神奈川県立生命の星・地球博物館

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2001年3月15日発行 年4回発行 第7巻 第1号 通巻24号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.7, No.1  神奈川県立生命の星・地球博物館  Mar.,2001


神奈川の自然シリーズ15 半原越え地学ハイキング


図1 経ヶ岳周辺の地質(神奈川県1997より作成)
田口公則(学芸員)

厚木から半原、津久井にかけて細長く連なる丹沢山地の前山があります。ちょうど国道412号線と県道64号伊勢原津久井線にはさまれた南から順礼峠、白山、経ヶ岳、仏果山(ぶっかさん)、さらには石老山に連なる山々です。この帯状の山地は、2つの構造線に境された愛川層群とよばれる地層からなり(図1)、かつてより伊豆・小笠原弧が本州へ衝突したことを記録しています。

今回は、この2つの構造線を横断するハイキングコースをたどり地学的視点から興味深いポイントを紹介しましょう。

煤ヶ谷から半原越え

起点の煤ヶ谷、坂尻バス停から半原越えまでは、法論堂(おろんど)林道を歩きます。歩きはじめの法論堂川わきの林道では、凝灰質砂岩があり、ときに玉ねぎ状の風化構造が観察されます。この付近の地層は、丹沢層群の寺家層(860―560万年前)です。主に泥岩からなる地層で、宮ヶ瀬からは貝化石が産出しています。寺家層は、丹沢山地が本州へ衝突する前の深海底に堆積したものです。

法論堂川を渡りヘアピンカーブをすぎ少し上ったあたりに宮ヶ瀬からのびる牧馬(まきめ)―煤ヶ谷構造線が通っています。丹沢層群寺家層と愛川層群(860―560万年前)を境する構造線です。

愛川層群は、下位から宮ヶ瀬層、舟沢層、中津峡層の3つの地層に分かれます。主に火山角礫岩や火砕砂岩からなる地層です。半原越えまでの間にそれぞれ現れますが、現在では露頭の状態が悪く岩層を比較できるには至りません。

法華林道から田代平山へ



図2,3 カネハラニシキの産状

図4 相模湖層群からの生痕化石

半原越えからは、経ヶ岳を巻くように延びる法華林道に入ります。林道沿いは、凝灰質の砂岩、礫岩などからなる中津峡層がずっと露出しています。

中津峡層の中部層からは、下位には見当たらなかった貝化石が産出するようになります(図23)。目立つ化石は、ほとんどカネハラニシキ (Chlamys kaneharai) の貝化石で、ほかには石灰藻球が僅かにあるくらいです。カネハラニシキは、主に東北地方の地層から見つかり、丹沢での産出はその南限となっています。火山礫凝灰岩の限られた層準から集中して産出することも特徴です。

経ヶ岳からの登山道と交差したら、登山道に入り田代へと下ります。急な下り坂の尾根道が続きますが、やがて谷沿いの緩やかな下りとなります。露頭は観察できませんがこのあたりで、つぎの構造線をまたぎます。これまでの愛川層群と四万十帯の相模湖層群を境している藤野木―愛川構造線です。沢沿いに黒色頁岩などがみられますが、これが相模湖層群瀬戸層です。この付近では、転石から生痕化石も見つかっています(図4)。国道に抜けたら半僧坊前のバス停はもうすぐです。

塩川の滝

馬力のある人は、西方にある塩川滝までさらに足をのばしましょう。あるいは、塩川の滝付近は整備されていますので、別の日にドライブで立ち寄ることも可能です。



図5 塩川滝に見られる石老山礫岩

朱塗りの橋から望むのが塩川滝です(図5)。滝周辺の露頭は、小さい円礫からなる礫岩です。これは愛川層群中津峡層の最上部にみられる石老山礫岩です。上ってきた下流の道沿いには相模湖層群の黒色頁岩や石灰岩がありましたので、やはりこの付近を藤野木‐愛川構造線が通っていることになります。上流の触光の滝では断層が観察できましたが、現在は堰堤がその道をさえぎっています。

今回のコースで横断した藤野木―愛川構造線と牧馬―煤ヶ谷構造線は、かつてのプレート境界で本州弧と伊豆・小笠原弧が衝突した証拠です。また、寺家層や愛川層群は、衝突前の狭い海を埋めた地層です。プレートに乗った南の島が次々と本州へと衝突し大地を形作っています。地質図や地形図を手に、大地の成り立ちの歴史に思いをはせながらのハイキングもまた一興でしょう。
(今回のコースは、友の会による平成13年1月21日実施の地学観察会をもとに作成しました)

図6 愛川町日比良野からみた半原山系


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