神奈川県立生命の星・地球博物館

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2001年9月15日発行 年4回発行 第7巻 第3号 通巻26号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.7, No.3  神奈川県立生命の星・地球博物館  Sept.,2001


環境指標としてのタンポポとササラダニ

カントウタンポポが生育していた場所
写真1 カントウタンポポが生育していた場所

セイヨウタンポポが生育していた場所
写真2 セイヨウタンポポが生育していた場所.

フトゲナガヒワダニ
写真3 フトゲナガヒワダニ (体長約0.36mm)
Eohypochthonius crassisetiger Aoki

ヤマトクモスケダニ
写真4 ヤマトクモスケダニ (体長約0.7mm)
Eremobelba japonica Aoki
加藤利奈(外来研究員)

2年前の春、当時私の指導教官であった青木淳一教授(現 生命の星・地球博物館館長)にすすめられて、ちょっとした試みを行ってみました。カントウタンポポとセイヨウタンポポが生えている根元の土壌を採取し、それぞれの土壌から得られたササラダニを調べたのです。

ササラダニとは「ダニ」という名がつくことからも分かるようにダニの仲間です。「ダニ」というと皆さんは良いイメージをもたないかもしれませんが、ササラダニはヒトに無害なダニで土壌を主な生息場所とし落ち葉などを食べて生活している、とてもかわいらしい小さなダニです。そして皆さんがご存知のように、カントウタンポポはもともと日本に生育する在来種、セイヨウタンポポはヨーロッパ原産で明治に日本に移入して来た帰化種です。どちらも草地に生育しますが、変化のめまぐるしい都市的な環境にはセイヨウタンポポが多く生育し、それに対してカントウタンポポは畝や農道沿い、社寺などのある程度環境の変化が大きくない安定した場所に生育しています。つまりカントウタンポポはセイヨウタンポポより人為的な撹乱に弱い種といえます。またこの特性は「自然らしさ」の指標生物として環境指標に利用できることが知られています。

さて、土壌を採取した場所は、横浜国立大学構内です。もともとゴルフ場をつぶして建てられたこの大学構内は当時(約30年前)、セイヨウタンポポばかりが生育していました。しかし最近では、むしろカントウタンポポの勢力がセイヨウタンポポのそれより増しています。環境指標の点でこの現象を評価すると、現在の構内の環境はこの数十年で大学が建った当初より「良い」環境になって来た、ということでしょうか? しかし構内のそれぞれのタンポポが生育している環境はどちらも同じような草地(芝生や植え込みなど)で、一見したところ特にその生育環境の違いはわかりません(写真12)。

そこで私は「ササラダニ」で試してみることにしました。ササラダニは環境の変化に大変敏感な動物群で、環境指標生物として有用であるとされてきています。ですから、それぞれのタンポポが生育している場所の土壌にいるササラダニを調べることによって両タンポポの生育環境の違いを表すことができるのではないか、と思ったのです。

1999年4月2日、私は大学構内のカントウタンポポとセイヨウタンポポが生育する場所をそれぞれ5ヶ所ずつ選定し、タンポポが生えている根元の土壌を採取しました。そしてツルグレン装置(土壌動物抽出装置)を使って土壌からササラダニを抽出し調べました。

その結果、興味深い現象がみられることになりました。

ササラダニは全部で30種ほど得られ、そのうち草地によく出現するササラダニが8種ほど出現しました。そのなかでも「ハバヒロオトヒメダニ」と「チビゲフリソデダニ」は、どんな草地(例えば芝生のような短茎草地、ススキのような高茎草地など)でも出現します。構内の両タンポポの根元土壌からどちらの種も得られましたが、カントウタンポポのほうが出現頻度も個体数も多い傾向でありました。さらにより興味深い結果は、「フトゲナガヒワダニ」と「ヤマトクモスケダニ」(写真3、4)の出現です。これらはカントウタンポポの方のみに顕著に出現した種です。これら2種は、草地でも撹乱の少ない草地環境を好むササラダニです。

この結果は、両タンポポの生育環境が異なっていることを裏付け、始めに述べたようにカントウタンポポがセイヨウタンポポより安定した環境に生育し、また撹乱に弱いという特性と一致しています。

これらのことから横浜国立大学構内は設立した当時より攪乱の小さい、安定した環境になったことがササラダニからも示唆され、また指標生物としての「タンポポ」と「ササラダニ」は、似たような環境評価を示したことがこの試みにより分かりました。そして「ササラダニ」は普段私たちの目に触れることはありませんが、私たち以上に敏感に環境の変化や違いをキャッチしている動物群のようです。



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