神奈川県立生命の星・地球博物館

[戻る]

2001年3月15日発行 年4回発行 第7巻 第1号 通巻24号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.7, No.1  神奈川県立生命の星・地球博物館  Mar.,2001


展示シリーズ5 大空を舞う種子、ハネフクベ

田中徳久(学芸員)

当館1Fに展示されている板根(マメ科のKoompassia excelsa)は、生命展示室の目玉とも言える巨大な展示物です。そして、その下には、熱帯雨林の植物の多様性を示すため、12種のラン科植物の精巧な模型が展示ケースに収められています。このどれもが、その収集にあたり、このコーナーで紹介する話題に事欠かない興味深い展示物です。しかし、このラン科植物と同じ展示ケースのひとつには、まったく様相の異なる展示物が収められています(図1)。それが今回紹介する「大空を舞う種子、ハネフクベ」なのです。 植物は、動物のように自分で移動することはできません。そのため、多くの植物は、分布を広げられるように、自分の子孫をより遠くへ飛ばし、より広範囲に散布されるしくみを発達させています。動物によるもの、水によるもの、風によるものなどが代表的な散布方法です。秋、子供たちが服につけて遊ぶオナモミやセンダングサなどの類の“くっつきむし”は、動物の体に付着し散布される動物散布の一例です。カンアオイやスミレの類のように、エライオソームと呼ばれるアリを誘引する物質を含む付属体を種子に持っていて、アリにより散布される例も有名です。

熱帯雨林を構成する植物たちも、その種子散布のため、さまざまなしくみを発達させています。ウリ科のハネフクベ Macrozanonia macrocarpa やノウゼンカズラ科のソリザヤノキ Oroxylum indicum の種子は、大きな翼を持っていて、種子を滑空させることで、散布距離を広げています。種子を散布する高さが高い熱帯雨林の植物では、これらの翼は種子の散布に有効に機能していると考えられます。

ハネフクベは大型のつる植物で、ニューギニアやインドネシア、フィリピンなどの河畔林に生育しています。その種子は、世界最大の翼を持つ種子として知られていて、さまざまな本に紹介されています。日本では、三好学や本田正次、金平亮三らが紹介しているほか、最近では、中西弘樹氏が詳しく紹介しています。その呼び名にはいくつかあり、マクロザノニア(Macrozanonia)やアルソミテラ(Alsomitra)などの属名をそのまま読んだ名のほか、オオツルダマ(三好学による)、ヒョウタンカズラ(金平亮三による)などの名もあります。ハネフクベの種子が入っている果実は、直径20cmを超える楕円形(図2)で、中に世界最大の翼を持つといわれる種子が整然と並んでいます。種子の本体は、長径30mm、短径20mmほどの平べったい楕円形で、その周囲に少し湾曲した薄い膜状の長さ15cmにもなる翼がついています(図3)。

ハネフクベの種子は、手に持った高さからでも、10m近くを滑空することもありますが、中西氏によると、らせん状に落下することもあるようです。その滑空する姿は、ふわふわとしていて、実に優雅で、その飛行する姿は航空力学の立場からも記述されています。また、グライダーを開発したドイツのエトリッヒと友人のウエルズは、ハネフクベの種子を入手し、その飛行原理を研究し、グライダーを開発する参考にしました。多少上下しながら、ゆっくり落下していくその滑空の様子は、まさに天然のグライダーと呼べるものです。

また、ハネフクベと同じケースの中には、ソリザヤノキの種子も展示されています。ソリザヤノキの種子は、ハネフクベに比べると小さく、5〜6cmほどです。しかし、違う科に属する植物であるにも関わらず、その翼の形状はハネフクベとそっくりです。それぞれの植物が進化の過程で同じような翼を発達させてきたことから、この翼が、有効な散布能力を発揮していることが想像されます。

なお、ハネフクベと同じ展示ケースには、ラワン材として広く輸入されているフタバガキ科の果実も展示されています。フタバガキ科の植物の果実の多くは、5枚の萼片の何枚かを羽根状に発達させていますが、この羽根は、種子を遠くへ飛ばすことよりも、樹上から落下した際の衝撃を和らげたりする役目を果たしているようです。

日本にも、ハネフクベやソリザヤノキほどではありませんが、これに似た翼を持つ種子を持つ植物があります。シナノキやハルニレ、カエデ類などの樹木だけでなく、ウバユリやヤマノイモなどの草本にも知られています。残念ながら、これらの種子の翼はずっと小さくて、ハネフクベほど優雅に滑空することはなく、風に吹かれて舞い散る程度ですが…。

板根下のハネフクベほかの展示ケース
図1 板根下のハネフクベほかの展示ケース
(1階生命展示室)

図2 (上)ハネフクベの果実

図3 (下)翼をもつハネフクベの種子

図4 グライダーのように滑空する種子

[戻る]

[地球博トップページへ]