神奈川県立生命の星・地球博物館

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2004年12月15日発行 年4回発行 第10巻 第4号 通巻39号 ISSN 1341-545X

自然科学のとびら

Vol.10, No.4  神奈川県立生命の星・地球博物館  Dec., 2004


展示にもうひと味プラスしたら

広谷 浩子(学芸員)

標本を魅力的にみせるには

 今、動物園・水族館が元気です。ユニークな展示法で人気を集める動物園や飼育動物のオリジナルフィギュアを発売して話題を集めた水族館など、各地に魅力いっぱいの施設があります。そして、実際に訪問すると、動物たちの生き生きとした姿に圧倒されます。

 ひるがえって、博物館の展示物はどうでしょうか。展示効果という点では、標本はやはり生体にはかなわないことが多いと思います。標本をどのように魅力的にみせるか、博物館スタッフの腕のみせどころです。

 もちろん、展示では、デザインがかなりの比重を占めますが、ここで強調したいのは、展示をつくるプロセスではなく、観覧のプロセスに対して学芸員が腕をふるう余地があるのではないかということです。すでにできあがっている展示をより印象深くみてもらうためのヒントと考えてください。

 現在、当館ではこのプロセスの主要な部分を展示解説ボランティアに担っていただいています。各ボランティアが、魅力的でわかりやすい解説、おもしろく個性的な解説を行ない、実績をつんでいます。一方、学芸員の側はというと、展示の構成を考え、資料を用意して配置したら、あとはメンテナンスのみと考えがちです。果たして、それでいいのでしょうか。展示は博物館の表看板ですから、バックヤードの活動と結びついてもっとダイナミックに変化するものであっていいはずです。

 ということで、私なりに博物館の展示と向かい合ってみようと思います。展示をよりおもしろく観覧するためにやるべきことを、まとめてみたいと思います。最初は実践のともなわない空論かもしれませんが、いずれはここで提案したアイデアを実践し、その結果もレポートできたらいいなと思います。

展示活用の3つのヒント

 まずは、学芸員が腕をふるえるポイントとして、以下の3点を考えてみましょう。

  1. 標本により親しむための情報提供
  2. 現行の展示のハンズ・オン化
  3. 展示のストーリーや標本同士のつながりを活用した教育プログラム作成
 それぞれに関し、できそうなことの例をあげ、実施のしかたについても提案したいと思います。

【ヒント1】標本により親しむための情報を提供する

写真1 チンパンジーの剥製標本(生命展示室)
写真1 チンパンジーの剥製標本(生命展示室)

 以前にもふれましたが(「自然科学のとびら」9巻4号)、来館者が展示を観覧するようすを観察した結果、ある展示品をめぐって知識を伝えたり、感想を述べあったりして盛りあがる場面が数多く認められました。展示品の前に立ち止まることもなく足早に通過していた人々が、盛りあがった後では、展示品をゆっくりながめるようになります。

 何かエピソードが付与されることで、標本は価値をもったものとして輝きだすのです。そして展示づくりに加わった学芸員こそが、このエピソードを提供できるのだと思います。

 たとえば、私の関わる「森の開拓者 霊長類」のコーナーで1番新しい標本である、チンパンジーのエピソードは、こんな感じ。

 「チンパンジーのメスの子どもは多摩動物園で飼育されていましたが、2000年5月に生後間もなく死亡し博物館に引き取られました。チンパンジーは輸送が大変だと思いましたが、実際にみてみたら、予想以上に小さく軽い(3kg)赤ちゃんだったのでびっくりしました。検体から剥製と骨格標本を作りました。また、脳の標本は京都大学の霊長類研究所に保管されています。アリ釣りをしているチンパンジーは模型なので、生体をもとに作られた初めての標本です。顔の色が白っぽいのと、お尻には白い毛が生えているのがチンパンジーの子どもの特徴です。剥製にする時、子どもらしさを表わしたいなと考え、木の枝にぶら下がってアリ釣りをしている2頭をみているようなポーズを作ってもらいました。」

 このようなエピソードの提供方法は、さまざまです。新しい展示品の紹介として「Newマーク」と共に簡単な情報を展示する、ホームページ上で紹介する、展示解説ボランティアへ情報提供をして解説の時に紹介してもらうなどがとりあえず考えられる方法です。要は順次新しいエピソードを利用可能な形で提供することです。展示品は生体ではありませんが、情報は生きたものでありユニークなものだと思うからです。学問的価値はあまり高くないような雑情報でも、展示品に関心をもってもらうきっかけとなるのなら、意味があると思います。

【ヒント2】展示品をハンズ・オン化する

写真2 チンパンジーの骨格標本.
写真2 チンパンジーの骨格標本.

