神奈川県立生命の星・地球博物館

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2000年9月15日発行 年4回発行 第6巻 第3号 通巻22号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.6, No.3  神奈川県立生命の星・地球博物館  Sept.,2000


ライブラリー通信 ダーウィンブームの予感

内田 潔(司書)

昨春から、『ダーウィン著作集』(文一総合出版)の刊行が始まりました。ダーウィン生誕200周年に当たる2009年までの10年間で20巻程度の規模で刊行するとのことです。ダーウィンの著作、あるいはダーウィンに関する図書は毎年のように刊行されていますが、まとまって全集・著作集の形で刊行されるのはほぼ半世紀ぶりになるのではないでしょうか。これまでダーウィンの全集といえば戦前の1938年から1940年にかけて白揚社から刊行されたものと、戦後の1948年から1950年にかけて改造社から刊行されたものが知られています。

ところで、ダーウィンといえばたちどころに『種の起源』を想起される方も多いことでしょう。誰でもがよく知っている本でありながら、ほとんど誰もきちんと読んだことがない本というものがありますが、さしずめこの『種の起源』もその1冊に数えられるのではないでしょうか。私たちは学校の生物だか歴史の授業で、このダーウィンと人生で最初に出会い、その場でダーウィン+『種の起源』=進化論と、あたかも数式でも暗記するように脳細胞に刻み込んだだけで、実際に読んでみた人はそう多くないと思います。また、読み始めたものの中途で挫折したという人も多いのではないでしょうか。

この『種の起源』、原題『On the Origin of Species by Means of Natural Selection』<自然淘汰による種の起源>が刊行されたのは1859年、ダーウィンが50歳の時です。わが国では1896年(明治29年)に立花銑三郎により『生物始源一名種源論』という邦題で経済雑誌社という出版社から刊行されたのが初訳とされています。底本とされたのは1872年に刊行された第六版で、訳者の立花銑三郎は生物学とは関わりのない文科の人で漱石の学友でもありました。彼は35歳という若さで世を去ったということもありますが、この他には教育学に関する訳書が2・3冊あるだけで特に学問的業績があるわけではなく、『種の起源』の初訳者としてその名を博物史に残した幸運な人といえるでしょう。『年表日本博物学史』(八坂書房)

『種の起源』という今日親しまれている邦題は、1905年(明治38年)に東京開成館から『種之起源』<生存競争適者生存の原理>と題して刊行された時に付けられたのが最初のようです。その後、1915年(大正4年)にファーブルの『昆虫記』を最初に訳したことでも知られる大杉 栄が新潮社から『種の起原』を出してからほぼこのタイトルに定着しました。一般には『種の起源』と表記されていますが、『種の起原』としているものもあって少しばかり紛らわしい状況になっています。今日普通に入手して読むことのできるものとしては八杉龍一訳(岩波文庫)のものと、堀伸夫訳(槇書店)のものがありますが、いずれも『種の起原』となっています。その他の多くは『種の起源』と表記している場合が多いようです。

今後、ダーウィンの生誕200周年に向けて出版界では、ちょっとしたダーウィンブームが起こるかもしれないとひそかに思っています。生物学の偉大な先達者ダーウィンへの敬意を込めて、この機会に『種の起源』読破にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。


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