神奈川県立生命の星・地球博物館

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1999年6月15日発行 年4回発行 第5巻 第2号 通巻17号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.5, No.2  神奈川県立生命の星・地球博物館  June,1999


資料紹介 地層のはぎ取り資料

田口公則(学芸員)

地球の歴史をしらべる第一歩は、大地をつくっている岩を直接観察することです。露頭とよばれる地表面に岩や地層が露出しているところがポイントとなります。露頭には、いろいろなものがあります。地層のしましまがきれいな見える露頭、化石の産状がわかる露頭、地層がくいちがっているの断層露頭等々です。どれも大地の歴史の情報をつたえる重要な露頭です。しかし、露頭をいつでも観察できるとは限りません。たとえば、昔は河岸にあった露頭が今は護岸整備によって岩が露出していなかったり、重要なものでも工事中に出現する露頭は工事の終了と共に消滅してしまいます。

そこで重要な露頭はなくなってしまう前にくわしい記録をとります。ていねいに作製するスケッチは写真よりもわかりやすい露頭の資料となります。重要な部分は、岩石の採取を行うときもあります。さらには露頭をそのまま実物資料として採取することがあります。それが地層のはぎ取りです。その名のとおり地層の表面を一枚はぎ取った資料です。露頭の表面に特殊な樹脂を塗って固まったものをバリバリとはぎ取ります。実物からはぎ取っていますので即物的な実物資料です。これはジオラマなどの作りのもの地層とは大きく異なる点です。はぎ取り資料を造ることで、いつでも新鮮な露頭(はぎ取り)を観察することができます。また、はぎ取り資料はくるくる巻くことができますのでコンパクトに収蔵できることも利点です。


地層のはぎ取り作業

地層の立体的なはぎ取り
露頭では凹の部分がはぎ取り資料では凸になる。

博物館の資料収集活動でも、この地層のはぎ取り標本の収集を行っています。展示室にも化石の産状を示す標本や火山灰層の標本などいろいろなはぎ取り資料が展示されています。最近では、三浦半島で小柴層とよばれる地層のはぎ取り収集を行いました。典型的な小柴層は、斜交層理とよぶ堆積構造がみごとに発達しています。この斜交層理のシマシマ模様は、地層が堆積したときの古流向を示しています。ここでは大ざっぱに南から北方向への流れが卓越していたようです。正確に知るには、シマシマをつくる平面(層理面)が傾いている方向をしらべなければなりません。シマシマの平面的な構造を立体的に把握することが必要になります。やわらかい地層のときはハンマーなどで面構造を削りだして測定します。でも露頭の表面が凸凹しているときには、ハンマーで面を削りださなくても面構造がわかるときがあります。小柴層のはぎ取りでは、平面的なはぎ取り資料のほかに立体的なはぎ取り資料をとりました。露頭の凹みの部分のはぎ取りをしたのです(はぎ取り資料は凸のものになります)。これはまさに斜交層理の面構造を示すのにふさわしいはぎ取り資料となりました。地層などの面構造をとらえることは地質調査の基本ですが、その教材としてもこの小柴層の立体はぎ取り資料は十分活用できそうです。

ただし、立体はぎ取り資料ですのでくるくる巻いて収蔵することはできません。コンパクトな収蔵という利点を欠いてしまいました。立体的でおもしろいといって、何でもかんでも立体はぎ取りをとると収蔵が大変かもしれません。資料の目的にあわせてはぎ取りの内容を考えた方がよさそうです。

地層のはぎ取り資料について紹介しました。地層のはぎ取り資料は、地学系の展示に利用されていますが、遺跡の地層はぎ取りは考古系の展示に多く利用されています。博物館ではぎ取り資料の展示を見かけたら作りものとは思わないで露頭をしらべるようにじっくり観察してみてください。きっと地球の歴史の情報がたくさん隠されていると思います。



立体的なはぎ取り資料のアナグリフ(3D写真)
右目に青、左目に赤のセロファンをはめた立体眼鏡をかけると立体に見えます。

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