神奈川県立生命の星・地球博物館

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1999年3月30日発行 年4回発行 第5巻 第1号 通巻16号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.5, No.1  神奈川県立生命の星・地球博物館  Mar.,1999


太古の地球への旅―西オーストラリアの地質調査―

小出良幸(学芸員)

はじめに

1998年10月に、西オーストラリアヘ調査に行きました。地質調査ですので季節は問いません。しかし、調査するのは人間ですので、歩きやすい時期を見はからって行くことになります。10月は日本では秋ですが、南半球のオーストラリアでは春です。

西オーストラリアでは、マーブル・バー、ハメリンプール、ハマースレイの3ケ所を調査しました。いずれも、地球の歴史にとって重要な事件の証拠が発見されています。

地球最古の生命化石

層状チャート
写真1.マーブル・バーのカラフルな層状チャート.

最初に向かったのは、マーブル・バーです。かつては、鉱山町として栄えたのですが、今はさびれた町になっています。しかし、ここを訪れる地質学者は多く、日本の地質学者もよく来ています。この町は、人が住んでいるところでの暑い日の連続記録としてギネスブックに載っています。私達が行った時も、春だというのに40℃にもなっていました。

なぜ、こんな所に来たのかというと、この町の近くで地球で最古の化石が発見されたのです。近くといっても、西北西約50kmにあるノース・ポール(北極の意)がその産地です。4WDで片道1日の行程です。ノース・ポールには人が住んでおらず、マーブル・バーが一番近い町です。似た地層がマーブル・バーにも出ます。ですから、マーブル・バーの地層を観察することにしました。マーブルとは大理石のことですが、実際にはカラフルなチャートがマーブルと間違えられて、町の名前になりました。このようなチャートから地球最古の生命化石が発見されたのです(写真1)。その年代は約35億年前です。細胞がいくつもつらなった化石や、べん毛状のものなど、何種類もの化石が見つかっています。地球の誕生が約45億年前ですから、10億年くらいの間に多様な生物が出現していたことになります。

酸素の形成

ストロマトライト
写真2. ハメリンプールのストロマトライト.

西オーストラリアのシャーク湾は、北側でインド洋に開いています。亜熱帯にある遠浅の湾ですので、水分蒸発が激しく塩分濃度が普通の海水の2倍近くになっています。ですからそこに住める生物種は少なく、変わった生物が住んでいます。ハメリンプールは、湾の最奥部にあり、世界遺産にも選ばれているところです。ハメリンプールには、ストロマトライトと呼ばれるマッシュルーム状の石があります(写真2)。シアノバクテリアが群生して、この不思議な形の石をつくっています。シアノバクテリアは光合成をする生物で、酸素をつくります。ストロマトライトをつくる生物は、今ではほとんど見られません。しかし、20億年前頃の地層には大量のストロマトライトが見つかります。かつてはストロマトライトをつくるシアノバクテリアが、海にあふれるほどいて、大量の酸素を放出していたと考えられます。

縞状鉄鉱層

縞状鉄鉱層
写真3. ハマースレイの縞状鉄鉱層

約20億年前にできた大量の鉄鉱層がハマースレイにあります。この鉄鉱層は、鉱石として長い列車で港まで運ばれ、日本にも輸出されています。ここの鉄鉱石は縞模様を持っている堆積岩です(写真3)。鉄の多い部分とチャートの部分で縞ができています。鉄といっても酸化した鉄、「さび」です。ハマースレイだけではなく20億年前頃にできた縞状鉄鉱層は世界各地で見つかっています。地球の海では、20億年前頃に酸素の濃度が急激に増えたことを示しています。それは大量のストロマトライトの見つかる時代と呼応しています。

さいごに

今回の調査旅行から次のような大地のストーリーが読み取れます。

約35億年前にはすでに、多様な生物が海で誕生していました。20億年前には、大量のストロマトライトをつくった生物が、酸素を海中に放出しました。地球はそれまで、火星や金星のように酸素のない惑星だったのに、急激に酸素のある星になりました。酸素が増えると、多くの生物は絶滅し、海の鉄はさびて大量に沈殿して地層となります。やがて、さびるものがなくなると、酸素は大気中に出ていきました。

赤茶けた半砂漠のオーストラリア大陸には、今の姿からは想像のつかないドラマが記録されていたのです。太古の地球の壮大なドラマを、オーストラリアの大地から垣間見ることができました。


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