神奈川県立生命の星・地球博物館

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2000年3月15日発行 年4回発行 第6巻 第1号 通巻20号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.6, No.1  神奈川県立生命の星・地球博物館  Mar.,2000



写真1 カワウ(1階生命展示室)

展示シリーズ1 カワウ

中村一恵(学芸部長)

カワウは魚取りの名人

カワウは水中にもぐって魚を採る鳥です。そのため、水中で機敏に動くための装置がからだにいくつも備わっています。生命展示室のカワウの剥製(写真1)は、水中での潜水姿勢をとった時の姿態を表現しています。足の位置と足指の形(写真1)に注目して下さい。足はからだの中央部ではなく、後方に付いていて、足指のすべてが肉厚のみずかきでつながっています。ウは水中を移動する際に翼を使うことはあまりありません。みずかきの発達した太くて頑丈な足を力強くかいて水中を動きまわります。くちばし(写真2)にも注目しましょう。先端が鋭くかぎ形になっています。魚をしっかりつかまえるための装置です。

写真2 カワウのくちばし

カワウの群れを追尾するサギ

博物館の脇を流れる早川は、下流から上流へ、上流から下流へと移動するカワウの「通り道」になっています。今年の1月20日のことです。午後3時ごろ35羽ほどの群れが飛来しました。この日はいつもとは違って、10羽のサギ類(コサギ8、ダイサギ1、アオサギ1)がウの群れのあとに付いて行動していたのです。博物館脇の早川でふだん見るコサギの数は1〜2羽程度ですから、ちょっとした数です。旋回してカワウの群れが着水すると、サギ類も一緒にその近くの水辺に降りました。群れの一部は潜水して餌を探していましたが、サギたちはこうしたウの動きを見ている様子。15分ほどしてウの群れは上流へ向かって飛び立ってしまい、いつの間にかサギの群れも姿を消してしまいました。

ウとサギが一時であれ、混群を形成した理由は「食」にあり、と見ました。

カワウは魚が多い場合は群れで同じ方向に向かって先頭からつぎつぎに潜るため、魚を追い込むことになります。追い込まれた魚はサギにとっても取りやすい、つまり、サギはウのたくみな「漁法」を利用して魚を取ることを学習したのではないでしょうか。こう考えないと、なぜサギ類がウの群れを追尾するのか説明がつきません。

ウミウが減ってカワウが増える

神奈川県ではカワウのほかに2種のウを観察することができます。ウミウとヒメウが冬鳥として東京湾や相模湾沿岸に渡来します。三浦半島城ケ島の赤羽海岸の断崖地は2種の県下最大の塒(ねぐら)となっていて、1970年代にはヒメウを合わせて約2,000羽が塒時していましたが、現在では半数程度に個体数が減少したと報告されています。一方、神奈川県ではかつてカワウは非常にまれな鳥であり、1974年に『神奈川県鳥類誌2』(県立博物館刊)をまとめたときには、藤沢市片瀬川河口の古い記録(1例)しか見つけることができませんでした。

カワウはかつて本州以南のどこにでも普通に見られる鳥と言われていましたが、明治以降のかなり早い時期に各地で減少傾向となり、開発による生息環境の破壊や駆除などの影響により1971年には全国でたった2ヵ所のコロニ−に約3,000羽が残存するまでに減ってしまいました。1970年代の神奈川県にカワウがほとんど見られなかったのは、全国的なカワウの個体数の減少に関連した現象であったと思われます。現在では中部と関東地域を中心に個体数が約30,000羽以上に達するまでまでに回復してきています。

神奈川県でも最近、相模川水系や酒匂川水系を中心にカワウが急激に増え、いまでは5、60羽の大きな群れに遭遇することも少なくありません。展示室でカワウの形態をじっくりと見て、そして彼らの生態や行動を野外で観察してみてはいかがでしょうか。 

参考文献


本号より「展示シリーズ」がスタートしました。神奈川県立生命の星・地球博物館の展示ストーリーとはひと味違った観点から学芸員が展示物を紹介していきます。
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