年半を迎えます。その開館に際しましては、こちらの濱田館長先生に多大なご協力をいただきました。大変ありがとうございました。そんな訳で、こちらの生命の星・地球博物館と、私共の博物館とはいろいろな共通点があるように思います。これからも益々交流を深めさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。スライドがたくさんあるものですから、手短にやりたいと思います。

 まず、茨城県の自然博物館の全景でございます。屋根の上に翼のようなものが5基あります。冬に白鳥が二、三百羽飛来しますので、それをイメージしたものです。

 入口でございます。博物館の敷地は16ヘクタールほどあり、里山も残されておりますが、それに面して、230ヘクタールほどの菅生沼と言う茨城県で一番大きい自然環境保全地域があります。

 この沼も観察用のフィールドとなっております。そこに橋がかけられており、車椅子がすれ違えるだけの幅があります。人家が一軒も見えないような自然の豊かな所でございます。

 私共の博物館の常設展示は、大きく五つのコーナーに別れています。宇宙、地球、自然のしくみ、生命のしくみと、自然界を器にマクロからミクロのレベルの流れで捉えようとしています。そして、最後の第五展示室は、これから、どういったふうに生きて行ったら良いかを問いかける環境の展示室がございます。

 私共の博物館は参加体験型の博物館としてオープン致しました。参加体験型と申しますのは、実際に体験を通して、そこで得た感動を持ち帰っていただくというものです。

 これは、第一展示室「宇宙」のコーナーで、本物の隕石をもちあげているところです。31キロございます。

 これは、第二展示室「地球の生いたち」のコーナーにある世界で一番古いと言う39億6000万年前の岩石です。カナダから取りよせた資料で実際に触れていただいています。

 これは中世代の白亜紀のジオラマです。そこに動く恐竜がおります。ティラノザウルスとランビオザウルスなどです。これはディプロドゥスという恐竜の大腿骨ですが、その化石に触れていただくコーナーを設けています。

 これは三番目の「自然のしくみ」の、タヌキ、キツネ、モグラなどにふれていただくコーナーです。点字の表示もございます。モグラというのは、動物の毛の中で一番柔らかい一つだそうです。土の中の抵抗のある所をもぐって歩くものですから、それに通ずるのだと思います。それが一番人気があるようです。

 これは、鳥の鳴き声をボタンを押して聞いていただくコーナーです。そこに絵が描かれていますが、凹凸があり、エッチングのようになっております。フクロウ、サンコウチョウ等いろいろございます。そして、葉の少ない一本の木が見えますが、それぞれの鳥がその木のどの位置に生活しているかを展示しています。ですから、その声が高い方から聞こえてきますとその鳥は高い所で生息している事がおわかり頂けると思います。

その隣には、同様の物ですが、セミとかコオロギなどの動物のエッチングがあります。そのボタンが10個ほどございますが、ボタンを押しますとその声が聞こえます。

これは、第四展示室「生命のしくみ」のところです。人の可聴域、どれくらいの周波数のものが聞こえるかというものです。零から10万ヘルツまでボタンを押すことによりまして、表示がでてきて、音を聞くことができます。各自がどこからどこまで聞こえるか試していただくものです。そこには5種類ほど、動物の模型もあります。コウモリ、イヌ、イルカなどです。例えばイヌが聞こえますと、イヌが頭を振るという仕組みになっています。それで、他の動物と人間とを比較していただけるというものです。

 次は嗅覚、匂いの体験のコーナーです。これには、小さなドアーがありまして、それをずらすと、下から匂いがしてきますので、その匂いをあててもらう訳です。その上にある赤いボタンを押していただくと、上に映像が出てきます。海の匂い、森の匂い、バラ、ウメ等を用意しております。こういった展示を効率よく見ていただくために、このような「見学のしおり」を作っています。これは、その点字版です。弱視の方にも見ていただくために、拡大文字のページもあります。

 これは、当館の屋上からみた野外でございます。里山が残っています。その中にはトンボの池と称する池があります。これは、谷津田という湿田を利用して造ったものです。水生の植物について、目の不自由な方にも見ていただけるように、スロープを設け、そこで観察できるようになっております。

 これは野外のトイレですが、障害者対応のものが3ヶ所ございます。これは、トイレの屋上で遊びができるという一風変わったものです。そこまで必要があるかなという気も致します。そして手前が男性用、向こうが女性用です。

