神奈川県立生命の星・地球博物館

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1999年3月30日発行 年4回発行 第5巻 第1号 通巻16号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.5, No.1  神奈川県立生命の星・地球博物館  Mar.,1999


資料紹介 正宗厳敬博士・福山伯明博士により記載されたラン科植物のタイプ標本

勝山輝男(学芸員)

正宗厳敬博士はラン科植物の分類を専門とされた植物学者です。1964年に金沢大学を定年で退職された後、小田原市人生田に居をかまえられていました。しかし、1993年に94才でなくなられました。博物館が開館した1995年に無人のまま残されていたご自宅が取り壊されることになり、まだ残されていたダンボール数箱分の押し葉標本が博物舘に収められました。

標本の整理をはじめると、正宗博士が採集された標本だけでなく、福山伯明博士のラン科植物の標本がたくさん含まれていることがわかりました。正宗博士は戦前に台北大学に赴任され、台湾、琉球、海南島、ボルネオなど南方の植物の研究に従事されました。福山博士は正宗博士の弟子として植物学を学び、台湾、琉球、ミクロネシアなどのラン科植物を多数新種として発表されています。福山博士は第二次大戦中の混乱で死亡され、博士個人の標本庫に収蔵されていた標本は失われたものと考えられていました。

整理が進むにつれて、中には正宗博士や福山博士が新種として発表されたラン科植物のタイプ標本も見つかりました。はっきりとタイプ標本と特定できたものは正宗博士の記載したものが1種、福山博士のものが15種ありました。タイプ標本とはいいきれないが、採集年月日、採集地、採集者などが一致し、新種発表に際して参考にされたと推定される重要標本が正宗博士のものが9種、福山博士のものが54種ありました。

植物の新種は国際植物命名規約にしたがい、学名がつけられ、ラテン語で植物の形態の特徴を詳細に記述し、その記述のもとになった植物標本をタイプ標本(基準標本)として指定し、しかるべき学会誌に発表しなければなりません。ある種が分類学的に問題になったときには、タイプ標本にもどって検討が加えられることになります。植物学の研究にとってタイプ標本はきわめて重要なものです。したがって、博物館ではタイプ標本は他の一般の標本以上に注意を払って取り扱われています。正宗博士のご自宅が取り壊される前に、これだけの数のタイプ標本および一連の標本が発見できたことはきわめて幸運でした。


ケショウエビネ Calanthe pumila Fukuy. のタイプ標本.

タイトウキヌラン Zeuxine fluvida Fukuy. のタイプ標本.

左:ウスイロチドリ Amitostigma alpestre Fukuy. のタイプ標本.
右:ハグルマラン Cheirostylis nemorosa Fukuy. のタイプ標本.

ロウバイスケロクラン Lecanorchis cerina Fukuy. のタイプ標本.

ヤクシマラン Apostasia nipponica Masam. のタイプ標本.

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