神奈川県立生命の星・地球博物館

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2004年6月15日発行 年4回発行 第10巻 第2号 通巻37号 ISSN 1341-545X

自然科学のとびら

Vol.10, No.2  神奈川県立生命の星・地球博物館  Jun., 2004


丹沢山地とスイスアルプス

今永勇(学芸員)
図1.丹沢山地の南北方向の模式断面図.
図1. 丹沢山地の南北方向の模式断面図.

昨年の夏、アルプスの3名峰モンブラン、マッターホルン、ユングフラウを見る観光ツアーに夫婦で参加してきました。丹沢山地とアルプスは、プレートの動きによって衝突して出来た山地です。この機会に両者を比べてみたいと思います。

2) 丹沢山地の地形と地質

丹沢山地の主だった峰の海抜高度は、大山が1254m、塔ヶ岳が1491m、丹沢山が1567m、蛭ヶ岳が1673m、檜洞丸が1601mで、1500m前後です。この高度は、森林限界の内にあります。丹沢山地の谷は、流水により浸食されてできたV字谷をしています。

丹沢山地は、元はフィリピン海プレートに乗る伊豆-小笠原弧にあり、フィリピン海プレートの北方向への移動により、およそ500万年前に丹沢の地塊が本州弧に衝突し、さらに第四紀更新世およそ170万年前に丹沢地塊の後ろから来た伊豆半島の地塊が衝突し、丹沢は押されて褶曲隆起し丹沢山地ができたのです。隆起した丹沢山地が雨水に浸食され、その砕屑物が南側の海に堆積して足柄層群になりました。丹沢山地は、およそ1500万年前の海底火山起源の堆積物(丹沢層群)でできているのですが、その南側に堆積した更新世の足柄層群の礫岩層の上に逆断層でのりあげています(図1)。

2)アルプスの地形と地質

図2.スイスおよび周辺地域の地質構造帯図.
図2. スイスおよび周辺地域の地質構造帯図.

アルプスは、ヨーロッパ大陸の南西部に位置し、海抜高度が高く、氷河が高所を覆い、谷は氷河の浸食を受けて出来たU字谷をしています。氷河は、氷河の両側の崖から落下した岩片と氷河により削られた岩石の細片とが、研磨剤のように氷河の底と両脇を削りU字型の谷を作ります。スイスは、現在も氷河がありますが、第四紀の氷河期にほぼ全域が氷河におおわれたので、今日のアルプスの険しい地形は、この氷河期に形成されたものです。

しかし、アルプス山地の高度は、第四紀氷河期の前から高かったわけで、それはヨーロッパ大陸とアフリカ大陸の断片のアプリアプレート(現在のイタリア、ギリシャ、ユーゴスラビアの一部)との衝突によって隆起した褶曲山脈だからです。つぎにアルプスの地質について、見てきたアルプスの3つの峰の例を中心に紹介します。

モンブラン(4807m)は、雪に覆われた白い(ブラン)山(モン)です。ヨーロッパアルプスの最高峰で、イタリーとフランスの国境に位置し、ヘルベティアン・アルプス(ヘルベティアはスイスを意味するラテン名、スイスアルプスの変動帯の内で押し被せ褶曲と衝上断層が最も激しい地帯)の花崗岩の基盤でできています(図2)。モンブランの麓の町シャモニーは、針のような峰に取り巻かれています。針峰は、氷河の浸食作用によるものですが、花崗岩を取り巻く古生代の片麻岩と結晶片岩の扇状に垂直に近く立った構造(エグィ・ルージュ地塊)が影響していると考えられます(図3A)。

マッターホルン(4478m)は、スイス・イタリアの国境にあり、マッターホルンの上半分はペニン・アルプスのデンブランシェ・ナップに属する花崗岩と古生代片麻岩とからできています(図2)。ナップは、押し被せ断層と押し被せ褶曲(横臥褶曲)により地層が基盤の上を遠くまで滑って移動し、原地性の地層の上に異地性の地層が乗る構造です。語源は食卓のナップからきています。マッターホルンの下半分は、中生代の海洋底堆積物が変成作用を受けてできた結晶片岩とオフィオライト(海洋地殻とマントルの断片)からできています。つまり、古生代の花崗岩と片麻岩からなるデンブランシェ・ナップが中生代の泥岩が変成作用を受けてできた結晶片岩と蛇紋岩や緑色岩などのオフイオライトの上に乗り上げています(図3B)。デンブランシェナップは、南はイタリーのトリノの北からマッターホルンを経て北はバイスホルン(4505m)まで延びています。山麓の町ツェルマットとマッターホルン山頂の高度差は、2. 8kmもあります。ツェルマットの町は、白雲母片岩のような結晶片岩などからできていて、浸食に対し弱くツェルマットの深い谷が形成されています。

