神奈川県立生命の星・地球博物館

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2004年9月15日発行 年4回発行 第10巻 第3号 通巻38号 ISSN 1341-545X

自然科学のとびら

Vol.10, No.3  神奈川県立生命の星・地球博物館  Sept., 2004


雲南の植物

田中徳久(学芸員)
図1 白茫雪山.
図1 白茫雪山.
図2 ぼう牛坪.(ぼうぎゅうへい)
図2 ぼう牛坪.(ぼうぎゅうへい)
図3 虎跳峡.
図3 虎跳峡.

植物の分布上の地域的なまとまり(植物区系)からみると、日本とヒマラヤは日華区系と呼ばれる地域に含まれ、日本は東の端、ヒマラヤは西の端に位置しています。そのため、ヒマラヤには、日本からも多くの研究者が訪れ、日本の植物相の歴史やその特性を解明するために、さまざまな研究をしています。当館の勝山輝男学芸員や木場英久学芸員もシッキム・ヒマラヤやネパール・ヒマラヤの学術調査に参加し、その様子は本誌でも紹介され(勝山輝男, 2003. 9巻3号17, 20-21ページ;木場英久, 1995. 1巻3号 17, 21ページ)、セイタカダイオウRheum nobileや青いケシMeconopsis horridulaが各号の表紙を飾っています。

今回、筆者もチベット・ヒマラヤの端にあたる中華人民共和国の雲南省に2004年6月25日〜7月1日の一週間ほど滞在し、そこに生育する植物を観察して来ましたので、その一部を紹介します。ただ、筆者の場合、正式な学術調査で出掛けたのでなく、横浜植物会(1909年創立の日本最古といわれるアマチュアの植物愛好・研究団体)が企画した植物観察を目的としたツアーに参加したのですが・・・。

行 程

今回の旅は、広州から飛行機で昆明に入り、そこから香格里拉(最近、中甸より改名)、麗江、大理、そして昆明に戻るコースでした。今回の観察地は、香格里拉を拠点とした白茫雪山の麓(図1)、麗江を拠点とした玉龍雪山の北側に位置する?牛坪(図2)や甘海子でしたが、香格里拉−麗江間の小中甸や虎跳峡(図3)、大理の蒼山、昆明の西山など、行程の途上でもバスを停め、植物を観察しました。

ヒマラヤの青いケシ

今回の主目的のひとつであった植物です。観ることができたのはMeconopsis horridula(図4)とM. prattiiの2種でした。M. horridulaは、木場学芸員が崖によじ登って苦労して撮影したものですが、私は舗装された道路脇の崩壊地に生えていたものを撮影しました。香格里拉空港を出て、1時間も経たないうちの出会いでした。M. horridulaは変異の多い植物で、ここで紹介したものは、木場学芸員が撮影したものと異なる変種の可能性もあります。M. prattiiも同じ場所で観察しましたが、ここは、『雲南の植物』(森和男, 2002)に掲載されている写真の撮影場所と同じ場所と思われ、有名な場所だったのかもしれません。

サクラソウの仲間

白茫雪山へ向かう峠道をバスで登っていく途上、沢筋や雪田状の湿地に大形のサクラソウ属植物が群生していました。薄紫色のPrimula secundiflora(図5)と黄色のP. sikkimensis(図6)が時に混生し、時にそれぞれで群生し、それはまさしく「別世界」でした。夢中でシャッターを押しましたが、そこは標高4,000 mの高山帯、簡易酸素ボンベで息継ぎをしながらの撮影でした。この両種は明らかに別種のようでしたが、短い観察時間ではその生育立地の違いまで見極めることはできませんでした。このほか、トチナイソウ属(図7)のものや日本のクリンソウP. japonica(図8)に類似のものものなども観察しました。

ミヤコグサとシオガマギク属植物の草原

香格里拉から麗江へ向かう途上、バスの車窓からもたくさんの植物が観られました。限られた時間の中、バスが停車した「お花畑」は、ミヤコグサ(日本のものとは別変種)やシオガマギク属、シオン属などの植物が満開でした。ミヤコグサも含め、それぞれ日本のヨツバシオガマやミヤマアズマギクによく似ており、日本とヒマラヤの植物相の類似性を強く感じました。

ショウガ科の植物

日本にはないロスコエア属Roscoeaの仲間をあちこちで見かけました。一見、ラン科植物のように見えますが、ショウガ科の植物です。他の植物の多くは、日本の類似のものが想像できるものでしたが、この植物は違い、同じ植物区系に含まれるとはいえ、異なるところは異なる一例です。図9のものはR. tibetticaとしましたが、花色の違いや、周囲の環境や時期による草丈の違いなどがあり、3種ほどがあったようにも思えますし、全部同じ1種であったようにも思えます。

ラン科の植物

日本ではネジバナ以外はすべてレッドデータ植物ではないかと思えるラン科の植物ですが、雲南では道端の草原でも多くの種を見ることができます。図10のBletilla formosanaは日本のシランに近いもので、アマナランの和名があり、石灰岩の露岩が点々とする草原で観ることができました。図11はミズトンボ属のものです。これらのラン科の植物も日本に同属のものが分布しており、植物相の共通性を感じさせます。

まだまだ観てきた植物は数多く、それぞれの植物の類縁関係などについても調べる必要を感じていますが、まだそこまでが進んでいません。食事やトイレなどに関してもいろいろと興味深い体験をしましたが、紙数もありませんのでまたの機会にと思います。

最後になりましたが、今回の観察旅行を企画された横浜植物会の方々に感謝します。

図4 Meconopsis horridula(ケシ科)香格里拉近郊ナパ海にて. 図4 Meconopsis horridula(ケシ科)香格里拉近郊ナパ海にて. 図5 Primula secundiflora(サクラソウ科)白茫雪山への峠道にて. 図5 Primula secundiflora(サクラソウ科)白茫雪山への峠道にて. 図6 Primula sikkimensis(サクラソウ科)白茫雪山への峠道にて. 図6 Primula sikkimensis(サクラソウ科)白茫雪山への峠道にて. 図7 Androsace bulleyana(サクラソウ科)香格里拉近郊ナパ海にて. 図7 Androsace bulleyana(サクラソウ科)香格里拉近郊ナパ海にて.
図8 Primula bulleyana(サクラソウ科)甘海子附近にて.
図8 Primula bulleyana(サクラソウ科)甘海子附近にて.
図9 Roscoea tibettica(ショウガ科)甘海子附近にて.
図9 Roscoea tibettica(ショウガ科)甘海子附近にて.
図10 Bletilla formosana(ラン科)石灰岩の草地(芹河附近)甘海子附近にて.
図10 Bletilla formosana(ラン科)石灰岩の草地(芹河附近)甘海子附近にて.
図11 Habenaria delavayi(ラン科)甘海子附近にて.
図11 Habenaria delavayi(ラン科)甘海子附近にて.



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