神奈川県立生命の星・地球博物館

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2002年9月15日発行 年4回発行 第8巻 第3号 通巻30号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.8, No.3  神奈川県立生命の星・地球博物館  Sept.,2002


展示シリーズ9 アンモナイトの壁をじっくり見よう

田口公則(学芸員)

じっくり展示物を観察することがいろいろな発見をもたらすことがあります。"アンモナイトの壁"(写真)もその一つです。

これは地球展示室にある巨大な岩盤による標本展示の一つです。岩盤展示は、野外にある資料の一部を切り取ってきたものですから、地層の崖がそのまま展示室にあるといってもよいでしょう。いずれも触ることのできる展示です。とくに"アンモナイトの壁"は、誰しもが自然と手をのばしてしまう魅力を持っています。

"アンモナイトの壁"展示は、化石を含むブロックを組み合せて幅8m高さ3mに及ぶ巨大な地層面を再現したものです。まるで無数の化石が描かれたキャンバスです。しかし、解説ラベルの情報は少なく、化石の種類や名前などは表示していません。このことは、一見、不親切のようにも感じますが、展示を見る人が自由に見てよいのだと捉えることもできます。「アンモナイト、スゴーイ」の一言で通りすぎてしまうのではなくて、ちょっとだけ展示をじっくり見てください。ちょっとした手がかりによって、野外で地層を観察するように“アンモナイトの壁”を楽しむことができるでしょう。

さて、“アンモナイトの壁”を前にしたときの第一印象は何でしょう? 「かたつむり?」「本物?」「アンモナイトはこんなに大きかったんだ…」、様々な感想があるようです。でも、そこで観察を止めないでください。ぜひとも、第一印象に続けて考えを巡らせてください。かたつむりはどのような形だったでしょう? アンモナイトが本物の化石かどうか触って確かめてください。一番大きいアンモナイトはどれですか? 一番小さいアンモナイトはどれでしょう? …じっくりモノと対話することによっていろいろな発見や疑問が生まれくることでしょう。このとき、一人だけの対話ではすぐに行き詰まってしまうかもしれません。何人かのグループで観察し合うことで、より観察を積み上げることができるでしょうし、それがよいコミュニケーションにもつながるでしょう。

目の前の標本をより意識的に観察するきっかけとなる“手がかり”も重要です。グループのリーダーとなる先生や大人が適切な“手がかり”を子どもたちに提示していくことが理想です。あるいは、手がかりが分からなくとも相手の発見や疑問に対して相づちを打つだけでも楽しい探求活動につながるでしょう。

子どもたちにアンモナイトの壁を観察させると、右巻きと左巻きのアンモナイトがあることに気づくことがあります。たしかに見る面の違いで右巻きにも左巻きにも見えます。このことは解説されてしまうと簡単に理解できることですが、“アンモナイトの壁”にかくされている一つ一つの証拠を見つけることでもたどり着くことのできることがらなのです。

探求のための予備知識があればさらにステップアップした探求活動もできるでしょう。でも、じっくり観察することによって予備知識なしでも自分たちなりの探求活動を展開させることもできると思います。目の前のものをじっくり見ることからはじまる“観察力”は、博物館での体験を探求活動へとつなぐ“鍵”です。通り一遍の解説を聞くだけでは、この観察力を育てることは難しいでしょう。しかし、ひとたびこの観察力を持ち得たならばフィールドでの探求活動が様々に展開できるに違いありません。ぜひ自然の一部を切り取って展示している博物館にて、この“観察力”を鍛えてください。そして展示物に様々な疑問や気づきを見出してください。

地層や化石を学んだ人は、あるいはすぐに“アンモナイトの壁”を通じて1億7千万年前の海底の様子を思い浮かべるでしょう。そして自然と次なる疑問が生まれてきます。その疑問を解く証拠はないかと、再びじっくりと観察を続けていくのです。好奇心が尽きることはありません。どうぞじっくり“アンモナイトの壁”を楽しんでください。


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