神奈川県立生命の星・地球博物館

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2004年12月15日発行 年4回発行 第10巻 第4号 通巻39号 ISSN 1341-545X

自然科学のとびら

Vol.10, No.4  神奈川県立生命の星・地球博物館  Dec., 2004


展示シリーズ13「展示室に流れる、見えない水の話」

平田大二(学芸員)
図1 巨大地球儀.
図1 巨大地球儀.

地球の水

 地球は水惑星と呼ばれるほど、水がさまざまな状態であらゆるところに存在しています。地球の表面積の7割を、液体の水である海が占めています(図1)。

 北極や南極、高山などには水は固体の氷に姿を変えていますし、大気中にも気体となって存在しています。人類をはじめ生物の多くは、液体の水がなければ生きてはいけません。地球と生物に、水は欠かせないものとなっています。では、水は、いつ、どのようにして地球上に誕生したのでしょうか。本文では、当博物館の地球展示室の標本をとりあげながら、展示室に流れる、見えない水の話を紹介します。

図2 水の状態図.
図2 水の状態図.

水の性質

 水ってなあに?と質問されたら、どう答えますか。簡単に言えば、無色透明な液体で、摂氏100℃になると蒸発して水蒸気となり、摂氏0℃になると冷たい氷となる、と答えると思います。それを、もう少し科学的に言い換えてみましょう。水は水素と酸素の二つの元素からできています。二つの水素原子(H)と一つの酸素原子(O)が結合してできた化合物で、化学式はH2Oです。水は温度と圧力の条件によって、気体(水蒸気)、液体(水)、固体(氷)の三つの状態をとります。圧力が1気圧の場合、0℃以下では固体として、0℃から100℃までの間で液体、100℃以上では気体として存在します。圧力や温度の変化により、水はその状態を変化させます(図2)。

水の起源

 地球の水は、液体、気体、固体と状態を変えながら、たえず地球表層や内部を循環しています。地球における水の分布とその存在度は、海水と氷床を含む水圏には1.4×1021kg、地殻中の堆積岩には0.073×1021kg、火成岩には0.342×1021kg、上部マントルには0.02~0.2wt%、下部マントルには現在の海洋の5倍(7×1021kg程度)の水が含まれているという考えもあります。

 では、この地球の水はいつ、どこからもたらされたものなのでしょうか。地球は隕石や微惑星と呼ばれる小天体の衝突合体と集積によって形成された、と考えられています。とすれば地球の水は、地球を作った材料物質つまり隕石や微惑星の中に含まれていた、と考えることができます。また、地球の水は地球が形成された後、彗星により持ち込まれたという説や、星間物質の中に氷星間塵(氷微粒子)の存在が確認され、これが集ってできた微惑星が彗星核となり、地球形成期に衝突して水の起源となった、という説もあります。

隕石が語る地球誕生の歴史

原始地球の形成.
図5 原始地球の形成..
図4 原始太陽系星雲の形成.
図4 原始太陽系星雲の形成.
マーチソン隕石(炭素質コンドライト).
図3 マーチソン隕石(炭素質コンドライト).

 隕石は、石質隕石、鉄隕石、石鉄隕石の3種類に別けられます。石質隕石のなかには始原的隕石とよばれるものがあります。最も始原的な隕石といわれる炭素質コンドライト(Cコンドライト)には、炭素や水、硫黄などの揮発性物質が多く含まれています(図3)。

 特にC1コンドライトは、約3.5%の炭素、約20%の水、6%の硫黄を含んでいます。始原的隕石は、原始太陽系星雲中で誕生した母天体(微惑星または原始惑星)から由来したと考えられています。

 原始太陽系星雲は、塵と気体が均一に混合していました。やがて、塵は星雲内を赤道面に向かって沈降し、塵の層が形成され、さらに塵の層の分裂によって微惑星が形成されます(図4)。この微惑星の衝突合体で、惑星が形成されました。地球も、この中で誕生しました(図5)。原始地球の重力によって周囲のガスが捕獲され、太陽と似た水素とヘリウムを主成分とする大気が形成されました。このような大気を太陽組成原始大気と呼びます。

 現在の地球の大気や海洋を構成する主成分は、水(H2O)、炭素(C)、硫黄(S)、窒素(N), 塩素(Cl)など、揮発性の高い揮発性物質でできています。このような揮発性物質に富む地球大気は、固体地球内部からの脱ガスによって形成された脱ガス大気であると考えられています。

 微惑星が月程度の大きさに成長すると、その重力によって大気が保持できるようになります。このような大気を原始水蒸気大気と呼びます。水蒸気は強力な温室効果気体であるため、微惑星衝突によって地表で開放されたエネルギーは、宇宙空間へ放射されなくなります。この結果、地表では暴走的な温度上昇がおこり、やがて岩石が溶け出して、地表はマグマの海(マグマ・オーシャン)で覆われることになります。

 微惑星集積末期になり、微惑星集積のエネルギー量が急激に減少して、水蒸気大気は凝結して原始海洋を形成します。

最古の礫岩の露頭.
図6 最古の礫岩の露頭.

海の誕生

 地球で最も古い液体の水の証拠は、グリーンランド・イスア地方に露出している堆積岩類(図6,7)や枕状溶岩(図8)です。これらは、約38億年前すでに海洋があった直接的証拠です。

 地球上で知られる最も古い岩石は、39.6億年前の年代を示すカナダ北西部アカスタ地方のトーナル岩質片麻岩です(図9)。この岩石の原岩となったトーナル岩は、水の存在がないと形成されません。約40億年前には、すでに水が地球上に存在したことをあらわしています。

生命の誕生

  最古の生命化石は、約35億年前の深海底で堆積したチャートと呼ばれる岩石の中から発見されています(図10)。現在のところ、地質学的な証拠や、生命化学的な検証から、地球の生命は深海底の熱水噴出孔で誕生したと考えられています。生命にとって、水はその誕生のときから不可欠なものだったのです。




最古の礫岩の展示標本.
図7 最古の礫岩の展示標本.
枕状溶岩の露頭.
図8 枕状溶岩の露頭.
アカスタ片麻岩展示標本
図9 アカスタ片麻岩展示標本
最古の生命化石を含むチャート
図10 最古の生命化石を含むチャート

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