神奈川県立生命の星・地球博物館

[地球博トップページ][自然科学のとびら][第10巻第1号]→神奈川の自然シリーズ18 化石の古さ(小柴層のアケボノゾウ)


2004年3月15日発行 年4回発行 第10巻 第1号 通巻36号 ISSN 1341-545X

自然科学のとびら

Vol.10, No.1  神奈川県立生命の星・地球博物館  Mar, 2004


神奈川の自然シリーズ18 化石の古さ(小柴層のアケボノゾウ)

樽 創(学芸員)
表1. 横浜・三浦地域の上総層群の層序.層序は三梨・菊地(1982)に従った.
表1. 横浜・三浦地域の上総層群の層序.層序は三梨・菊地(1982)に従った.

長沼のアケボノゾウ

横浜市からはゾウの化石がいくつか発見されています(長谷川, 1991)。その中の一つに金沢区長浜から発見されたアケボノゾウ(Stegodon aurorae)があります。この地域には上総層群小柴層(表1)という地層が、柴漁港付近から西方に、円海山付近、柏尾川の東側まで帯状に分布しています(図1)。アケボノゾウは1975年頃に小柴層の中部から発見され、約120万年前の化石と考えられていました。しかし、その年代が変わる可能性が高いことが最近の研究で明らかになってきました。

化石の古さ

「この化石は○○万年前の化石ですよ」という話を聞いたことがある人は多いでしょう。ではその古さはどのようにして決められるのでしょうか? 実は化石が発見されたからといって、その化石だけから古さがわかることはまれです(注1)。化石は地層の中から発見されるので、多くの場合、化石の古さの具体的な年数(絶対年代)は含まれていた地層の古さから判断されています。地層の古さは、地層中の鉱物の放射性同位体を使って調べることが多く(注2)、そこで得られた年代が化石の古さとされることが多いのです。また地球の年代には、相対年代という区分もあります。相対年代は、地層が生成された時期や生物の歴史の変化の相対的な前後関係を表します。相対年代で区分された地球の歴史は「地質年代」と呼ばれます(表2)。地質年代(相対年代)と絶対年代が対応することで、初めて「○○万年前の××時代」と表せるようになるのです。

一方、ある地域と別の地域の地層の古さを比べたいときには、「示準化石」や「鍵層」が用いられることがあります。限られた時代に広い範囲に生息していた生物が化石になると、のちにいろいろな地域の決まった地層から発見され、それらを同じ時代として対比できます。このような化石は「示準化石」と呼ばれます。同様に、各地で観察できる短時間に堆積した特徴的な地層も、時代の対比に有効です。このような地層は「鍵層」と呼ばれ、火山が噴火したときに噴出する火山灰の層などがよく利用されます。「示準化石」や「鍵層」をつかって、各地の地層を対比すると同時に、放射性同位体を利用して絶対年代を調べると、いろいろな地域の地層の関係と、そがどれくらい前にたまったものなのかが詳しくわかります。

小柴層の年代

図1. 小柴層の分布.三梨・菊地(1982)を参考に作成.
小柴層の分布.三梨・菊地(1982)を参考に作成.

さて、上総層群小柴層はこれまで約200万年〜50万年前にたまった地層と考えられていました(江藤, 1987)。アケボノ]ウ(図2)は小柴層の中部から発見されたので、単純に地層の年代の中間をとると約120万年前のゾウの化石となります。ところが、最近小柴層とその下位の大船層について詳しい研究が進められ、大船層の中部から小柴層の下部の年代がこれまでよりも約50万年古くなることがわかりました(藤岡ほか, 2003)。この研究では、石灰質ナンノ化石、浮遊性有孔虫化石という海に住む微生物の化石(微化石と呼ばれます)を詳しく調べ、その中で示準化石となっているものを探し出した結果、小柴層の年代がより新しくなることが明らかになったのです。残念ながら小柴層の中部の年代は明らかになっていないので、アケボノゾウが発見された層準が、これまでより約50万年古くなるというわけではありません。しかし、古くなる可能性は高いようです。

化石の古さを調べる方法は、一般にはあまり知られていないようです。それは「この化石はこれくらい前に生きていた生物」という情報がすでに示めされていることが多いからでしょう。しかし、化石の古さは地層の古さによることから、そして地層の古さは研究が進むと訂正される場合があることから、化石の古さは小柴層産のアケボノゾウのように訂正されることもあるのです。

