神奈川県立生命の星・地球博物館

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2000年3月15日発行 年4回発行 第6巻 第1号 通巻20号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.6, No.1  神奈川県立生命の星・地球博物館  Mar.,2000


資料紹介 澤田コレクション―澤田武太郎氏収集の書籍と植物さく葉標本―

田中徳久(学芸員)

図1 ハコネラン(1994年6月17日 勝山輝男撮影)

図2 キントキヒゴタイ(1983年9月23日 勝山輝男撮影)

昨年、1999年は澤田武太郎氏の生誕100年にあたります。氏は1899(明治32)年11月17日、東京に生まれました。関東大震災後、実家である箱根底倉のつた屋旅館の復興に尽力され、1938(昭和13)年12月27日、39歳の若さで亡くなられました。

氏の植物に関する興味は父親により幼児期から感化されたもので、金沢第四高等学校在学中、早くもカムチャッカ方面に採集旅行し、その折の採集品が京都大学に所蔵されています。また、その後は、東京大学の経済学部に在籍しつつ、同大学の植物学教室に出入りするとともに、我が国でもっとも古い植物愛好団体である横浜植物会に入会し、久内清孝氏と知り合い、同会の指導者であった牧野富太郎氏を師と仰ぐようになりました。氏の採集品の産地は、北はカムチャッカから、西は山口県に及びますが、特に箱根の植物については、綿密に調査・採集されており、ハコネラン Ephippianthus sawadanus Ohwi(図1)やキントキヒゴタイ Saussurea sawadae Kitam.(図2)など、箱根を基準産地とする植物の学名にその名を残しています。

当館には、氏が収集された書籍とさく葉標本が収蔵されています。

書籍は、『澤田文庫』として、当館の前身である神奈川県立博物館に寄贈されたもので、『澤田文庫目録』(神奈川県立博物館編, 1972)によりその全容を知ることが出来ます(図3)。澤田文庫には多くの貴重な書籍が含まれていますが、中でもKaepfero(ケンペル)氏の1712年刊行の "Amoenitatum exoticarum, politico-physico-medicarum. fasc. 5. Rerum Persicarum & ulterioris Asiae" (図4)は特筆すべきものではないかと思われます。

一方、さく葉標本も、その大部分は東京大学に寄贈されましたが、その一部が当館にも収蔵されています。氏の押し葉標本については、本田正次氏が「さすがの牧野博士も舌を捲いてほめていたほど」(1978年, 国立公園, 1978年正月号: 12-13)と記しています。当館に寄贈されたものは、新聞紙の半紙大の、現在使われているものより大きな台紙に貼付された立派なもので、他の押し葉標本と同じ標本棚には収納できず、専用の標本棚に収納し、整理しています。その標本の中には、現在では、箱根から失われたと考えられるイチヨウランやアツモリソウなどの貴重な標本や、献名されたハコネランの標本などが含まれています(図5)。

なお、澤田武太郎氏の略歴や業績は、氏の実弟である澤田秀三郎氏が編した『澤田武太郎植物日記』(1979年, 箱根町教育委員会)に詳しく、久内清孝氏による「故澤田武太郎君追想記」(1939年, 植物研究雑誌, 15: 253-255.)にも、その人柄を偲ぶことができます。


図3 ミュージアム・ライブラリーに収蔵されている澤田文庫


図4 Kaepfero(ケンペル)氏の
"Amoenitatum exoticarum, politico-physico-medicarum. fasc. 5. Rerum Persicarum & ulterioris Asiae"

図5 澤田武太郎氏により箱根で採集されたハコネラン・アツモリソウ・イチヨウラン

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