 近年各館で盛んに採用されているいハンズ・オン展示の考え方を現在の展示に導入することについて、検討してみましょう。

 ハンズ・オン展示とは、単に触れる展示という意味ではなく、さまざまなものや手段を介した展示全体の概念をいいます。観覧者の能動的な働きかけを前提とします。展示をつくる側は、このような働きかけを引き出す工夫をつくりあげなければなりません。経済的な問題やスペース不足から、装置としてつくりあげることがむずかしくても、展示解説とセットにして、効果的なハンズ・オン展示を展開することができると思います。是非とも実践したい分野です。

 たとえば、私の担当する哺乳類の展示では、哺乳類ステージにたくさんの剥製があり、それぞれの分類グループ(目)の特徴が簡単に解説されています。これらの特徴をよく理解し、体の作りの多様性に注目してもらうきっかけとして、ハンズ・オンの試みができればおもしろいと思います。展示品による解説を補完する資料として、骨格標本や毛皮標本を活用することもできるでしょう。

 このような考えから、昨年、学芸員実習の折りに、展示のスポット解説を実習生にやってもらいました。「飛べない鳥・ペンギンについて」「擬態について」「毒をもつ動物について」「モグラのすべて」をそれぞれのテーマにして、ミニレクチャーをしました。準備段階で意図したことが、実践では思うようにいかなかったり、解説を聞いた子どもたちから予想外の反応があったりして、とても興味深い結果となりました。その一部は現在ライブラリーわきに展示中です。

 今度は、展示解説ボランティアのみなさんにも協力・助言をいただきながら、もっと本格的に取り組み、その結果もレポートしてみたいと思っています。

【ヒント3】展示のストーリーや標本同士のつながりを活用した教育プログラムを作成する

 博物館は開館10周年を迎えますが、展示ストーリーや展示コーナー全体を活用した学習プログラムが本格的に実施されたことはないと思います。開館当初からの懸案事項といえます。

 開館から数年間は「博物館探検隊」という講座が夏休みに行なわれていました。これは、展示室全体をまわって、クイズを解き、展示に親しませるという試みです。クイズや探検というゲーム的要素は子どもに好評でしたが、学習とはちょっと趣の違うものです。もっと学習の要素の多いプログラムは考えられないでしょうか。

 総合学習をサポートする施設として、博物館は注目を浴びていますが、十分な対応がなされているでしょうか。現在、学校の総合学習への対応は、個別に要請があったテーマで個々の生徒に対して行なうことがほとんどですが、博物館に来て学芸員と話したことが活用できているのか、疑問です。

 たとえば、哺乳類分野の場合、最も多い質問は「絶滅動物の種類数、どうして絶滅が起こるか」です。私の学校対応のテーマの半数以上を占めています。生徒が散発的にやってきて、ピュアにこんな質問をして、答えを持ちかえるのですが、これでいいのかといつも疑問に思います。もっと、違うアプローチをしたら、おもしろいのにと残念でなりません。

 ここで、学校の姿勢を批判するのは、簡単ですが、ちょっと待って。学校による博物館の利用を遠足レベルから学習にまで引き上げ、学芸員の地位を百科辞典レベルではなく学習内容に助言を与える専門家にまで向上させるには、我々の側にもそれ相応の準備が必要だと思います。

  1. 学校側の状況について、たとえば、カリキュラムの内容や年間スケジュール、人的対応について調べる。
  2. 当館の展示と学校の状況を照らし合わせて、可能な学習プログラムを試作する。
  3. モデルの実施とフィードバックを行なう。

 ここまでの準備のもと、学校側からのアプローチを受けられたら、現在のような欲求不満は軽減するかなと、思います。これまでは、このような準備を怠ってきたのだと反省しています。ヒント2の場合以上に、実践のない空論ですが、できるところから実施していきたいと思います。

 でも、実際には、個人の欲求不満の解消などとしてではなく、この問題には館をあげて本格的に取り組まなければならない時期に来ていると思います。展示の面で元気な動物園や水族館では、学校との連携という点でも、意欲的な取り組みがなされ、成功をおさめているのです。この話はいずれ別の機会に。

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