ユングフラウ(処女峰)(4158m)は、ヘルベティアン・アルプス(図2)のアール地塊の片麻岩と花崗岩のナップでできています(図3C)。ユングフラウの北側にある岩壁で有名なアイガー(3970m)は、ジュラ紀・白亜紀の石灰岩からできています。

アルプスの地質構造の特徴は、押し被せ褶曲と押し被せ断層により古生代や中世代の地層が何10kmも水平方向に移動して、それより新しい地層の上に積み重なるナップ構造です。ナップ構造により地殻の厚みを増し高い山脈が形成されているのです(図4E)。

3)アルプス形成の歴史

図3.アルプス3名峰の模式図 A:モンブラン. 図3.アルプス3名峰の模式図 B:マッターホルン.
図3.アルプス3名峰の模式図 C:ユングフラウ.
図3. アルプス3名峰の模式図 A:モンブラン,B:マッターホルン,C:ユングフラウ.
写真 ツェルマットの町から眺めたマッターホルン.
写真 ツェルマットの町から眺めたマッターホルン.

図4は、アルプスの地表地質調査と地震波による地殻構造の調査とから現在の褶曲構造ができる以前の地質時代の状況を復元したものです。図4をもちいて説明すると次のようになります。アルプスの地史は、古生代の石炭紀(3億6千万年前-2億9千万年前)の始めに北のローラシア大陸と南のゴンドワナ大陸が衝突し、地球上にパンゲアと呼ぶ超大陸が出現した時まで遡れます。超大陸のドイツ・スイスの付近は、赤道に近くて熱帯から亜熱帯で、時に陸上で砂岩(赤色砂岩)が堆積したり、浅い海が広がっていたり、浅い海の海水が蒸発して石膏、岩塩、硬石膏などが堆積したり、浅い海にサンゴ礁ができて石灰岩を形成したりしていました。

ジュラ紀(2億8百万年前?1億4千5百万年前)の初めになって超大陸パンゲアが裂けて大西洋が開き始めました。それによってアフリカ大陸がヨーロッパ・アメリカ大陸に対して東に移動し、その結果ヨーロッパ・アメリカ大陸とアフリカ大陸間に張力が働き、海が開きました。ヘルベチアアルプスの地域に大陸起源砕屑物が堆積し、ジュラ紀中期にペニン・アルプスの地域に炭酸塩岩と深海軟泥を厚く堆積しました。ジュラ紀後期には大量の石灰岩を形成しました。その海は、図4Bに示すように北から南へバリストラフ、ブリアンソン海台そして海洋底が拡大しているいるピーモントトラフがありました。その後、アフリカ大陸が回転し、今まで開いた海が逆に閉ざされていきました(図4C)。ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸に挟まれた海の海底堆積物と海洋地殻が押されて褶曲し、始新世から漸新世に押し被せ褶曲が複雑に形成され、地殻が激しく短縮し隆起しました(図、4D)。アルプス山脈は漸新世以降隆起を続け浸食され、北のモラッセ盆地に大量の砕屑物を堆積しました。アルプス山脈は、雨水に浸食され、さらに第四紀の氷河時代に氷河に浸食され、現在の地形ができたのです。

4)まとめ

アルプスの山地と丹沢山地と同じ点は、地塊の衝突によりできた褶曲山地であることです。違う点は、アルプスが大陸同士の衝突により出来ているのに対し、丹沢は島弧のブロックが衝突していることです。またアルプスと丹沢を作っている地質の形成された時代が違います。アルプスは古生代末期の地層から第三紀漸新世までの地層が主に漸新世(4千から3千万年前)に造山運動を受けているのに対して、丹沢山地は第三紀中新世から鮮新世初期の地層が更新世の170万年間に褶曲隆起してできています。アルプスが海抜高度が高く氷河による浸食を受けているのに対して丹沢山地は、森林限界内にあり河川の浸食によってできた地形です。

以上、アルプスと丹沢の地形と地質を比べてみました。

図4.スイスアルプス時代別横断面復元図(R. E. Sloan, 2002 ツェルマット山岳博物館地質ガイドブック.
図4. スイスアルプス時代別横断面復元図(R. E. Sloan, 2002 ツェルマット山岳博物館地質ガイドブック).

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