神奈川県立生命の星・地球博物館

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2000年3月15日発行 年4回発行 第6巻 第1号 通巻20号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.6, No.1  神奈川県立生命の星・地球博物館  Mar.,2000


神奈川の自然シリーズ13  神奈川のモリアオガエル

新井一政(学芸員)

モリアオガエル……その名前が示すとおり、森(森林)にすんでいる青い色(緑色)をした蛙です。このカエルは樹上性で、本州の広い地域(海岸近くから標高2,000mを越える高地)で見られますが、主として山地の森林、それも広葉樹を中心とした林に多く生息しています。繁殖期は4〜6月で、池沼や水田など止水域の水面上に張り出した樹の枝や葉、草の上などに雌雄で乳白色のきめの細かい泡状の塊をつくり、その中に 300個ほどの卵を産みます。卵塊の中で孵化した幼生(オタマジャクシ)は水中に落下して成長します。

神奈川県内では箱根や三浦半島、多摩丘陵などにモリアオガエルが生息するとの複数の古い報告があるのですが、そこに記録された場所でその後本種が見つからないため、はたして確実な記録なのかどうか疑問視されていました。池などの水面上の枝先に産みつけられた白い卵塊が良く目立つため、モリアオガエルの生息地では繁殖期にその存在が比較的容易に確かめられるのです。


神奈川県におけるモリアオガエルの生息地

県内で現実に本種の生息が認められたのは1982年7月、藤野町佐野川でのことです。その後1993年に鎌倉市で、1996年には南足柄市でも卵塊が発見され、成体(カエル)も確認されました。現時点で、県内でのモリアオガエルの生息地は3か所になったのですが、図に示したようにそれぞれの生息地は遠く離れており、互いの関連性は認められません。しかし、彼らが産卵している場所には不思議な共通点があるのです。それは、3つの地域とも人工の池が産卵場所となっていることです。

藤野では中央自動車道より北側に産卵地が散在しており、産卵場所は人家の池や水泳プール、簡易水道の施設などです。

また、鎌倉では極楽寺や長谷の人家の池と寺院の池が産卵場所です。

さらに一番新しく発見された南足柄の生息地では、金時山の北西側斜面で箱根町・仙石原と南足柄市を結ぶ明神林道脇に設けられたコンクリート製の雨水調整用池が産卵場所です。ここでは96年と98年にそれぞれ1卵塊のみが確認されたにすぎません。


モリアオガエル♀(鎌倉市)

藤野町教育委員会がまとめた冊子・ふじ乃の樹木(附名勝と動植物)には、昔からモリアオガエルがいたという古老の話も紹介されていますが、最初に本種が発見された当時、筆者らがおこなった地元での聞き込み調査では(木の上の白い卵塊などは)以前は見かけなかったという話が殆どでした。

そして、鎌倉の生息地では1900年頃から卵塊を見かけるようになったという情報がありますし、南足柄市の産卵場所から一番近い地蔵堂地区では、モリアオガエルの生息に関する情報は得られませんでした。

以上のことから、神奈川のモリアオガエルはいずれも人為的に持ち込まれた個体が定着して繁殖を始めた可能性が非常に高いのではないかと思われるのですが、残念ながらそう断言するだけの証拠はまだ揃っていません。


枝に産卵された卵塊(南足柄市)

モリアオガエルの幼生(南足柄市)

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