神奈川県立生命の星・地球博物館

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2000年9月15日発行 年4回発行 第6巻 第3号 通巻22号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.6, No.3  神奈川県立生命の星・地球博物館  Sept.,2000


おおらかなマメ科の複葉

木場英久(学芸員)

公園などに植えられるマメ科のシロツメクサ(クローバー)は、普通は三つ葉なのに、丹念に探すと四つ葉が見つかります。四つ葉のクローバーを見つけると、良いことがあるという言伝えを信じて、そっと手帳にはさんでおいた経験のある方も多いのではないでしょうか。

奇数羽状複葉とは

ここで「三つ葉」と表現したものは、植物学的に正しくいうと「3小葉からなる1個の葉」ということになります。葉の本体(葉身)がいくつかの部分に分かれているような葉を複葉といい、個々の部分を小葉といいます。シロツメクサの仲間では1点から放射状に3個の小葉が出ているので、掌状三出複葉といいます。

複葉には他にもいろいろなパターンがあります。その一つに、葉の中軸の左右に小葉が並んでいる羽状複葉があります。先端に小葉があると、小葉の枚数が奇数になるので奇数羽状複葉といい(図1a)、葉の先が巻きひげに変化していたり(図1b)、先端の小葉が無かったり(図1c)すると偶数羽状複葉といいます。たとえば、サンショウ(ミカン科)やナナカマド(バラ科)の葉は奇数羽状複葉です。

羽状複葉
図1 羽状複葉

奇数か偶数かの質問

数年前、「本によって違うことが書いてあるが、イタチハギ(マメ科)は奇数羽状複葉か、偶数羽状複葉か」という質問が寄せられました。このときは、偶数か奇数かの違いなんて、上に書いたように簡単にわかるはずなのに、いったいどういうことだろうと思いました。これを確かめるのには、実物を見るのがもっとも良い方法です。博物館には収蔵庫があって、すぐに見たい実物標本を見ることができます。ふだんは、標本の維持管理に手間がかかり大変ですが、こういうときは本当にありがたいものです。

奇数羽状複葉では、葉の先端にある小葉(頂小葉)以外の小葉(側小葉)は、葉の中軸の両側に2個ずつ向かい合ってつく(対生する)のが普通です(図2a)。ところが、イタチハギのほか、マメ科のクララやハリエンジュなどでも手元の図鑑には「葉は奇数羽状複葉」と書いてあるのに、標本を見ると小葉の対が少しずつずれていることがありました(図2c)。そして、大多数の葉では奇数羽状複葉なのですが、ずれが大きい葉では小葉の数が偶数になってしまうことがありました(図2b)。こういうことは厳密に決まっていることかと思っていたら、なんと植物はおおらかなことでしょう。このように、本来は奇数羽状複葉なのに、まれに偶数になる現象は、クルミの仲間(クルミ科)やアオダモ(モクセイ科)などでもありました。「おおらか」なのはマメ科だけではないようです。

シロツメクサは羽状複葉ではなく、葉の中軸が詰まった掌状複葉ではありますが、四つ葉のクローバーができるのも、マメ科植物の「おおらかさ」の一例なのかもしれません。

イタチハギ
図2 イタチハギ

それからしばらくして

今年の春のこと、上記の質問のことも忘れかけていたころ、野原に普通に見られるマメ科のカラスノエンドウ(ヤハズエンドウ)を見ていて気づいたことがありました。カラスノエンドウの葉は羽状複葉ですが、先の方が巻きひげになっています。この種でも、側小葉がきっちりと対生せずに、ずれることがあるのです。

側小葉が対生しているときには、巻きひげの枝も対生し、葉の先端の巻きひげの枝を加えて、3本とか5本とか必ず奇数本の枝をもつのですが(図3a)、側小葉が互生しているときには、巻きひげの枝も互生し、本数は奇数だったり偶数だったりしていました(図3b)。つまり、葉の先端寄りの小葉が巻きひげの枝に変わっているので、このようになるようです。

カラスノエンドウ
図3 カラスノエンドウ

「巻きひげ」とは、どこのこと?

ある本では、カラスノエンドウの葉について「先端はふつう3分する巻きひげとなる」と書かれていますが、別の本には、「カラスノエンドウの巻きひげは小葉が変化したもの」と書かれていました。前者は図4aの丸で囲んだ部分を、後者では図4bの実線で描いた部分を「巻きひげ」といっていて、人によって理解のしかたが違うようです。私はこの春、カラスノエンドウを見るまで、この2冊の本の「巻きひげ」が同じもののことを指していると思っていたので、頂小葉が3本くらいに分枝していると理解していたのですが、これは誤りでした。

巻きひげは、植物がよじ登るために発達させた部位であり、必ずしも相同(同じ起源の部位が変化したもの)ではありません。たとえば、サルトリイバラ(ユリ科)の巻きひげは托葉の変形、ヤブカラシ(ブドウ科)のは茎の変形とされます。よじ登るための機能を発揮する部位のことを「巻きひげ」と呼ぶとなると、カラスノエンドウの場合、図4aなのか、図4bなのか判断が分かれるのもやむを得ません。私のような誤解を生まないように、図4aの部分について相同性をわかりやすく表現するならば、「いくつかの小葉と中軸の先端が変化したもの」となるでしょう。

とはいえ、ここはひとつマメ科植物の「おおらかさ」を見習って、細かいことを言うのはやめておいた方がよいでしょうか。

巻きひげ
図4 巻きひげ

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