神奈川県立生命の星・地球博物館

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1999年8月15日発行 年4回発行 第5巻 第3号 通巻18号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.5, No.3  神奈川県立生命の星・地球博物館  Aug.,1999


神奈川県の地震の観測と研究

横山尚秀 (神奈川県立温泉地学研究所)

1.有感・無感地震

通常私たちは、始めガタガタ、後からユラユラと地震の揺れ感じます。時たまガタンと一発で終わることもあります。さらに、中には逃げよか、逃げまいか迷うほどの大きな揺れの地震も希に起こります。これらの地震を有感地震と呼びますが、横浜地方気象台の観測によると、有感地震は年間におおよそ40〜60回ほどです。従って、毎月1〜2回は地震を感じることになります。

地震の揺れは始めが縦波、後が横波です。実際の揺れの記録を図1に示しました。地震波を東西・南北・上下の3成分に分けて観測しています。丹沢の地震の例ですが、縦波(P波)から約4秒遅れて横波(S波)が到達しています。もしも、地震時に冷静に対応出来るならば、P波を感じてからS波を感じるまでの時間(秒数)をカウントしてみて下さい。秒数に8を乗じたキロ数(4秒ならば32km)が震源までの距離に相当します。遠い地震か、近い地震か想像が出来ます。

図1(1999年5月22日、丹沢山地の深さ20kmで発生したマグニチュード4.2の地震の記録)
図1 1999年5月22日、丹沢山地の深さ20kmで発生したマグニチュード4.2の地震の記録

2.地震発生場所

地震の発生は地下で岩石が破壊して断層が出来ることです。その破壊の始まった場所を震源といいます。有感地震のほかに、人体には感じない小さな無感地震が数多くあります。県西部地域で発生したこれらの地震について、温泉地学研究所で求めた震源分布を図2に示しました。1990年から1998年までの9年間に発生した地震で、図中の○の位置が震源で、○の大きさはマグニチュード(M)を段階的に示しています。小さな○が密集する神奈川・山梨県境付近、小田原付近、箱根火山が地震がよく起こる場所です。これらの地震発生は、私たちが生活している北米プレートやユーラシアプレートの下に潜り込んでいるフィリピン海プレートと太平洋プレートに関係があります。

図2(神奈川県西部地域の震源分布(1990年1月〜1998年12月))
図2 神奈川県西部地域の震源分布(1990年1月〜1998年12月)
図3(地震発生の仕組みによる分類(日本列島周辺の場合))
図3 地震発生の仕組みによる分類(日本列島周辺の場合)

3.地下構造と地震発生タイプ

地震発生の仕組みは、(1)プレート運動による地震、(2)火山活動による地震の2つのタイプに大きく分けられます(図3)。神奈川県下のプレート運動による地震は、東西、南北の断面場の震源分布が潜り込んだプレートの位置を良く示しています。

神奈川県西部の深度10km〜30kmの地震はフィリピン海プレートが南東から北東方向に潜り込んでいるために起こります。神奈川・山梨県境は関東周辺でも活動が活発なところで、被害を伴うM6クラスの地震が過去に何度か発生しています。また、近い将来神奈川県西部地震と名付けられているM7クラスの地震が相模湾北西部で発生するといわれています。

神奈川県の深度70km〜150kmの深い場所で発生する地震は、東から西方に潜り込む太平洋プレートの運動に関連しています。

箱根から伊豆半島にかけて発生した深度10km以下の浅い地震は、火山活動に伴う地震です。1989年に伊豆半島東方沖で起こった群発地震と海底噴火では、マグマの活動との関連性が明らかになりました。また、箱根火山でも群発地震が時折観測されています。フィリピン海プレートの潜り込みに伴う歪みの蓄積と火山活動との関連性についても注目して観測しています。

4.神奈川で想定される被害地震

平成11年3月にまとめられた神奈川県の地震被害想定報告書には、神奈川県に関連する大地震として、(1)東海地震、(2)南関東地震、(3)神奈川県西部地震、(4)神奈川県東部地震、(5)神縄・国府津−松田断層帯地震の5つがあげられています。地震規模はM7クラスからM8クラスまであり、繰り返し間隔の長短と切迫性の評価や、それぞれの地震に対する観測・取組体制も様々です。

図4(神奈川県西部地域の観測施設分布)
図4 神奈川県西部地域の観測施設分布
図5(GPS観測点間(真鶴〜三保基線長)の変化(1995年3月31日基準)(1995年4月〜1996年6月の基線長の平均値からの残差))
図5 GPS観測点間(真鶴〜三保基線長)の変化(1995年3月31日基準)
(1995年4月〜1996年6月の基線長の平均値からの残差)
図6(1990年8月5日、小田原直下地震の地下水位前兆変化)
図6 1990年8月5日、小田原直下地震の地下水位前兆変化

5.地震研究への取組

温泉地学研究所では、平均繰り返し間隔が73年で、次の地震が1998年±3.1年と推定されている神奈川県西部地震の予知研究のため、1988年から県西部地域を主として観測施設を整備し、現在は地震、地下水位、地殻変動(GPS、光波、傾斜、重力)など30ヶ所で常時観測を行っています(図4)。

その内から、地殻変動の観測結果として、GPSの記録を図5に示しました。北西方向に距離が収縮する傾向が続いています。フィリピン海プレートは年間2〜4cmと非常にゆっくりですが絶え間なく潜り込み、プレートを圧縮し、地震の原動力である歪みの蓄積を行っています。

温泉地学研究所では日ごろの変化と傾向を観測すると共に、地震の前兆となった変化について解析を行い、予知の実用化に向けて研究を行っています。

今までに温泉地学研究所の観測網で地震の前兆と見なされた観測データの変化は、1990年8月5日の小田原直下の地震(M5.1)で観測されています。それは前震の発生と、地震発生の7日から10日前に認められた地下水位の変化です(図6)。しかし、この地震以降はM5を越える規模の地震発生回数が少なく、前兆変化は観測されていません。

地殻変動観測データ蓄積もようやく10年になったばかりです。今のところ地震発生の直前予測は大変難しいです。現在、神奈川県西部地震発生シナリオづくりと前兆変化の予測などの研究を進めています。

6.備えあれば憂い少なし

神奈川県西部地震は、正に地震の再来推定時期を迎えています。各自治体等で防災対策の検討や訓練が進められていますが、より充実を図るために念を入れた点検が必要でしょう。地震予知研究でも、10年間の蓄積データの解析を行って、観測地点毎の変化特性の解明と現状把握が大切です。地震活動度の地域性把握、地殻歪みのモデル化、と歪み量の算定などを行っています。 さらに、地殻変動観測データの異常判定法の改良、観測データと地震発生機構との関連性解明を進め、地震発生の予兆を見逃さないようにしたいと考えています。



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