なお、アケボノゾウの化石は、神奈川県内からは金沢区長浜のほかに、川崎市や山北町からも発見されています(長谷川, 1991)。アケボノゾウは日本固有の種で約200万年前から70万年前の間、本州中部から西の各地に生息していたと考えられています。もし小柴層のアケボノゾウが産出した層準が50万年古くなるとしたら、その時代分布の中では比較的古いほうと考えられます。

横浜市金沢区長浜の小柴層から産出したアケボノゾウの化石 砂岩が付着していた小柴層産のアケボノゾウ.
図2. 横浜市金沢区長浜の小柴層から産出したアケボノゾウの化石.上:噛み合わせの面から.下:舌側から.バーは5cm. 図3. 砂岩が付着していた小柴層産のアケボノゾウ.全体の形が丸い.

アケボノゾウのホントの年代

さて、小柴層産のアケボノゾウの標本を例に、「化石の古さ」について紹介してきました。実は化石の古さを決める時には、まだ注意が必要な場合があります。これまで述べてきたように、化石の古さは、通常含まれていた地層の古さとされます。ですが、小柴層産のアケボノゾウを含む一部の化石ではちょっとした“ズル”が見られるのです。

日本に分布する多くの地層は、陸域で浸食され、川などで運ばれた土砂が海底に堆積したものです。それらの一部は再び陸上に顔を出し、再び河川などに浸食され海に運ばれ堆積します。このような現象が、非常に長い期間をかけて繰り返し行われています。ほとんどの化石はこの1つのサイクルの中で粉々になってしまいますが、まれに壊れずに新しい地層に運ばれるものがあるのです。つまり、生物が一度化石となった後、再び地層に取り込まれるのです。このような現象を「再堆積」と呼び、当然ですが発見された化石の古さは、もともとその生物が生息していた年代とは別の新しい年代を示すことになります。小柴層のアケボノゾウの化石もどうやら再堆積していたようなのです。

小柴層産のアケボノゾウが発見されたとき、顎の骨には砂岩が付着していて、全体がラグビーボールをもっと丸くしたような形でした(図3)。そして付着していた砂岩は、小柴層とは違う石のようなのです。つまり、このアケボノゾウの化石は一度、付着していた砂岩の地層で化石となったあとに、その地層から洗い出され、浸食を受けて丸くなり、小柴層中に礫として取り込まれたようなのです。ですから、このアケボノゾウが化石となった年代は、小柴層の堆積した年代ではなく、付着していた砂岩が堆積した年代の可能性が高そうなのです。

ですが、残念ながら付着していた砂岩の年代は明らかになっていないので、小柴層産のアケボノゾウが何万年前に生きていたのかは、現在までのところわかっていません。

地質年代表年代の大きな区分だけ示した 表2.地質年代表年代の大きな区分だけ示した.これらの年代がさらに細かく区分されている.

文 献

江藤哲人・尾田太良・長谷川四郎・本田信幸・船山政昭, 1987. 三浦半島中・北部の新世界の微化石生層序年代と古環境. 横浜国立大学教育学部紀要, 第2類, 34: 41-57.

藤岡導明・亀尾浩司・小竹信宏, 2003. テフラ鍵層に基づく横浜地域の大船層・小柴層と房総半島の黄和田層との対比. 地質学雑誌, 109(3)166-178.

長谷川善和, 1991. 神奈川のゾウ化石. 神奈川県立博物館だより, 23 (6) 2-3.

三梨 昴・菊地隆男, 1982. 横浜地域の地質. 地域地質研究報告(5万分の1図幅), 地質調査所. 35p.

(注1):時代が若い化石では、たとえば貝化石などでは、殻に含まれる炭素同位体の比率を調べることで年代がわかります。

(注2):年代測定の理論・方法については兼岡一郎著 東京大学出版「年代測定概論」に詳しく紹介されています。地球の年代について興味を持たれた方は、どうぞご覧ください。





[目次へ]


© Copyright Kanagawa Prefectural Museum of Natural History 2003. All rights reserved.

[ページ先頭へ]