神奈川県立生命の星・地球博物館

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2003年3月15日発行 年4回発行 第9巻 第1号 通巻32号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.9, No.1  神奈川県立生命の星・地球博物館  Mar., 2003


フジの花の半回転

木場英久(学芸員)
フジの花序
図1. フジの花序。一部が乱れて見える

誰でも知っているフジという植物が変わったことをしているのをみつけたので紹介します。

昨年の4月の末のことです。立ち寄った公園の藤棚に花が咲いていました。まだ咲き始めでしたが、いくつかは紫色の花序(花の集まり)を長く垂らしていました。写真を撮ろうとカメラを向けてみると、妙な違和感を覚えました。花序の下の方が乱れていたのです。上の方と一番下は、花が少し下を向いて整然と並んでいるのに、途中で横を向いたり、斜めを向いている花があります。せっかくなら少しでも美しいものをと思い、別の花序を見てみましたが、どれも必ず一部が乱れていました(図1)。

なぜ乱れているのだろうと、よく見てみると、花が開く前のつぼみばかりがあちこちを向いていて乱れて見えるということがわかりました。フジの花序はご存知のとおり垂れ下がっています。そして上から下に、元から先端にという順序で咲いていきます。ですから、花序を下から上にたどると、花の育っていく様子を類推できます。とても若いつぼみは、花序の先端のように少し下を向いて並んでいます。成熟するにつれて、花が横を向いたり上を向いたりしています。花が開く直前には、また少し下を向いて整然と並んでいます。どうやらフジは花が育つ途中で、花の柄をねじって半回転させているようです。半回転の途中だったので、つぼみがあちこちを向いていたのです。

では、フジはなぜこんなことをするのでしょうか。それは次のように考えられます。フジはマメ科の植物です。日本で見られるマメ科植物の多くは、蝶型の花を咲かせます。図2のように旗弁という花弁が上側にあり、翼弁が両脇にあり、舟弁が下側にあって、舟弁の中に雄しべと雌しべがかくれています。旗弁を目印にして飛んできた虫は舟弁に止まり、蜜を取ろうと頭を花の奥にもぐりこませようとすると、舟弁の中から雄しべと雌しべが出てきて虫の腹につき、花粉を受け渡します。このように、マメ科の花は虫媒(虫による花粉媒介)に適した形をしています。


フジの花
図2. フジの花

シロツメクサでもコマツナギでもそうですが、マメ科植物が総状花序をつけるときには、直立した茎に花をつけます。その結果、茎の上側に旗弁、下側に舟弁があり、図3のようになっています。

しかし、フジでは花序の軸が垂れて、下を向いています。ふつうの総状花序をそのまま逆さにしたら、旗弁が下を向いてしまいます(図4)。これでは虫は舟弁に止まりにくいし、花粉も運ばれにくくなってしまい、次の世代が作れません。

上向きの総状花序 花序を下に向けただけでは花が逆さまになる 花柄をねじって花を上に向ける
図3. 上向きの総状花序 図4. 花序を下に向けただけでは花が逆さまになる 図5. 花柄をねじって花を上に向ける

それなのでフジは花柄をねじって花を半回転させ、花の上下を正しい向きにしていると考えられます(図5)。初めから正しい向きに花をつければ、半回転などしなくてもいいのですが、大多数のマメ科植物が上を向いた花序をつけることや、フジ属に近縁な属の植物にも上向きの花序をつけるものがあることなどから考えて、きっとフジの仲間の祖先も上を向いた花序をつけていたと考えられます。そういう祖先を材料にして進化してきたフジですから、花の向きを正しくするのに花柄をねじって対処するのもやむを得なかったのでしょう。こんなところにも進化の足跡が残されていたわけです。このように花柄を半回転させる現象は、花序を直立させる多くのラン科植物やキキョウ科のサワギキョウなどでも見られます。左右対称の花で、花序の向きが近緑種と違っているような植物を見ると、もっと他の例も見つかるかもしれません。

あと数ヶ月でまたフジが花を咲かせます。ぜひみなさんもフジの花の半回転を観察してみてください。


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