神奈川県立生命の星・地球博物館

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2004年12月15日発行 年4回発行 第10巻 第4号 通巻39号 ISSN 1341-545X

自然科学のとびら

Vol.10, No.4  神奈川県立生命の星・地球博物館  Dec., 2004


展示シリーズ 13  最小のネズミ「カヤネズミ」

山口 佳秀(学芸員)
写真1 カヤネズミ.
写真1 カヤネズミ.
写真2 カヤネズミと球巣.
写真2 カヤネズミと球巣.
写真3 球巣の中の仔ども.
写真3 球巣の中の仔ども.
写真4 神奈川展示室の展示ケース.
写真4 神奈川展示室の展示ケース.

 展示シリーズ3(「自然科学のとびら」6巻3号)と6(同7巻2号)にかけて、当館の展示資料のなかで最も大きな哺乳類であるマッコウクジラ君に自己紹介をしてもらいました。今回は、当館の展示資料の中で最も小さい哺乳類のカヤネズミ君に登場していただき自己紹介をお願いしました。

 ではカヤネズミ君よろしく。

 皆さん、こんにちは。私は、今、3階の神奈川展示室にいます。「人と自然の関わり・水田から林へ」のコーナーで、私の最も苦手なマムシさんとシマヘビさんと一緒に小さなガラスケースの中に閉じ込められております。自然界では、このような状況におかれれば、私の小さな体などは、とうの昔にどちらかの蛇のお腹の中です。幸か,不幸かわかりませんが、お互い体を思うように動かすことができず、開館以来このような状態が続き、毎日ビクビクしております。

 でも、私がここで皆さんに観ていただいているのには、やはり訳があるのです。

 水田はもっとも人の手の加えられた自然の一つで、ちょっと手入れをおこたれば、あっという間に雑草がはびこってしまいます。そして、4〜5年間も放置すれば、ヨシやオギ、ガマなどの背の高い草が生い茂り、水田の面影は消えてしまいます。やがてイヌコリヤナギやハンノキなどの樹木が芽生え、30年もたてばハンノキの林へと移り変ってしまいます。このコーナーでは人とのかかわりによって移り変わる生物相の変遷の様子を展示しています。その展示構成の中の、水田を放置してから5年後の環境を表す資料の一つとして私と蛇さんやウグイスやアオジ、カシラダカなどの鳥さん達といっしょに展示されているのです。

 観ての通り、体毛は琥珀色を帯びた橙色で、柔らかく、目は黒く、くりくりしていて、とても可愛いネズミと思いませんか。体重は10 g前後、1円玉10個分しかありません。そこで、私にはMicromys minutus「小さい・小さいネズミ」という意味の学名がつけられています。

 私の仲間は、ヨーロッパ、コーカサス北部、シベリア、東はウスリ、朝鮮、南は中国、台湾、アッサム、北ビルマ、インドシナ北部と広く分布しています。国内には本州の福島県を北限とする太平洋側と石川県以南の日本海側,四国、九州一円と対馬などに分布しています。

 カヤネズミという名前の通り,生息地はカヤ(ススキ)やオギなど禾本科植物が生い茂った水田放置後の谷戸地や河原、空き地などです。かつては東京都区内にも多数生息し、少なくとも関東平野においては最も広く普通に分布していたといわれます。しかし、現在ではカヤやススキ野原は次々とブルドーザーに狙われ、造成地などに代わってしまい私達の生息環境は極端に狭められています。狭いガラスケース内にいる今の私のように、多くの友達も、安住の地を探すのに大変苦労しているようです。

 私達にはいくつかの特技があります。第一は巣作りです。一見、鳥の巣ではないかと間違える人もいるそうですが、私達の力作なのです。巣材は主にカヤなどの葉と穂を使います。巣は普通4層からなり、外層は粗く裂いた葉で、中層はさらに細かく裂いた葉で球状につくります。内層は細い繊維状に裂かれた葉からなり、最内層には、カヤの穂を小さく噛み切ったもので生まれてくるこどものための座布団代わりになります。

 また、手(前肢)よりも巧みな動きのできる尾を持ち合わせていることです。尾は体の割に長く、繊細な短い毛で覆われていますが、先端部には毛がなく、ものに巻きつくのに都合がよくなっています。高い位置から下に下りる場合は尾の先端は棒に巻きつくか、またはいつでもしっかり巻きつくことが出来るように軽く棒に絡ませます。反対に高い所に上る場合は、尾はバランスとるという重要な役割があるため物には巻きつけることはありません。それは私達にとっては、まさに5番目の手です。

 先ほども言いましたが、私達の住む環境はだんだん少なくなり、近年では皆さん達の前に姿はもちろん、力作の球巣などをお見せする機会が少なくなってしまいました。

 でも、神奈川県内でも、わずかに残る谷戸地や河川敷などで細々と生息しているようです。一度、可愛い私の仲間、世界で最も小さいネズミを探してみてはいかがでしょうか。

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