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侵略とかく乱の果てに
神奈川の移入生物

在来種への影響

メダカ

 生物の種は、ある時は移動し、またある時は隔離され、次第に分布域を拡大していく。そして、隔離されている時間が長いと、遺伝的な違いが蓄積し、少しずつ性質の異なる地域個体群に変化していく。

 日本の淡水魚の代表格ともいえるメダカも、そうした歴史を背負った生物である。生物種としてのメダカは一種だが、北日本集団と南日本集団に大別され、後者は、さらに九つの地域型に細分されることが遺伝子の研究から分かっている。この過程には非常に長い時間が必要で、北日本集団と南日本集団は四百五十万年前に、後者の各地域型は数万年から数十万年前以前に分化したと推定されている。

 もし、ある地域に遺伝的に異なる別の地域のメダカが放流されるとどうなるか? 生殖的に隔離されているほどの違いはないので、お互いに簡単に交雑し、いわゆる遺伝子汚染が生じるであろう。外見的な変化はないかもしれないが、長い時間の中では、その存続に赤信号をともすかも知れない一大事である。

 なぜなら、その土地のメダカは、その土地の環境に適応した遺伝的性質を長い時間の中で獲得してきていると考えられるので、遺伝子汚染によってその性質が急速に変化すると、生存に都合のよい仕組みが弱められたり、なくなってしまったりする可能性があるからだ。

 メダカは、子供たちが生命の不思議や大切さを学ぶための格好の教材である。だが、やさしい飼育とは裏腹に、その管理は意外に難しい。繁殖したメダカを放流したいという欲求は、さまざまな理由付けにより正当化され、時には保全とは無縁のイベント放流にすら結びつく。

 遺伝子汚染を引き起こす放流は、長い時間をかけて作り上げられてきた進化の産物を、一瞬にして台無しにしてしまう恐ろしい所業と知るべきであろう。

(県立生命の星・地球博物館 瀬能 宏)

正体不明のメダカ

ヒメダカ

森と水の公園(南足柄市)に放流された正体不明のメダカ(写真上)。一見ふつうのメダカだが、大量に繁殖する夏場には遺伝子汚染の目印となる「ヒメダカ」(写真下)が生まれてくる(瀬能 宏 撮影)

 

※ 2003年9月4日に、神奈川新聞に掲載された記事を再録しました。

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