神奈川県立生命の星・地球博物館

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2000年9月15日発行 年4回発行 第6巻 第3号 通巻22号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.6, No.3  神奈川県立生命の星・地球博物館  Sept.,2000


でるかな!?三葉虫〜特別展プログラム・化石ノジュール割り体験〜

田口公則(学芸員)

特別展でのハンズ・オンに大人気

博物館の特別展・企画展は、手づくりする部分も多く地味になりやすい反面、新しい展示やプログラムを試みることができる貴重な機会です。平成11年10月に開催した特別展「のぞいてみよう!5億年前の海〜三葉虫が見た世界〜」は、“ハンズ・オン”を意識しながら企画したところ、多方面からの注目を集めました。この“ハンズ・オン”とは、手で触り、観察し、考え、楽しみながら学ぶといった意味合いをもつ言葉です。参加・体験を重視する展示や博物館のあり方を示すものとして注目されています。ただし、自らの観察や体験を通して気づくことが大事なのですから、必ずしも「触れれば=ハンズ・オン」というものでもなさそうです。

人によってハンズ・オンの解釈はまちまちですが、特別展でのプログラムを紹介し一つの事例を供したいと思います。

前述の三葉虫特別展は、古生代の海の生き物たちにスポットをあてることがねらいです。古生代の水族館を模した展示デザインやソフトX線写真をつかっての化石紹介等の展示にも関心が集まりましたが、中でも人気を博したのは、毎週行われたプログラム「化石ノジュール割り体験」です。ノジュールと呼ばれる化石の入っている丸石を割り、その中の化石探しをするという、子どもも大人も楽しめるプログラムとして注目されました。

このプログラム、石を割るのですから普通なら実習室等で行うところですが、あえて同一の特別展示室の中で行いました。展示をよく見てもらうきっかけのためのプログラムと位置づけていたからです。少しプログラムの流れを追って見ましょう。

楽しいノジュール割りの様子
楽しいノジュール割りの様子

化石ノジュール割り体験プログラム

化石割りプログラムは、午前・午後の各1回ずつ先着20名の参加者により行われます。参加するために早くから待っている方がいるほどの人気ですが、開始を待つ間は化石探しへの期待で気持ちがいっぱいでしょう。時間になり番号札を受けとると展示室への入場です。

最初の説明が終わると、先ずは1番の人から自分が割ってみたいノジュールを選ぶ作業です。材料となったノジュールは化石が入っていそうなものを南米ボリビアから集めたのですが、それでも化石が入っているとは限りません。ノジュールを手に取りあれやこれやと考えます。ノジュールを選ぶ手がかりは、展示されている標本や化石割り体験プログラムの成果にあります。どんなノジュールから化石が見つかっているのか展示を見ればいいのです。ほこりっぽい石がいいのか、つるつるした石がいいのか、細長い丸石がいいのか…。うしろの順番の人も展示の化石を見る目が真剣です。

自分のノジュールを選んだら、次は割り方を考える番です。ギロチンのようなジャッキに丸いノジュールを挟んで割るのですが、このとき挟む位置によってはせっかくの三葉虫を胴切りにしてしまうかもしれません。三葉虫が入っているとしたら、こんな向きだろうと考えながら、割る場所を決めていきます。このときもまた、ノジュールのでき方の法則を考えたり、展示標本を観察することが手がかりになります。

ここまできたら、いよいよノジュール割りに挑戦です。学芸員の補助を受けながらの作業ですが、丸いノジュールをきちんと挟むのは難しく、中心からずれるとすぐに丸い石がコロッと外れてしまいます。何度挟んでもなかなか割れない石は、化石が入っていなかったり、割る場所がよくないのかもしれません。見事な三葉虫が飛び出すときは、意外に簡単に「パキッ」と割れるようです。ノジュールの中に平面的な形で入っている三葉虫が弱線となり無理な力で無くとも割れるのです。

割れたノジュールの断面に、少しでも化石の一部がみつかると、化石があったことに大喜びです。そして、得意満面になりながら、こんどは自分の見つけた化石は何だろう? と化石をもっと知りたい気持ちも現れてきます。ちょっとした形の特徴や表面の様子から何の化石か推測します。ノジュール割りでは、たいがい化石の一部分しかでてきません。化石全体の情報を頭にいれておくことで、一部分の情報でも何の化石か推測できるわけです。また、どれに似ているかなと多数の展示標本と比べることもゲーム感覚で面白いのかもしれません。


化石が見つかったノジュール
化石が見つかったノジュール(11月7日)

体験を何度も振り返る

さて、今回の特別展では、のべ700人弱のみなさんがプログラムを体験しましたので、約700個のノジュールをしらべたことになります。結果は、なんと280個の何らかの化石が見つかりました。しかも、三葉虫は100個近くにもなったのです。ボリビアの古生層のノジュールからは三葉虫がよく見つかることを実感できました。

特別展プログラムの成果ともいえる化石が入っていたノジュールは、化石ラベルと共に博物館の資料として登録しています。そのデータは、博物館のシステムから画像も含めて検索することができます。

紹介を兼ねて、数ヶ月後もう一度ノジュール割りの成果を展示したところ、何組かの参加者が展示を見に訪れていました。自分の見つけた化石の標本を前にノジュール割りの楽しい思い出を振り返っていたようです。

モノへの手がかりが重要

今回のプログラムの成功は、博物館に豊富にある資料をうまく活用し、プログラムの内容と展示をからませることで参加者が楽しく化石を調べる体験につながったことが一因でしょう。もし、ノジュールを並べただけの展示を行っていたら、ノジュールを真剣に観察する人はいなかったでしょう。手に取ったとしても、ただの石ころとしか思わなかったかもしれません。展示において博物館の準備した“手がかり”をもとに、いかに来館者が試したり考えたりしてハンズ・オンできるかが重要のようです。



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