神奈川県立生命の星・地球博物館

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2000年12月15日発行 年4回発行 第6巻 第4号 通巻23号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.6, No.4  神奈川県立生命の星・地球博物館  Dec.,2000


ライブラリー通信 ビオトープの流行

内田 潔(司書)

ビオトープ(biotope)という用語をご存じでしょうか。ここ10年ほどの間に広がった用語です。ビオトープとはドイツ語で生物を意味するbioと場所を意味するtopeの合成語といわれ、「動植物の棲息生育空間」という意味です。そこから「ある限られた特定の地域にもともとあった自然を回復させる」という意味で使われるようになってきています。最近では、環境教育の一環として小中学校で校庭の一隅に池を作り水草などを入れ、トンボなどを飛来させる実践が新聞などでビオトープ作りの実践例として紹介されたりしています。

このビオトープの概念、考え方はドイツから入ってきました。1970年代先進国においては過度の経済発展の追及の結果、自然破壊・環境問題が深刻な問題となりました。ドイツではいち早くその反省に立って1976年に西ドイツ連邦自然保護法、『自然保護および景域保全に関する法律』を制定しました。これを契機として、ドイツでは国家レベルでの自然保護と失われた自然の回復事業が進められ、その中で動植物の棲息生育場所=ビオトープの整備が自然保護の施策の大きな柱となりました。

日本では70年代後半から、このドイツでの試みが学術誌等に紹介されていましたが、一般向けではなかったこともあってビオトープという用語は広がらなかったようです。現在までにビオトープを主題にした図書は30冊以上刊行されていますが、今日のビオトープ流行の魁となったのは1990年に自然保護財団・埼玉県野鳥の会編集で刊行された『ビオトープ 緑の都市革命』(ぎょうせい)ではなかったでしょうか。この図書はビオトープという考え方を一般向けに解説した多分最初の著作で、西ドイツにおける自然保護政策の解説と実際に作られた数々のビオトープが多数の写真で紹介されています。(残念なことにこの図書は現在絶版になっています。)

わが国でも遅ればせながら1993年に環境基本法が制定されました。最近では確かに河川の護岸工事などでは以前のようにコンクリートでほとんどを固めてしまうのではなくて親水性をもたせるなど環境や自然への配慮はなされるようになりましたが、一方では残された貴重な干潟や湿地が相変わらず開発のための残存地としか見なされていないのは大変残念なことです。

これまでの日本の自然保護は、残された自然をいかに保護してゆくかが大きな課題でした。今後は自然の保護・保存と同時に無秩序な開発、都市化の過程で失ってしまった自然を、元来そこに存在した自然の復元=ビオトープを含めて進められていくべきでしょう。そのためにはドイツのように国家レベルでの取り組みが必要となります。ビオトープの流行が一過性のものに終わることなく、日本においても国家の重要施策として位置付けられ、やがては街が緑で覆われる「緑の都市革命」が実現してほしいものです。

<参考図書>
『自然環境復元の技術』(朝倉書店 1992) 
『ビオトープの基礎知識』(財団法人・日本生態系協会 1997)
『環境を守る最新知識』(信山社サイテック 1998)
『ビオトープ教育入門』(農山漁村文化協会 1999)
『学校ビオトープ事例集』(トンボ出版 1999)

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