神奈川県立生命の星・地球博物館

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2001年3月15日発行 年4回発行 第7巻 第1号 通巻24号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.7, No.1  神奈川県立生命の星・地球博物館  Mar.,2001


ライブラリー通信 「ウミウシ」本

内田 潔(司書)

ここ数年、「ウミウシ」本が相次いで刊行され、ちょっとした「ウミウシ」ブームになっています。このブームの契機となったのは1999年に東海大学出版会から刊行された『海洋生物ガイドブック』で、この種のガイドブックとしては異例なほどページを割いて230種ほどの「ウミウシ」がカラーで紹介されています。同年少し遅れてTBSブリタニカから『ウミウシガイドブック』<沖縄・慶良間諸島の海から>が、さらに翌年同タイトルで<伊豆半島の海から>が刊行されるに及んで、俄然「ウミウシ」人気に火がつきました。

「ウミウシ」をこれらのガイドブックで初めて見たという人も多いのではないでしょうか。もちろんそれまでにも海洋生物図鑑には「ウミウシ」を取り上げたものもありましたが、単に海洋生物の一種としか見なされずあまり人々の注目を浴びることはありませんでした。刊行した出版社もこれほど売れるとは思わずびっくりしたでしょうが、一番驚いたのは「ウミウシ」自身だったかもしれません。なにせそれまで海洋生物の図鑑といえば多くは魚類が主役で、「ウミウシ」などは端役扱いでしたから。それがいきなり、「ウミウシ」だけのガイドブックが刊行されたのです。

ところで、この「ウミウシ」は軟体動物の巻貝の仲間に分類されていますが、殻を脱ぎ捨てた巻貝とよく説明されるように、そのほとんどは殻を持っていません。詳しくは図鑑やガイドブックを参照してもらうしかありませんが、その形態や色彩は実に多様で見ていて飽きることがありません。海の宝石とも例えられるほどですが、人によってはグロテスクに感じるかもしれません。でも大多数の人はその優美な美しさに魅了されることでしょう。さらに詳しく知りたいという人には、ブームの契機を作った東海大学出版会から昨年刊行された『ウミウシ学』が参考になります。

「ウミウシ」の研究書としては1949年に岩波書店から『相模湾産後鰓類(こうさいるい)図譜』(生物学御研究所編)、さらに1955年にその『補遺』編が刊行されています。ここでいう後鰓類とは「ウミウシ」のことで、これらの著作は1990年に学名の修正表と文献表を追加してから復刊されていますが、今日にあっても「ウミウシ」、後鰓類に関する最も詳細な著作となっています。

この「ウミウシ」ブームの到来は、近年スキューバ・ダイビングの愛好者が増加したことと関連しているようです。これまであまり注目されてこなかった海洋生物に目を向けるダイバーが増えたことが、一連の「ウミウシ」本を生み出した一因かもしれません。そしてまた、こうした「ウミウシ」本が人々に広く受け入れられる底流には、昨今の癒しを求める社会状況と何か通じるものがありそうです。そのうち「ウミウシ」をメインにした水族館ができるかもしれませんね。


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