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侵略とかく乱の果てに
神奈川の移入生物

密航者たち

ミカヅキゼニゴケ

 昨夏、欧州を訪ねた折、イタリアの城郭都市を案内された。ふと、路傍の石畳を眺めるとミカヅキゼニゴケが目についた。このコケは、帰化植物として既に日本でもおなじみだ。地中海沿岸原産で、日本では八十年前に初めて確認された。以後、市街地に急速に分布を広げ、県内では一九七〇年代後半に小学生が横浜の花壇から発見。八九年の時点で丹沢、箱根を除く県内都市部全域に及ぶことが確認されている。

 これに対して従来、日本に分布していたのがゼニゴケだ。庭先にはびこり、専用の除草剤まで売られているが、毛嫌いして駆除する前に、観察してみよう。ゼニゴケもけなげに生きている。

 雄株から作られた精子は、雨の日に雌株まで泳ぎついて受精し、春から夏にかけて胞子を生じるが、これとは別に、クローンを作って増えることができる。ゼニゴケの体表には、“おちょこ”のような形をした入れ物がある。その中に作られた円盤状の“むかご”は、靴裏などに付いて運ばれ、分身を増やす。よく見ると“おちょこ”の片端が偏って三日月のようになったものが見つかる。これがミカヅキゼニゴケだ。

 ミカヅキゼニゴケは永らく日本に単身赴任してクローン増殖をしていたようだが、九〇年に、関西で雌雄による有性生殖が観察された。日本での生活がすっかり板に付いたということか。今や日本の町並みもコンクリートジャングルへと変ぼうを遂げた。そこに、ふさわしい生き物がすみ着くのは必然かもしれない。非意図的に導入されたともいわれるが、日本の自然をつくり変え、地中海沿岸の生物を呼び寄せたのは、紛れもなく私たちなのである。

(県立生命の星・地球博物館 出川 洋介)

ミカヅキゼニゴケ

ミカヅキゼニゴケの三日月型の無性芽器(むせいがき)。中に粒状のむかごが見える。


※ 2003年8月15日に、神奈川新聞に掲載された記事を再録しました。

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