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侵略とかく乱の果てに
神奈川の移入生物

栽培・養殖の危険性

チュウゴクモクズガニ

 世界最大級のチャイナタウン、横浜中華街がある神奈川県では、正式名称のチュウゴクモクズガニよりも「上海ガニ」という市場名のほうが有名かもしれない。この美味なる高級カニを、リーズナブルな価格で味わいたいと思うのは多くの人の願いだろうが、そこに危険な落とし穴があるとしたらどうだろう。

 本種はその名の通り、中国原産の種であるが、二十世紀初頭から船舶のバラスト水に紛れてヨーロッパに持ち込まれた移入種として知られている。ヨーロッパでは、在来の生態系をことごとくかき乱し、厄介者として敵視されている。その影響はあまりにも大きく、国際自然保護連合・種の保存委員会は、本種をオオクチバスなどとともに「世界の侵略的外来種ワースト一〇〇」の一つとして選定しているほどである。

 幸い、これまで日本への移入の記録はなかった。しかし、在来のモクズガニと生態的地位が重複するため、移入がおこると競合は避けられないであろうことが、以前から研究者によって指摘され、要注意種と見なされていた。

 このチュウゴクモクズガニに関して“自然科学的には極めて危険な”取り組みがとうとう始まってしまった。昨年、山形県の休耕田に本種の稚ガニが放流され、「国産上海ガニ」の安定供給を目指す養殖事業がスタートしたのである。地元では町おこしの起爆剤として期待され、経過も順調であると報道されている。

 休耕田の周囲は、逸出を防ぐためプラスチック板で囲っているというが、油断は禁物である。これまでにも多くの養殖種が、ずさんな管理によって逸出し、定着してきた過去を重く受け止め、これ以上新たな移入種を生み出すことのないように、細心の注意を払ってほしい。

(県立生命の星・地球博物館 佐藤 武宏)

チュウゴクモクズガニ(上)と在来のモクズガニ(下)

チュウゴクモクズガニ(上)と在来のモクズガニ(下)。眼と眼の間の四つのトゲがはっきりしていることが、チュウゴクモクズガニの特徴。


※ 2003年8月12日に、神奈川新聞に掲載された記事を再録しました。

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