神奈川県立生命の星・地球博物館

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2004年6月15日発行 年4回発行 第10巻 第2号 通巻37号 ISSN 1341-545X

自然科学のとびら

Vol.10, No.2  神奈川県立生命の星・地球博物館  Jun., 2004


展示シリーズ11 ヒマラヤの”リップルマークの壁”

田口公則(学芸員)
図1. 展示室内の”リップルマークの壁”.
図1. 展示室内の”リップルマークの壁”.

リップルマークの壁のブロックは実物

博物館の巨大岩盤展示の一つに“リップルマークの壁”があります(図1)。リップルマーク(あるいはリップル)とは、波、水流、風によって堆積物の表面につくられる規則的な波形模様の微地形のことです。リップルマークの壁は、ネパール、ガンダキ地方に分布する約10億年前の砂岩層から収集されたものです。岩壁一面の地層をそのまま運ぶことは難しいので、人が運べる大きさに切り出して採集されました。岩の表面にみられる番号は、切り出した岩ごとにつけられたものです。よくみると接合部には目印も見えます。つまり、番号がついている部分は実物の地層というわけです。

リップルマーク

流れの種類・速さ、堆積物の粒径によって様々なリップルができます。一般に一方向の水流により形成されたものをカレントリップル、波などの振動流によるものをウェーブリップル、流れが組み合わさった複合流によるものを複合流リップル、風によるものをウィンドリップル(風紋)と呼んでいます。例えば、海岸や干潟で潮が引いたときにみられる波形模様のリップルは、満ち潮のときに波によってつくられたウェーブリップルです。

それぞれのリップルは、形の特徴があります(図2)。前後に揺れる動きからつくられるウェーブリップルの断面は、尖った峰と丸みをある谷を持ち、その山の部分は左右対称です。一方、河川などで一方向流により堆積物が移動しながらでつくられるカレントリップルは山の部分が非対称です。リップルの形により水流の向き(古流向)も推定できるのです。

手で触って〜ウェーブ?カレント?

それでは展示されているリップルマークの形を見てみましょう。リップルの断面形は左右対称でしょうか? 展示パネル横のブロックでは横から断面の形を直接見ることができます。リップルマークの壁では手で触ってリップルの形を調べてみましょう。峰や谷に対して直行方向に手のひらの指をなぞらせ抵抗の違いから形をとらえるのです。もしリップルが左右対称ならば、往復させる手のひらの感触に差が出ないでしょう。違いがあるときは非対称だということです。リップルの急な斜面側からなぞる場合に引っかかりが強く感じられるのです。

私もじっくり触ってみました。すると展示のリップルマークのほとんどが左右非対称型となりました。カレントリップルである可能性が出てきたわけです。さらに水流の向きを意識して触ってみました。すると、壁の左上から右下への流れと、その逆の右下から左上の流れという正反対の2方向の古流向があることに気がつきました。展示では何枚かの地層ごとにリップルマークが露出しています。どうやら正反対の2方向の古流向は、リップルマークの層のごとに変化しているようです(図3)。これは地層の堆積環境を推測する重要な手がかりになりそうです。

図2. リップルの模式図.上:ウェーブリップル;下:カレントリップル
図2. リップルの模式図.上:ウェーブリップル;下:カレントリップル”

リップル指数〜ウェーブ?カレント?

つぎに古典的堆積学の手法であるリップル指数を調べてみました。この指数はウェーブリップルとカレントリップルを区別するためものです。リップルの峰と峰の間の長さ(波長:L)と谷から峰までの高さ(波高:H)の比率がリップル指数(L/H)となります。値が4以下ならウェーブリップル、15以上ならカレントリップルとなり、その間では両方のリップルがあるといわれています。この指数は、カレントリップルは波高に対して波長が長く、ウェーブリップルは波高が比較的高いという特徴を利用したものなのです。

展示のリップルを十数点調べたところ、リップル指数は4〜8という値となりました。ウェーブリップル優勢と感じる結果です。そう考えてみると、なるほど直線的なリップルの間隔や形からウェーブリップルとして見えてきます。

さて、上記の観察から展示のリップルマークの解釈が二つに分かれました。すなわち手で触って得たカレントリップル説と、リップル指数から優勢とされたウェーブリップル説です。はたして展示のリップルマークはどのような環境の下で形成されたのでしょう。当然、いつもどちらかの○○リップルだと単純に判断できるわけではありません。こんな時は、いろいろな観点の判断を積み上げて推測するのが有効でしょう。そんなことを考えながら、もう一度、展示をじっくり観察してみました。すると手の届かない右上部に複雑な形のリップルを発見しました。そのリップルは谷部に別の流れのリップルが重なって融合しているように見えます。展示のリップルマークはどうやら単純な流れだけでつくられたわけではなさそうです。

まだまだある気づいたことや疑問点の紹介は別の機会として、今回は展示室のリップルマークはどのような流れの環境で形成されたのか、みなさんへの宿題として終わりにすることにしましょう。

図3. 2方向の流れ?を示すリップル.
図3. 2方向の流れ?を示すリップル.




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