 園内にはこのように、主な所に点字ブロックが施してあります。中央のものが点字ブロックですが、ここの所にご注目下さい。これは、私たち人間が道路を設けたわけですが、ここには、既に棲んでいた小動物がいる訳です。これは人間のための橋ではなく、既に棲んでいた小動物が下を通過するための橋(トンネル)なのです。そう言った配慮も部分的にしております。

 私共の博物館の野外には、五つのネイチャートルーコースを設けています。そしてクイズも動物植物地学について各20問ずつ設けています。更にその三つにつきましては、観察の観点を示した看板を10箇所ほど設置しています。これは、説明ではなく、どういうことに注意して、どんなことを見てみよう、そういったものが記されています。これは、中にフズリナの化石が入っている岩石で17番目のものです。これが20箇所ほどございまして、視覚障害者の方がこれをずっとたどっていきますと、石について次々と観察ができるという訳です。

 これは雑木林の所にある石で彫った昆虫です。これは、カブトムシです。それらを野外に点々と設置しております。

 これらは昆虫や小動物を拡大した石の彫刻で、だいたい一メートルぐらいの大きさです。

 これは、池の近くにあるクサガメです。これが実際に菅生沼で産卵しており、現在でも数が増えております。雑木林にはカブトムシ、池の近くにはカメというように、それぞれの生息場所に展示し、触って観察していただいております。ただし、、かなり、遠い距離をあるかなければならないので、まとめて一ヶ所で効率よく観察していただいた方が良いのではないかということで改善を考えております。

 これは、先程お話申し上げた、障害者週間における視覚障害者用の特別企画展です。手前に置かれているのが、トリケラトプスの頭部の実物大の複製です。視覚障害者の方々が、それがどんな形をしていて、実際にどれくらいの大きさがあったかということをおわかりいただけると思います。

 実際にハエ、ハチ、カブトムシ、チョウ等の最大模型に実際に触っていただいてるところです。

 ラクダですね。ラクダの顔の部分にさわって非常に喜んでいるところです。

 サメですね。わさびおろしにサメの皮が実際に使われています。サメの皮のざらざらした感触(サメ肌)を触っているところです。

 アブダブラゾウガメというカメに触っていただいているところです。

 これは木材の年輪や樹皮について、今触って観察していただいてるところです。

 これは、アケビの実の拡大模型です。実際に、30センチ位あります。かなり製作技術が発達していて、質感もかなりそれに似たものになっております。

 これは動物の声当てクイズです。上に点字の表示もあるのですが、ボタンを押すと声が出てきます。解答はその点字で確認され、また弱視の方には、付き添いの方がおられれば、それをめくると写真が現われます。ライオンとかそういったものもございます。

 これは、匂いの体験コーナーです。日本の春の香りはジンチョウゲ、夏はクチナシ、秋はキンモクセイと言われ、それら三者の他、くだものやアーモンドの香りを体験をしていただくコーナーです。

 これは、生の木の葉っぱをもんだりして観察しているところです。実際に学芸系の職員がご説明しているところです。例えば樟脳の原料を採るクスノキですとか、お線香に使いますスギの葉っぱとか、紅茶に入れるニッケイの木の葉など10種類位用意しています。これは、かなり人気の高いものです。

 これが移動博物館の展示風景でございます。これは私共の中川館長です。これはビーバーが実際に歯でかじった木です。それを盲学校の生徒さんが手で触って確かめているところです。

