神奈川県立生命の星・地球博物館

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2000年3月15日発行 年4回発行 第6巻 第1号 通巻20号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.6, No.1  神奈川県立生命の星・地球博物館  Mar.,2000


博物館は宝の山!〜博物館資料の活用〜

開館5周年記念事業実行委員会

神奈川県立生命の星・地球博物館も平成12年3月に開館5周年を迎えます。これまでの開館1・3周年時には、それぞれ「自然史博物館のあり方」、「ユニバーサル・ミュージアム〜視覚障害者と博物館」とといったテーマを取り上げシンポジウムを行ってきました。今回は、博物館資料に目を向け、「資料の活用」について掘り下げるべく標記タイトルの講演会を企画しました。

博物館資料は活用が生命〜博物館資料と博物館活動理念〜

濱田隆士(館長)

博物館から“物”が消えたら、などということを考えるのは全くのナンセンスです。いかに高度科学技術社会だからといって、バーチャル・イメージだけのディジタル・ミュージアムが成り立つわけはありません。“物”あってこそ画像化できるのですから、電子情報は極めて有効な補佐役、と受け止めるのが良識というものでしょう。

といって、“物”を収蔵庫いっぱいに抱え込んでいても、いかに立派な標本を展示室に飾っていても、博物館の実力が本当に活かされているとは言えません。博物館の資料というものは、できるだけ有効に利用されるべく配慮され、処置されるべきものだと思います。

生涯学習時代に最も相応しいメディア機構として、“物”に触れ、本物の持つ奥深い情報に接しながら様々の切り口で知的好奇心を満足させることができる「場」、それこそが、真に生きて“開かれた博物館”と呼べるのでしょう。

埋もれた宝を掘り出す〜魚類写真資料データベースに秘められた可能性〜

瀬能 宏(学芸員)

神奈川県立生命の星・地球博物館では、まったく新しい試みとして、ダイバーが撮影した魚の水中写真を収集しています。写真は客観的な記録媒体であり、撮影者の魚に対する知識とは無関係に等しい資料的価値を持っています。また、標本では保存できない生きている時の美しい色彩を記録することができます。さらに、被写体の正確な名前がわかれば、撮影場所や撮影水深、撮影年月日などの属性を利用して、標本と同じように様々な研究活動に役立てることも可能です。これらのことは、魚の研究とは無縁のダイバーが、日々、それこそ世界各地で撮影、蓄積しつつある写真はすべて、魚の研究に役立てられることを物語っています。多くのダイバーが撮影した水中写真をコンピューターを使ってデータベース化できれば、魚の分類や生態、分布の研究がどれだけ進展することでしょう。研究者からみると、ダイバーが撮影している水中写真は、まさに埋もれた宝の山なのです。

植物標本利用のすすめ

勝山輝男(学芸員)

植物の名前を調べるのに、日本では図鑑を使います。日本の植物に関しては良い図鑑が多数出版されています。したがって、変異が少なく、分類上問題のない種類は図鑑を用いて同定ができます。しかし、分類上問題のある種類は図鑑の記述では自信をもって同定することができません。このようなときには植物標本が集積されている標本庫を利用することをおすすめします。植物の標本庫のことを欧米ではハーバリウムといいます。欧米では単独で設置された国立のハーバーリウムがあり、ときには植物園にハーバリウムが設置されていて、そこがその国の植物研究の中枢になっています。残念ながら、日本ではハーバリウムという施設の名前は定着しませんでした。植物園も多くは庭園的な要素が強く、職員に栽培の専門家はいますが、植物分類の専門家はなく、ハーバリウムも持っていません。日本では大学の植物分類学の研究室や博物館の植物部門で細々とハーバリウムが維持されています。当館のハーバリウムは日本産の植物が大部分ですが、北海道から沖縄までのほとんどすべての植物が収蔵されています。県内のアマチュア植物研究家が中心になって『神奈川県植物誌2001』の編纂作業が行われていますが、その執筆者も記載を書くにあたって、植物標本を参考にしています。標本にあたることにより、既刊の図鑑には記述されていない形態の特徴に気付き、ときには新分類群が記載されることもあります。日本は外国に比べてハーバリウムは整備されていませんが、アマチュアの植物研究は逆にさかんです。アマチュア植物研究家が、博物館等のハーバリウムを利用し育てることにより、日本のハーバリウムもしだいに充実することと思います。当館ではアマチュア植物研究家にとって利用しやすいハーバリウムにすることを目指しています。

みんなで化石さがし!〜新しい化石ローンキットの試み〜

田口公則(学芸員)

化石と聞いて「発掘をしてみたい」と思う人は多いでしょう。そんな夢のために、博物館に大量にあった化石資料を学校等に貸出して教材利用に活用するプロジェクトを試みました。

材料は、地層から持ってきたままの化石を含む未処理の岩塊です。つまり、その材料は、野外での化石採集のように化石を探す作業を可能にするものです。この教材利用の呼びかけに対して多くの学校等の利用があり、利用先では大勢の子どもたちがワクワクしながらの化石体験を楽しみました。そして、子どもたちの手によって多数の化石が丁寧に標本化されました。

一方、博物館では子どもたちの標本を博物館資料として受け入れることにしました。自ら見つけた化石を博物館資料として登録し、資料収集活動の一部を担うことで、博物館活動を体験してもらいたかったからです。子どもたちの見つけた化石は、貝の破片までも登録しました。つまり、よく見つかるけれども保存が悪くて図鑑ではわからない化石がコレクションに加わったのです。これは、つぎに化石さがしを体験する子どもたちが化石を調べる際の最良の資料となりました。

学芸員と教員が橋渡しとなって資料を活用し、子どもたちの「化石体験」と「博物館体験」につながりました。


濱田隆士・小島 稔・高橋大和・苅部治紀・山下浩之・今永 勇・田口公則

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