神奈川県立生命の星・地球博物館

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2000年12月15日発行 年4回発行 第6巻 第4号 通巻23号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.6, No.4  神奈川県立生命の星・地球博物館  Dec.,2000


チリを歩けば火山にあたる―太平洋の向こう側、南米チリの火山の様子―

平田大二(学芸員)

太平洋をとりまく火山の輪

当館の地球展示室の巨大地球儀をみると、太平洋を取り囲むようにフィリピンから日本、千島、アリューシャン、北アメリカ大陸西岸を経て南米大陸西岸のアンデス山脈まで、火山と地震の列が続いていることがわかります。これが、太平洋を取り巻く火山の輪、「環太平洋火山帯」です。太平洋の海洋プレートが、南北アメリカ大陸やアジア大陸の下に沈み込み、活発な火山活動や地震活動を生じさせているのです。


図1 サンホセ火山

図2 道路に現れたリャマ

図3 ロンキマイ火山と1988年噴火丘

図4 オソルノ火山

この火山帯の東縁部に位置する南米チリでは、北から南に向かい順次年代の若い海洋プレートが南米大陸の下に沈み込んでいます。特に南部は、年代の若い海洋プレートや中央海嶺が沈み込んでいるところで、地球科学的にみて大変興味深い地域です。そこで、沈み込むプレートの年代と形成されるマグマや火山および火山岩との関連について解明することを目的として、2000年1月にチリの火山地質調査に出かけました。

太平洋の反対側にある隣の国

チリ共和国はアンデス山脈と太平洋に挟まれた南北約4,330km、幅約150kmの細長い国です。日本とは太平洋の反対側にある隣の国です。面積は約76万km2、人口は、1,420万人、首都はサンチアゴ、スペイン語が公用語となっています。交通機関は整備されていて、治安も良く安心して調査ができます。

南北に細長い国土は、北部、中部、南部の3つに区分されます。ボリビア国境に近い北部地域は砂漠気候で、極端な乾燥地帯です。サンチアゴを中心とする中部地域は、気候が温暖で肥沃な農業地帯となっています。南緯40度以南が南部地域で、湖と森と火山に代表される森林地帯と、最南部の氷河とフィヨルドの地帯となります。年間を通じて雨が多く、湿潤な気候となっています。

火山調査の様子

アンデス山脈の火山は、赤道直下から南米大陸南端まで延々と分布しますが、緯度により北から北部、中部、南部の3つの火山帯にわけられています。今回は、チリの首都サンチアゴから南部地方の玄関口であるプエルト・モントにかけて点在する南部火山帯に属する火山を調査しました。 

サンチアゴの南東約70km、アンデス山中のアルゼンチン国境付近には標高5,000mを越す火山が連なっています。サン・ホセ火山はその中のひとつで、標高は5,880mです。ブドウ畑が広がる麓の町から谷あいの道路を登っていくと、氷河に削られたU字谷の合間にその雄姿が現れてきます(図1)。玄武岩質安山岩の溶岩と噴出物からなる成層火山です。山頂から標高4,000m付近までは氷河が厚く被っていること、大きな山体であり地形が急峻なことなどが調査を困難なものとしています。短期間で効率よく調査を進めるために、馬による調査となりました。しかし、それでも山頂まではほど遠く、西側斜面では標高3,440mまで、南側斜面でも氷河の真下、標高約3,200mまでが限界でした。アンデス山中の火山調査の困難さを思い知らされました。

アンデス山中の火山は大きなものばかりではありません。チリ中南部にあるオルニトス火山は、基盤岩の上に小さな火山体を形成しています。火口から流れ出した玄武岩質のアア状溶岩は、斜面を流れ下り、谷を埋め尽くしています。この地域は自然環境が保護されているため、しばしば野生動物を見かけることができました(図2)。チリ南部の標高約2,000mのアンデス山中にあるロンキマイ火山も、直径約8.5km、山体の高さ1,000mほどの小さな円錐状の火山です。溶岩や噴出物は、玄武岩質からデイサイト質まで幅があります。山頂や山腹の火口からは、幾筋ものアア状溶岩が流れ出しています。1988年12月25日の山体北麓で起きた噴火は、大量のスコリア火山灰の噴出とスコリア丘の形成、最後にアア状溶岩の流出がありました(図3)。

南に進むにつれ、きれいな形をした成層火山が目立ってきます。プエルト・モント市の北東約50kmにあるオソルノ火山は、標高2,652mの単独峰で、玄武岩の溶岩と火山噴出物からできている成層火山です。富士山と似た美しい容姿は、絵葉書になるほどです(図4)。1835年1月18日、当時ビーグル号航海の途中でチリを訪れていた進化論で有名なチャールズ・ダーウィンは、オソルノ火山の噴火に遭遇しています。

調査は日本人メンバーに加え、地元の様子を熟知しているチリ大学の学生が通訳を兼ねて参加して行われました。調査中、トラブルやアクシデントがいくつかありましたが、無事調査を終えることができれば、キャンプ地での大自然の静寂さや夜空に輝く満天の星などと同じく、それらもよい思い出です。


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