[地球博トップページ][研究][侵略とかく乱の果てに]→イッカククモガニ

■20. ミカヅキゼニゴケ←|→■22. ヨコヅナサシガメ


侵略とかく乱の果てに
神奈川の移入生物

密航者たち

イッカククモガニ

 人間は、すべての場合において、確固たる目的を持って生きものを他の場所へと移し出すとは限らない。気づかぬうちに靴底の泥と一緒に運ばれたり、貨物などに紛れ込んで運ばれてしまう生きものも少なくない。このように、人間の活動や人間がつくり出したシステムの結果として、本来の分布域から他の場所へ、非意図的に運び込まれた種のことを、特に「非意図的移入種」と呼んでいる。

 イッカククモガニはその代表格である。本来の分布域は米カリフォルニアからパナマにかけての太平洋沿岸であるが、船のバランスをとるバラスト水に紛れて日本に運ばれてきた、と考えられている。船に隠れて日本にやってきたため、“密航者”呼ばわりされることもあるが、無理やり故郷から連れてこられた彼ら彼女らにとってはいい迷惑だろう。

 日本最初の記録は、一九七〇年の昭和天皇による採集とされているが、それから三十年余りを経た現在では日本全国に分布を広げている。そればかりか、韓国、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランドなどでも分布が確認され、世界的な問題になっている。

 この種が日本、特に東京湾や大阪湾など大都市に隣接する内湾に定着した理由は、以下の二つと考えられている。第一の理由は、一年を通じて繁殖が行われ、成長が著しく早いことである。第二の理由は、酸素が少なく、汚濁した水質の湾内のような劣悪な環境でも生き延びることができることである。都市近郊に、本来の自然環境がよみがえり、天敵やライバルとなる在来種が回復すれば、本種の黄金時代の幕引きも近い。

(県立生命の星・地球博物館 佐藤 武宏)
イッカククモガニ

成体の甲幅は約2センチメートル。イッカククモガニの細密画(酒井恒画、県立生命の星・地球博物館蔵)


※ 2003年8月16日に、神奈川新聞に掲載された記事を再録しました。

© Copyright Kanagawa Prefectural Museum of Natural History 2003. All rights reserved.