神奈川県立生命の星・地球博物館

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2001年12月15日発行 年4回発行 第7巻 第4号 通巻27号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.7, No.4  神奈川県立生命の星・地球博物館  Dec.,2001


恐竜のかたちとくらし

犬塚則久(東京大学)

骨のある動物

動物には骨のあるものとないものがあります。私たちがふだん食べている動物にも両方がまじっています。エビ・カニ・ウニ・貝にはからがありますが、骨はありません。イカやタコにはからもついていません。反対に魚や鳥には骨があります。牛肉や豚肉には骨が見当たらないことが多いですが、それは肉屋さんがはずしてしまったからです。このように骨のある動物のことを 脊椎動物せきついどうぶつといい、骨のない動物のことをひとまとめにして 無脊椎動物むせきついどうぶつといいます。脊椎動物のなかには魚類、両生類、 爬虫類はちゅうるい、鳥類、 哺乳類ほにゅうるいがふくまれます。

それでは脊椎動物はどのような形をしているでしょうか。魚からけものまでどのグループにも共通してみられる特徴がいくつかあります。まず左右対称性です。鏡を見れば、自分の体の左と右がほぼ同じ形の裏返しになっていることがわかります。ウニなどは放射相称といって5つの方向に対称性がみられます。

体が左右対称で、細長い形をしていると、水のなかをひとつの向きに進むのにこうつごうです。体の前端には口がありますが、餌を取り入れる口のあるほうに進むよう体の形が決まったわけです。ウニの口は体の下の真ん中にありますし、イカやタコの口は足のつけねの真ん中に空いています。

もうひとつ大きな特徴は尻尾があることです。尻尾というのは便や卵を出す 総排泄口そうはいせつこうという孔よりも後の部分のことで、無脊椎動物にはありません。たとえば、トンボの尻尾とよんでいる部分はほんとうは腹で、後のはしから卵を産みつけるのをみてもわかります。ヒトには尻尾がありませんが、元からなかったのではなく、遠い先祖のサルにはちゃんと尻尾がありますし、生まれる前にお母さんのおなかの中にいた時にも尻尾があった証拠があります。

脊椎動物は水中を泳ぐ魚類と陸上を歩く四足動物にわけられます。両生類から哺乳類まで4グループにはみなその名のとおり4本の足があります。鳥の足は2本しかありませんが、それは前足が飛ぶための翼に変わったからです。

爬虫類と哺乳類

今生きている爬虫類にはカメ・ワニ・ムカシトカゲ・トカゲ・ヘビのなかまがいます。これら爬虫類と哺乳類とはどこが違うのでしょう。哺乳類はけものといわれるように体の表面が毛でおおわれています。爬虫類には毛がなく、うろこや甲らでおおわれます。もっとも哺乳類のなかにもうろこや甲らをもつものがいます。

皮膚の表面のおおいではなく、体つきについてはどうでしょう。胴体に対する手足の長さや向きに注目してください。身近なイヌやネコ、動物園でみられるゾウやキリンなど哺乳類の足は胴体の下に伸びていることがわかります。こうした足のつき方を下方型といいます。ところが、ワニやトカゲなど爬虫類の足は胴体の横か斜め下のほうに突き出します。この足のつき方を側方型といいます。胴体のわきに出た足では体重を支えるときに筋肉の力を借りなくてはなりません。腕立て伏せの姿勢ではすぐに疲れてしまうことは知っていますね。このため、あまり足の長さを伸ばすことができません。足の短い爬虫類は体を左右にくねらせて歩幅を補っています。

実は体の左右の振りは魚や両生類時代のなごりです。水中で泳ぐときに役立った胴体の左右の筋肉や尻尾は、上陸して足が生えてもそのまま残りました。 後足あとあしは腹びれが変わってできたものです。魚では総排泄孔の前と後で体の太さが急に変わることがないように爬虫類でも胴体から尻尾のつけねは徐々に移り変わります。ところが哺乳類の尻尾は胴体とははっきり太さがちがいます。これは後足を後にけり出す筋肉が側方型の爬虫類で尻尾のわきから起こっているのに対して、下方型の哺乳類では骨盤から起こるように変わって尻尾に頼らなくてもすむようになったからです。

爬虫類の顔で哺乳類ともっともちがって見える点は 耳介じかい、つまり耳がない点です。私たちの耳は音を集める外耳、音を大きくして伝える中耳、音を感じる内耳の3つの部分からできています。これらの部分ははじめから全部がそろっていたわけではなく、魚類には耳はありません。両生類には内耳と中耳ができ、爬虫類で 外耳道がいじどうができかかります。哺乳類になると中耳の耳小骨という骨が1つから3つに増えて感度がよくなり、外耳道と耳介ができます。

爬虫類の口のなかを見るととがった円錐形の歯がずらりとならんでいます。この歯の特徴を 同形歯性どうけいしせいといいます。私たちの歯は色々な形があって、前から 切歯せっし犬歯けんし小臼歯しょうきゅうし大臼歯だいきゅうしとよばれています。また、小学生のときには子供のときの乳歯から大人用の永久歯にはえ変わったことを覚えているでしょう。ふつうの哺乳類は1回だけしかはえかわりませんが、爬虫類では魚類と同じく何回でもはえ変わります。

