神奈川県立生命の星・地球博物館

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2003年6月15日発行 年4回発行 第9巻 第2号 通巻33号 ISSN 1341-545X


自然科学のとびら


Vol.9, No.2  神奈川県立生命の星・地球博物館  June, 2003


私たち,中国から来ました ―森林性移入鳥類の現状―

川上和人(森林総合研究所)

新聞を読んでいると、ブラックバスやアライグマなど、様々な移入動物の話題を目にします。捕食性が強く在来種を激減させたりさせる動物や、経済活動に影響のある動物は特に注目度が高く、ナチュラリストでなくともその悪名が知れ渡っています。1995年に毒グモとして有名になったセアカゴケグモも記憶に新しく、当時はこのクモの名前を知らない人を探す方が難しいほどでした。

しかし、鳥に関してはどうでしょうか。移入鳥類は概して経済活動への悪影響が少ないようです。移入種であるコクチョウやコブハクチョウの餌付けが、「微笑ましい光景」として報道されることも、少なくありません。しかし、生態学的に考えると、移入鳥類の存在は大問題です。ここでは、森林性の移入鳥類に注目して現状を考えてみたいと思います。

意外と少ない? 森林性移入鳥類

筆者の知る限り、日本ではこれまでに100種を超える移入鳥類が野外で観察されています。しかし、そのほとんどは都市近郊や農耕地などのかく乱地に生息しており、森林内に定着した種は意外と少ないのです。移入種がかく乱地に、在来種が森林に生息する傾向は、世界的なものです。かく乱地は、人間が新たに創出した環境ですから、そこにもとから住む鳥はいません。このため、移入鳥類にとって定着しやすいのかもしれません。

本州の森林で定着が確認されている海外からの移入鳥類はまだ4種しかいません。コジュケイ、ソウシチョウ、ガビチョウ、カオジロガビチョウです。カオジロガビチョウは移入種の中でも「新参者」で、群馬県赤城山の南面を中心とした狭い範囲にしかいませんが、他の3種は広く分布しています。森林はかく乱地とは違い、もともとある環境ですから、既にそこを住処とする在来種がいます。このため、移入種は在来種の資源を略奪する存在になります。

大正以来の最古参 コジュケイ

コジュケイ
図1. コジュケイ.繁殖期には家族群が見られる

コジュケイは、日本の野鳥図鑑にも堂々と掲載されており、日本の在来種のように見えますが、立派な移入種です。薮の中で「チョットコイ、チョットコイ」と鳴く声を耳にしたことがある人は多いでしょう。本種は中国南部を原産地とし、1919年に東京と神奈川に放鳥され、野生状態での繁殖に成功しました。その後1931年頃から個体数が急増し、日本各地に狩猟鳥として放鳥されていったようです。現在は日本海側や東北、北海道を除く全国の低山帯に生息しています。

1932年10月3日の都新聞(現在の東京新聞)には、コジュケイに関して、「期待される新ゲーム」「今年は繁殖も良好」「肉は鶉よりも美味」などという文字が踊っています。記事によると、神奈川県二俣川村(現在の横浜市旭区)と長野村(現在の場所は不明)の村営猟区では、「棲息数は到底計算することの出来ぬ程夥しい数」いるとのことですから、放鳥されてからの十数年間で爆発的に増加したことが伺われます。

この種は狩猟の対象として、手厚く野生化させた種ですから、定着したのは当然と言えば当然です。移入鳥類の定着成功の条件としては、移入先に競争種がいないことなど生態的な条件と共に、移入努力量の大きさが重要だと考えられています。当たり前の話ですが、繰り返し多数の個体を放鳥し、餌やりをした場合には定着率が高いとされています。

天然林への侵入者 ソウシチョウ

ソウシチョウ
図2. ソウシチョウ.灰緑色のボディに翼の赤黄斑が目立つ

ソウシチョウとガビチョウ、カオジロガビチョウはみなチメドリ科に属する鳥です。チメドリ類は中国南部を中心に広く分布していますが、日本には在来分布していないので、馴染みがないかもしれません。チメドリ類は台湾には自然分布していますが、百kmあまりしか離れていない八重山諸島には生息していませんおらず、国境がそのまま分布の境目になっています。

チメドリ類の移入種達はわざわざ野生化させたわけではなく、逃げた飼い鳥などが偶発的に定着したものと考えられています。その意味ではコジュケイとは異なるタイプの移入種です。ソウシチョウは1980年頃から、九州北部、兵庫県六甲山、神奈川県丹沢、埼玉県秩父、茨城県筑波山などに、飛び地的に定着しました。そして、この鳥が定着先に選んだのは、ブナ−スズタケ群落という天然林でした。

スズタケとはササの一種です。ソウシチョウはその藪の中に営巣します。同じ環境ではウグイスが営巣しますから、両種の間での競争が心配されています。しかし九州のえびの高原では、ソウシチョウは薮の上層に、ウグイスは中層に営巣することで、営巣場所という資源を使い分けていることが報告されています。このような形で、ソウシチョウは他種が利用しない資源を利用して、平和的に侵入しているようです。

