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学芸員の渡辺が日本のハマキヒメバチをまとめました

2017年3月31日更新

 当館学芸員の渡辺が継続して研究してきた、日本産のハマキヒメバチ族の寄生蜂についての分類学的な研究成果が、日本昆虫学会が出版するモノグラフ(*1)であるInsects of Japanの8巻として、出版されました。これにより、渡辺が研究に取り掛かった当初は6属43種が知られていた日本産のハマキヒメバチ族は、最終的に8属109種に整理されました。いままで、アジアのハマキヒメバチは欧米に比べて解明度が低く、多様性はよく判っていませんでした。本研究により、日本だけで欧州を大きく上回る多様性が存在することが明らかとなり、アジアには想像以上に多様なハマキヒメバチが生息していることが示唆されました。また、ハマキヒメバチはガの一群であるハマキガ類の主要な天敵であり、森林害虫や果樹害虫を含むハマキガ類の天敵相が解明されたことにより、総合的病害虫管理(*2)における本寄生蜂の活用への道が拓けました。

 このモノグラフの主な新知見は以下の通りです。① 従来Glyptopimpla属の亜属とされていたOrientoglyptaを属に昇格させ、属の分類を整理した。② Glyptopimpla属の2新種とGlypta属の43新種を記載した。③ Glypta属の5種を日本から新たに記録した。④ 全ての種について記載を行い、形態図や分布図、検索表を付して同定ができるようにした。⑤ いくつかの種について学名の見直しを行った。⑥ いくつかの種において、新しい寄主記録を報告した。⑦ 分類に有用な形質、各属の分布パターン、他の地域と比較した日本のファウナの特徴について、議論を行った。

 

 本誌は英文で書かれたものですが、付録として日本語による以下の資料も掲載しています。① 日本産ヒメバチ科の亜科への検索表、② 日本産ハマキヒメバチの種までの同定資料、③ 各種の標準和名、分布、寄主の一覧。①および②は日本語によるものが従来なかったため、日本産のヒメバチに関する様々な研究を進める上での基礎資料として、活用されることが期待されます。

 

本研究で使用された標本は現在タイプラベルの取り付けなど、最後の整理を行っており、これら作業が終了後、多数のホロタイプとパラタイプが当館に収蔵される予定です。

 

*1 分類学におけるモノグラフとは、全世界、あるいは特定地域に生息する特定分類群の全種を網羅して分類学的に検討し、記載した総説論文のことをいいます。モノグラフを執筆し、世の中に出すことは、分類学者が行う仕事のうち、もっとも専門性が要求され、学術的にも価値がある事の一つといわれます。

*2 総合的病害虫管理(IPM)とは、農林業において、農薬など特定の防除技術のみに頼らず、利用可能なあらゆる防除技術を、経済性を考慮しながら最大限活用することにより、人間への健康リスクや自然環境へ与えるダメージを極力軽減することを目標とした管理をいいます。その中には、生態系が本来有する害虫や雑草を抑制する能力などを、農薬等の代替、あるいは補助として活用したものがあり、寄生蜂の仲間は時に有用な天敵として、重要な役割を担います。

 

論文詳細

Kyohei Watanabe (2017) The tribe Glyptini (Hymenoptera, Ichneumonidae, Banchinae). The Entomological Society of Japan (ed.) The Insects of Japan 8. Touka Shobo, Fukuoka, 402 pp.


日本の昆虫8巻の表紙

図1.今回出版されたモノグラフの表紙

 

クシゲマチハマキヒメバチの標本

図2.本モノグラフで新種記載されたクシゲマチハマキヒメバチGlyptopimpla kusigematii Watanabe, 2017(上段)とモモイハマキヒメバチGlyptopimpla momoii Watanabe, 2017(下段)。左がメスで右がオス、いずれもパラタイプ。和名および学名の種小名は、日本のヒメバチ研究に多大な貢献をされた、故桃井節也博士と櫛下町鉦敏博士に敬意を表して献名したものです。