脊椎動物の分類と特徴(表)
脊椎動物の特徴(図)
図1 脊椎動物の分類と特徴

恐竜と爬虫類

今生きている爬虫類が哺乳類とどう違うかがわかりました。それでは絶滅した爬虫類といわれる恐竜は今の爬虫類とどこがちがうのでしょう。

まず一番目につくのは恐竜の巨大なことです。今の爬虫類で大きいものといえばゾウガメ・オサガメ・イリエワニ・コモドオオトカゲ・アナコンダといったところでしょうか。恐竜にはニワトリぐらいのものもいますが、たいていはもっと大きいものです。恐竜はなぜあんなに大きくなれたのでしょう。恐竜の生きていた2億年前の中生代には、世界中の大陸がひとかたまりで、高い山もきびしい寒さもなく、餌となる植物もうっそうと生い茂っていました。爬虫類の骨というのは生きているかぎり伸びつづけるという特徴があります。すむ場所とえさに恵まれさえすれば、動物は体が大きいほうが有利ですから、代を重ねるにつれて大型のものが生きのび、ついにはあんな巨体となったのでしょう。

しかし、まわりの環境にいくら恵まれても、体のがわにも大きくなるための条件がいりました。それが下方型の姿勢です。さきほどものべたように、ワニやトカゲのような側方型の姿勢ではある程度以上大きくなることはできません。足の骨を柱のように立てなければ、肩や腰の筋が体重を支えきれなくなるからです。恐竜は爬虫類でありながら、いち早く、哺乳類の先祖よりも早く下方型の姿勢を獲得したからこそ大型化することができたのでした。

体があれほど大きくなると、変温へんおん)動物の爬虫類でも体温調節に苦労しなくてもすみます。今の爬虫類は日が昇るとまずひなたぼっこをして、体が暖まるとおもむろに動きだします。大きな恐竜では気温のさがる夜でも体温がさほど下がらないので、翌朝も恒温こうおん)動物の哺乳類と同じようにすぐ動けるのです。これは湯のみのお湯がすぐに冷めてしまうのに、お風呂のお湯は翌日でもまだ温かいのと同じ理屈です。

鳥の皮膚には羽毛、つまり羽が生えています。羽はうろこが変わってできたものです。今の爬虫類の体はうろこでおおわれていますが、恐竜の一部にはすでに羽をもつものがいたことがわかっています。これは小型の二足性肉食竜のなかまで、鳥の先祖すじに当たります。

いろいろな恐竜

恐竜とは中生代の陸にすんだ爬虫類で 竜盤類りゅうばんるい鳥盤類ちょうばんるいをひとまとめにした呼び名です。竜盤とはトカゲ型の骨盤、鳥盤とは鳥型の骨盤という意味です。骨盤を横からみると 腸骨ちょうこつ恥骨ちこつ坐骨ざこつの3つからなります。腸骨はつねに上にあり、坐骨は 後下方こうかほうに伸びますが、恥骨ののびる向きが竜盤類では 前下方ぜんかほう、鳥盤類では後下方というちがいがあります。竜盤類には 肉竜にくりゅう雷竜かみなりりゅう、鳥盤類には 剣竜けんりゅう曲竜きょくりゅう鳥竜とりりゅう角竜かくりゅうがふくまれます。

肉食竜と草食竜

恐竜は植物を食べる草食竜とほかの動物を餌にしていた肉食竜とに分けられます。何を食べていた動物かは歯の形に一番よくあらわれます。爬虫類の歯は 同形歯性どうけいしせいですが、草食竜と肉食竜では形がちがいます。肉食では単純な円錐形で、あごの並びにそって前後に りょうがあります。なかにはこの稜にのこぎりのようなギザギザがついているものもいます。

草食の歯には杭の形、葉の形など色々な形があります。たいていは木の枝から葉をこそぎ取るのに適した形をしています。ところが最も進化した鳥竜のなかまでは、生え変わるはずの歯までふくめて2000本もの歯がぎっしりとあごに並び、網目のような複雑なかみ合わせ面を作って 咀嚼そしゃくをしていたと考えられます。

草食竜と肉食竜のちがいは体の形にもあらわれます。肉食竜は餌となる動物をおそって食べなくてはなりませんから、速く走れる体つきになります。肉食竜は必ず二足性で、細長い足をしていたり、鋭いかぎ爪やかみつくための大きな頭や鋭い歯をもっています。

いっぽう、草食竜は肉食竜の餌にならないために自分の体を守る体形になります。守り方には色々な方法があります。たとえば肉食竜よりも速く走って逃げる、体を大きくしておそわれないようにする、角やとげ、甲ら、 棍棒こんぼうで武装する、などです。走る形に適応したのが鳥竜、大型化したのが雷竜、とげや甲らや棍棒で武装したのが剣竜と曲竜で、角と襟の盾で守ったのが角竜です。けっきょく、こうした防御手段のちがいがさまざまな体形の恐竜を産みだしたのです。

二足性と四足性

恐竜の先祖はもともと後足のほうが前足よりも長く、二足性でした。後足だけで立つには足のつけ根の関節より前と後の重さが釣り合わなくてはなりません。ちょうどシーソーのような形です。このため二足性恐竜には長い尻尾がそなわっています。また、2本足で歩くときには1本の足に交互に体重がかかります。左足の足あとと右足の足あとが体の中心から離れていると、1歩ごとに体を大きく左右にゆらさなくてはなりません。こうしたことから、足の構えは爬虫類の先祖の側方型からじきに 下方型かほうけいへと 進化しんかしたのでしょう。

下方型の姿勢では側方型よりも足を長くすることができ、大型化できることは前に書いた通りです。足が伸びて、1歩の歩幅が広がると、走る速度も増しました。このため走行型の肉竜と鳥竜は二足性です。

ところが、大型化したり、角やよろいで武装した動物は速く走る必要はありませんし、体重が増すと足にかかる負担が大きくなりますから、2本よりは4本で支えるほうが楽になります。こうして雷竜、剣竜、曲竜、角竜は短い前足も着いて二次的に四足性になりました。このため、これら四足性草食竜のせなかは腰が高く前下がりになっているのです。

恐竜の分類と体型のの図
図2 恐竜の分類と体型

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