 今度はそのビーバーの歯を触っているところです。また、ビーバーの身体全体がどうなっているのか、ビーバーが木を倒して川をせきとめてしまうという話に発展していきます。

 これも移動博物館の様子です。これはディノニクスという恐竜ですが、それを盲学校の生徒さんが触っています。

 マンモスの牙です。

 これは、移動博物館における植物の匂いの体験コーナーです。

 その他、木の実などを用意して行くこともございます。

 これは私共のミュージアムコンパニオンが解説しているところでございます。

 それから移動博物館におきましては、展示ばかりでなく、このように実際に化石の複製を作ってもらう体験コーナーを設けています。大変喜んでいる表情が伺えます。

盲学校の先生のお話でも、こんなに喜んでいる表情を見られるのはほんとに数が少ないのだという話を伺っています。スライドありがとうございました。

 私共の博物館では資料の貸し出しもしております。視覚障害者の方への資料の貸し出しにつきましても資料貸し出しパンフレットに掲載しています。

 今、文部省からの委嘱を受けまして、環境学習ネットワーク推進事業というのを進めております。これは、私共の博物館が拠点となりまして、博物館の使い方に関する、ソフト面の開発をしようというものです。その一つとして盲学校さんと協力し、盲学校の教室、または廊下のコーナーに環境学習に関する展示物の設置を行っています。その中では、地球レベルでの環境問題、茨城の自然と環境問題等について、実物標本も含めて展示しています。加えて、自然を体系的に理解するための教材の開発というのも一緒に行っています。それにつきましては、対象とするのは弱視の方から全盲の方、先天的な方から後天的な障害の方、単独障害から重複障害の方、小学生から高校生といった幅広い方々を対象にしています。媒体とする感覚としては、触覚では形状、素材感、点字、聴覚につきましては言葉、効果音、嗅覚では香りとかアロマセラピーといったものです。利用の形態としては、イベント的に一回限りで終わってしまうのではなく、遊具のように繰り返して使えるものを考えています。そして、場合によっては、それを「家に持ち帰って遊び、自然が理解できるもの」を考えています。

 情報の内容として、ステージ1として単独な展示、単発的な展示です。茨城県の筑波山は四・六のガマで知られておりますが、例えばヒキガエルの声を聞くというのは単発的な展示になります。それから、そのヒキガエルの声を聞いて、肌にふれる、ヒキガエルにさわるというのが複合的な展示、ステージ2になると捉えています。またステージ3として、そのヒキガエルの環境全体について理解しようと体系的な展示というのを考えています。その中で大事なことはそれを作っていく上で、使う人と作る人との評価が大きく異なることが予測されますので、盲学校の先生のご意見、それから実際に障害をお持ちの方のアドバイスを積極的に取り入れて良い物を作っていこうと思っています。それから、それを使った時に、外に行きたくなる、外出したときに役立つというテーマを設けようと思っています。

 具体的には、二つのジオラマで環境学習玉手箱というものを考えています。特に視覚に障害をお持ちの方には、自然を体系的に理解していただくことがとても難しいということから、ジオラマを二つ考えております。一つは盲学校とその近くにある社寺林の模型(ジオラマ)を作り、社寺林に行き、そこの大木に触ったり、身体で触れたり、落ち葉を踏みしめたり、鳥の声を聞いたりして自然を観察してもらうというものです。もう一つは、盲学校に降った雨はどういうふうに流れてどうなるかというものです。近くに中川という川がありますが、その川の上流、中流、下流そして海のジオラマを作って自然の景観について鳥瞰図的な理解をしていただくものです。そして剥製とか、いろいろな物をそこに置こうとしています。さらに、季節ごとに動物・植物・地学の3種の玉手箱を設置し、その中から生徒さんが引き出して観察できるように考えております。また、例えばスイッチを入れると熱で蒸気が上がり、氷で冷やすと蒸気が雨になり、もし、その大気が汚染されていると酸性雨になるといった実験装置も有効かと思います。今茨城県は、全域が酸性雨です。そんな発展が考えられるのではないかと思います。

 それから、校庭での自然の観察についてですが、盲学校の先生の話ですと、タイサンボクのような大きな花でないと観察は難しいとのことです。校庭には観察用に匂いのする木をいろいろ植える計画をしております。さらに匂いと触覚による植物図鑑なども作っていきたいと考えています。

 先日、保全生態学を主催する鷲谷いずみ先生からご講演をいただいたのですが、その中で、多様な自然を維持するためには、多様な人たちの支えが必要なのだというお話がございました。視覚障害者の方々のお力をお借りして、そういったものも充実させていかねばと考えております。私たちには五つの感覚、五感がありますが、その中で生きるために必要なのは嗅覚と触覚と味覚だと聞いております。生きるために直結している感覚はインパクトがあるものとして、また、視覚障害者の方々のためだけではなく、一般の方にも心地よい、楽しい物として、教材、展示の工夫改善につとめていきたいと考えております。どうも有り難うございました。

[目次]生命の星・地球博物館を利用した視覚障害者の感想と要望


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