神奈川県立生命の星・地球博物館

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2000年9月15日発行 年4回発行 第6巻 第3号 通巻22号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.6, No.3  神奈川県立生命の星・地球博物館  Sept.,2000


神奈川の自然シリーズ14 江ノ島の海食地形

今永 勇(学芸部長)

江ノ島は、第三紀中新世(およそ1500万年前)の葉山層群の塊状の砂岩が島の主要部をなし、島の北東部のヨットハーバーからかながわ女性センターのある辺りを三浦層群逗子層と池子層の泥岩と凝灰岩の互層(500万〜300万年前)が占めています。この両地層群の間は、断層で接しているものと思われ、三浦半島の両層群の西方への延長部にあたっています(図1)。波の浸食作用に対しては、葉山層群の塊状の砂岩が三浦層群の凝灰岩や泥岩の互層より強いようです。

江ノ島は、周囲約3kmの島で、片瀬川(境川)の河口に位置し、砂浜から沖合いの島に砂州が伸び、島にほとんど繋がっています。この地形は、トンボロと呼ばれ、島に妨げられた波が作る沿岸流により砂が運ばれてできたものです(図2)。島は、最高地点が海抜60.4mを示す平坦な台地で、過去の海食台の上に箱根や富士山からの火山灰が覆ってできています。

海岸の波の破壊力は、海面下のある深さまでおよび、海面下にできた波の浸食面を海食台と呼びます(図3)。江ノ島は、約13万年前の最終間氷期の海面が上昇した時代(下末吉海進期)には海面下にあり、海食台を形成していたと思われます。江ノ島が離水したのは、覆っている火山灰の年代から小原台面形成期の約8万年前でしょう(図4)。

今から約2万年前の最終氷期には、海面が今より−120m〜−140mぐらいまで下がっていました。このころ腰越と江ノ島の間に谷地形ができて、現在の孤立した島の元の地形が出来たのでしょう。2万年前の最終氷期から6000年前の縄文海進期までの間に海面は、1年に1cmぐらいの割合で急上昇しました(図5)。縄文海進の時、海面が今より2〜3m高くなり内陸の奥深くまで海が進入し、河川の運搬してきた土砂がその内湾を埋め立てていました。6000年前以降は、2〜3mの海面の上下はあったとしても海面は安定した時期に入りました(図5)。江ノ島は、海面が安定した時期に海岸の浸食が進みました。その一方、地殻変動により断続的に隆起していたのです。大正関東地震時には、江ノ島の波食台は0.91m隆起しています。

沖に面した江ノ島の海岸には、波食棚が広がり海食崖が発達し、ほぼ南北の方向の断層に沿って、いくつかの海食洞窟ができています。江ノ島の海食洞窟の形態の一例を、“山二つ”の近くにある隆起海食洞窟(図6)でみると、入り口の高度が海抜4.2mで、奥行きが22m、入り口が直径5mのほぼ円筒形をしており、入り口より9mの地点から奥は、天井が低く、横幅が広い扁平な鏡餅型の洞窟横断面を示しています。洞窟の床面に凹凸があるが、天井・側壁は、波の作用により磨いたように平滑になっています。この海食洞窟の形態を見ると、洞窟の出来方が推定されます。波によってまず海食崖ができます。同時に崖にある断層の方向に波の破壊がすすみ海食洞が出来始めます。洞窟の奥は波により水平方向に広がるような浸食作用が働き平たい鏡餅型の断面になるのです。地殻変動により隆起します。経過は、このようでしょう。また隆起して離水した海食台は、風波の浸食作用によって海面すれすれの波食棚に変わっていくのです。

島の西端の稚児ヶ淵近くの海食洞窟は、奥行きが島で一番深く、130mを越え、お岩屋と呼ばれ信仰の場となっています。かってお岩屋の入り口付近の海崖からの落石により観光客に被害がでたことから洞窟の入り口は、人工的に掘られた横穴から入り、洞窟内も落石をふせぐ工事がなされ、床面は砂利を敷きコンクリート舗装がなされています。そのために洞窟内は、どこまでが人工でどこが自然の洞窟であるのか分かりにくくなっています。しかしよく見ると、この洞窟は、海面から数mの高さにある隆起海食洞であり、洞窟内を進むと入り口付近は、天井が高く丸みを帯びた洞窟断面が、奥に行くと天井は低くなり、水平方向に広い鏡餅型の断面になっているようです。洞窟の形成の途中で地殻変動があり隆起し、隆起のたびに洞窟の底が再浸食されるので洞窟の天井が高くなります。とともに洞窟の奥へ浸食が進んでいきました。やがて、海食洞の隆起速度に海食作用がついていけなくて海水面上に離水し、現在の洞窟になったと思われます。自然の造形に興味を持って観察されると良いでしょう。

最後に貴重な資料・情報を頂いた小林政夫氏・相原延光氏に感謝します。

図1
図1 江ノ島の葉山層群、三浦層群の分布と三浦半島への延長
図2
図2 トンボロ地形の形成図
図3
図3 岩石海岸の浸食地形模式図(茂木、1971より)
図4
図4 江ノ島の地質模式柱状図
図5
図5 東京湾の海面変動曲線(貝塚ほか、1977より)
図6
図6 江ノ島南岸“山二つ”の海崖と海食洞窟(写真中央)と波食棚

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