神奈川県立生命の星・地球博物館

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1999年12月15日発行 年4回発行 第5巻 第4号 通巻19号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.5, No.4  神奈川県立生命の星・地球博物館  Dec.,1999


ライブラリー通信(さこ)

内田 潔(司書)

前号では谷戸・谷津という地名が関東地方に多く残されている事を記しました。これらの地名語はかつては余り知られていませんでしたが、ナチュラリストたちが自然保護や保全を論じる著作のなかで用いるようになってから次第に一般にも広く知られるようになってきました。この辺の事情は以前取り上げた里山の語と似ていますが、里山が比較的近年の造語であるのに対して谷戸・谷津は歴史性をもっています。身近な自然である里山が見直され、保全の動きの広がりとともにその重要な構成要素である谷戸・谷津もクローズアップされてきたという事でしょう。

この谷戸・谷津と似たような地形で迫(さこ)と呼ばれる地名があります。迫とは山の尾根と尾根の間、谷あいの行きづまりの場所のことで、そこに開かれた田は迫田(さこた)と呼ばれてきました。前号でも引いた『新日本地名索引』(アボック社出版局)によれば迫の付く地名は岡山県以西の中国地方と、九州地方に数多く残されています。つまり関東地方で谷戸・谷津と呼んでいるものにほぼ相当する地形を岡山県以西の中国地方と、九州地方では迫と呼び習わしてきたというわけです。

ところで、冒頭にも記したように谷戸・谷津という地名語が里山の保全の必要性を論じる際にしばしば取り上げられるのに対して、迫という地名語はほとんど見かけません。どこかで使われていないものかと自然史関係の図書・雑誌や中国・九州地方の博物館刊行物等を丹念に調べてみましたが残念ながら発見できませんでした。

全国的には自然保護・保全の意識の昂揚でなかで里山の語が定着し、関東地方にあっては自然を守り残していこうという思いがその地方に残された谷戸・谷津という地名語をはからずも浮かび上がらせてきたように、迫という地名語も自然を守る上でのキーワードとして今後中国・九州地方において浮上してくるかもしれないと期待しているところです。


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