ものまねチャンピオン ガビチョウ

ガビチョウ
図3. ガビチョウ.目から後ろの白模様が「画眉鳥」の由来
カオジロガビチョウ
図4. カオジロガビチョウ.群馬県大胡町にて(撮影/東條一史)

ガビチョウも中国南部を中心に自然分布する種です。この種とソウシチョウは、中国、東南アジアで非常に人気のある飼い鳥です。香港だけを見ても、1990年には両種とも35、000羽以上が輸出されています。ただ、ガビチョウの鳴き声は非常に大きく、日本の住宅事情には適さないようで、国内では余り好んで飼育されていません。

本種は1980年代から、九州北部、関東地方、福島県などで野生化しており、現在も分布は拡大中です。野生化の原因はまだ不明ですが、これも飼育個体が逃げたものと考えられています。この鳥は低山の茂った薮を好んでおり、関東地方では神奈川、東京、山梨の県境周辺を中心に生息しています。

ガビチョウは薮の中に生息するため、観察しづらい鳥です。しかし、鳴き声はきわめて大きく、オオルリやキビタキなど、在来の夏鳥のさえずりをかき消してしまうほどです。ある個体は、抱卵中に巣の中でもさえずっていました。普通の鳥は、巣が捕食者に見つからないよう努力するものですが、ガビチョウにはそんな一般論は通じないのかもしれません。

ガビチョウは鳴きまねも上手です。ウグイス、シジュウカラ、キビタキなど様々な鳥の声をまねします。以前筆者の調査地には、サンコウチョウのまねが上手な個体がいました。サンコウチョウの姿を見ようと声の主を探したあげく、高らかに歌うガビチョウに出会って悔しい思いをしたことは忘れられません。ガビチョウは繁殖期だけでなく、一年中さえずりを欠かさない勤勉者です。生息確認の調査には役立ちますが、うるさいのでもう少し手加減してほしいところです。

日中移入鳥類正常化交渉

上記3種の鳥類の共通点は、みな中国南部を中心に広く分布している鳥である点です。この地域は日本の南部と緯度が近く、お隣ですから、環境も似ているのでしょう。海のせいで日本に分布を広げなかっただけなので、人間が越えさせてあげれば、定着するのは当然なのかもしれません。

中国政府は、野鳥保護を目的に1999年12月に野鳥の輸出を禁止しました。そのころ、日本には年間10万羽もの鳥が中国から輸入されていました。しかし、その後も中国からの鳥の輸出状況は変化が少なかったようです。規制されない人工繁殖個体に混じって、ご禁制の野鳥も売買されているのです。

この状況を変えたのは、鳥インフルエンザでした。2001年に香港、マカオ、中国の鳥肉から、家禽ペストの原因となるインフルエンザウィルスが検出されたのです。この病気は家畜伝染病予防法で法定伝染病に指定されています。このため、香港からのペット用の鳥の輸入が実質的に禁止となりました。中国からの鳥の輸出の多くは香港を経由しています。畜産業界にとっては迷惑な事態でしょうが、移入種問題にとっては一時的とはいえ一歩前進です。

脅かされない在来種

移入鳥類の在来種への影響として考えられる事項は、捕食圧、病気の感染、雑種の形成、競争排除などです。上記の移入鳥類は、日本に近縁種がいないため病気や雑種の心配が少なく、特定の種を旺盛に捕食するとこともありません。最も危惧されるのは、資源利用の似た種との競争です。しかし、今のところこれらの移入鳥類が増加したために、在来種が減少したというような報告はありません。移入鳥類の影響より、環境悪化など他の要因の方が在来種の個体群動態に強く影響しているのかもしれません。

では、在来種への影響が小さければ移入鳥類の存在は問題ないのでしょうか。日本は島国ゆえに、独特の生物相を維持しています。隣とはいえ中国とは大きく異なる独自のものです。しかし、中国産の鳥が日本で増えると、日中の生物相が均質化してしまいます。同じ様なことが世界中で生じれば、どこに行っても同じ様な生物相となり、生態系の多様性が減少します。すでにハワイでは中国産のソウシチョウやガビチョウ、日本産のメジロ、ウグイスなどが野生化しており、生態系の独自性が大きく損なわれているのです。これも生物多様性の劣化の一側面であることを忘れるわけにはいきません。

とはいえ「影響がない」のは、あくまでも現在わかっている範囲でのことです。今後、食物となる小動物が減少したり、逆に移入鳥類を食物として捕食者が増加したりする可能性もあります。どのような影響が生じるかわからないというのが移入種の最大の問題なのです。

コジュケイも、ソウシチョウも、ガビチョウも、すでに日本の森林に定着してしまいました。今後どのような方法を講じても、これらの種を日本から完全に除去することは無理でしょう。我々の子孫が、移入種のいない「日本独自の生物相」を体験することはもうできません。今後できることは、「次の一種」を増やさないことだけです。100年後の初夏、早朝の鳥のコーラスのメンバーがどうなっているのか、それを決めるのは私たちです。


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