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侵略とかく乱の果てに
神奈川の移入生物

身近な移入生物たち

アオマツムシ

 日本には古来、鳴く虫の音(ね)を楽しむという文化がある。とくにコオロギ類はその鳴き声が美しくさえわたり、スズムシはじめ人気も高い。秋の夜長にコオロギたちの奏でる音に聞きほれるのは、風流そのものだろう。

 ところが、虫の音を聞く習慣は、いつのまにかすたれてしまったようだ。このせちがらい世の中、風流・風情などにかまけていられないのだろうが、理由は社会事情ばかりではない。

 お盆を過ぎた頃から、夜の住宅地でも街なかでも雑木林でも、リュー、リュー、リュー、という甲高い鳴き声が樹上から聞こえてくる。声の主が一匹ならまだしも、何匹も鳴いていると、「うるさい」としか思えない。この騒音の張本人こそ、アオマツムシなのである。

 このコオロギらしくないコオロギは、日本では十九世紀末に東京で初めて発見された。中国南部が原産地と推定され、枝に産卵するという習性から、果樹か園芸樹を移入したさいに持ち込まれたのだろう。国内でも樹木の移動などで各地に広まり、特に一九七〇年代以降に爆発的に増えた。

 県内でも山地を除けば、それこそ樹木のあるところ、どこにでも見つかる。おかげで、どこへ行ってもアオマツムシの声を聞くことになるが、そのあまりの喧騒(けんそう)さに他の種類の鳴き声がよく聞き取れない。かくして、虫の声を楽しむという風情どころではない。

 もっとも、都会のアオマツムシにも言い分はあるかもしれない。カネタタキなど一部を残して、ほとんどのコオロギ類を追いやってしまったのは人間ではないか。さらに、明るい間だけならまだしも、夜になっても人間たちが奏でる騒音でいっぱいではないか。いまさら虫の声文化もないだろう、と。

(県立生命の星・地球博物館 高桑正敏)

アオマツムシ

上ばねをあげ、鳴きながらメス(下)を誘うアオマツムシのオス(上)
※新聞掲載の写真は、上記の向きが正当です。


※ 2003年8月1日に、神奈川新聞に掲載された記事を再録しました。

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