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学芸員の展示余話

学芸員の展示余話

展示室では語り切れない特別な内容を学芸員が紹介します。
これまで行ってきた「魅せる展示」、「触れる展示」に続く第3の手法、読んで楽しむ「読む展示」です。
生命の星・地球博物館が100倍面白くなる、学芸員の展示余話をお楽しみください。
(このコンテンツは、新型コロナウィルス感染症拡大防止のための臨時休館中に特別に公開したものです)

目次

第1回「日本最大の隕石展示、マンドラビラ隕石」学芸員・西澤 文勝(2020年4月9日更新)

第2回「展示室にそびえ立つ巨木」学芸部長・田中 徳久(2020年4月14日更新)

第3回「リュウグウノツカイの剥製の秘密」学芸員・瀬能 宏(2020年4月16日更新)

第4回「ユーレイカ(わかったぞ)! ユウレイイカの姿勢」学芸員・佐藤 武宏(2020年4月21日更新)

第5回「最古の化石の最新情報」学芸員・大島 光春(2020年4月24日更新)

第6回「生命展示室の入り口で足を止めよう!メソサウルスの見どころ」学芸員・松本 涼子(2020年4月28日更新)

第7回「最後の展示は人類です」学芸員・広谷 浩子(2020年5月1日更新)

第8回「これか〜!今の地球じゃできないコマチアイト」学芸員・石浜 佐栄子(2020年5月5日更新)

第9回「リンドウの花の性」学芸員・石田 祐子(2020年5月8日更新)

第10回「昆虫愛好家垂涎の珍虫 テントウゴキブリ」学芸員・渡辺 恭平(2020年5月12日更新)

第11回「ゴンフォテリウムの眠った場所」学芸員・樽 創(2020年5月15日更新)

第12回「写真もみてね!地球の熱と火山の噴火」学芸員・西澤 文勝(2020年5月19日更新)

第13回「比べてみよう!5体のクマ剥製」学芸員・鈴木 聡(2020年5月22日更新)

第14回「鳥類の翼の形」学芸員・加藤 ゆき(2020年5月26日更新)

第15回「ハマオモト-博物館の歴史を知る!?-」学芸員・石田 祐子(2020年5月29日更新)

第16回「カモノハシ恐竜の鶏冠」学芸員・大島 光春(2020年6月2日更新)

第17回「あなたはハシナガチョウザメを見たか!?」学芸員・瀬能 宏(2020年6月5日更新)

第18回「世界最大級のハチ、タランチュラホーク」学芸員・渡辺 恭平(2020年6月9日更新)

第19回「カエルの鳴き声クイズに挑戦」学芸員・松本 涼子(2020年6月12日更新)

第20回「噴火の様子が違うわけ」学芸員・西澤 文勝(2020年6月23日更新)

第21回「ザ・日本のカニ」学芸員・佐藤 武宏(2020年6月26日更新)

第22回「天井に光る“地球”」学芸員・田口 公則(2020年6月30日更新)

第1回「日本最大の隕石展示、マンドラビラ隕石」

マンドラビラ隕石の画像

展示室に入って最初に出会う「マンドラビラ隕石」の紹介です。

博物館では、隕石を地球誕生の謎を解く鍵として展示ストーリーの冒頭で紹介しています。目に入った時の大きさと質感からレプリカや模型ではないかと思われる方も多いのですが、このマンドラビラ隕石は実物を展示しています。迫力あるこの隕石は、1911年にオーストラリア西方のマンドラビラで発見され、その名が付きました。その重量は2.5 tもあります(なんと当館エントランスホールの名物であるウェルカム・ベアの6頭分です!)。実は、この大きさでも衝突した隕石の一部で、1911年以降も次々と小さな破片が見つかっています(総重量24 t)。大きさと一緒に目を引くのは、表面にあいた無数の穴です。これは隕石が大気圏に突入した際、融点の低い鉱物が溶け出した跡と考えられています。

それにしても、どうしてこんなに重いのでしょうか?隕石には、「鉄隕石」・「石質隕石」・「石鉄隕石」という3種類があります。マンドラビラ隕石は、そのほとんどが鉄とニッケルの合金からなり(磁石にくっつきます)、鉄隕石に分類されることがその理由です 。開館したら磁石にくっつく様子を確かめにきてください。

(学芸員・西澤 文勝

 

第2回「展示室にそびえ立つ巨木」

ワイヤーの点検作業(展示室)の画像

生命展示室の奥に、幹の下半部が板状に張り出した巨木が展示されています。この板状に張り出した部分は、板根と呼ばれ、土壌の分解が早い熱帯地方などでは、養分を吸い上げるために地中深く根を張ることは無駄なことから、地上部を支えるためだけに発達したものです。

この巨木は、コームパッシア・エクセルサというマメ科の植物で、『ジャックとマメの木』を思わせます。元は50mはあろうかという巨木でしたが、道路を車で運べる長さが12mまでだったため、切断せざるを得ませんでした。また、トラックに積む都合で、板根の付け根の部分で切断しましたが、展示室では組み立てられていますので、注意してご覧ください。

また、この板根は太いワイヤーで吊られ、固定されていますが、1年に1度、足場を組んで点検し(写真)、直立に近い状態を保っています。なお、展示室での高所の点検作業については、自然科学のとびらVol.10 No.2(2004)展示シリーズ12「クジラつり(マッコウクジラの骨格)(PDF/662KB)」の記事をお読みください。

(学芸部長・田中 徳久

 

第3回「リュウグウノツカイの剥製の秘密」

リュウグウノツカイは中深層と呼ばれる光は届くが光合成ができない水深帯(太平洋側:水深100~700 m;日本海側:水深25~200 m)に生息し、背鰭の前方が馬のたてがみのように伸びていることが特徴の魚で、大きいものでは全長5 mに達します。当館生命展示室に展示されているこの剥製は、1990年7月18日に小田原市の御幸の浜に衰弱して漂着したものです。当時の新聞によれば、全長は約4.2 mだったとのことですが、添えられた写真を見ると体の後ろの部分がちぎれて見当たりません。いつちぎれたかはわかりませんが、剥製にするために立ち会った当時の学芸員が見た時にはすでになかったそうです。ところが展示室の剥製をみると、尾鰭の先まで全身が揃っています。これはいったいどういうことでしょう?剥製の真ん中より少し後ろあたりをよく見るとその謎が解けます。縦に入る継ぎ目があるのです。実は欠損していた体の後ろの部分は、別の個体でレプリカ(複製)を作って接続したものだったのです!

相模湾のリュウグウノツカイについてもっと詳しく知りたい方は「崎山直夫・瀬能 宏. 2012. 相模湾におけるリュウグウノツカイ(アカマンボウ目リュウグウノツカイ科)の記録について. 神奈川自然誌資料, (33): 95-101(PDF/3MB)」をお読みください。

リュウグウノツカイの剥製の画像
リュウグウノツカイの剥製

(学芸員・瀬能 宏

 

第4回「ユーレイカ(わかったぞ)! ユウレイイカの姿勢」

ユウレイイカの展示の画像

博物館3階の神奈川展示室、深海生物のコーナーの写真です。上は1995年の開館時、下は2020年の臨時休館中の撮影ですが、違いがお判りですか?

生物を展示する場合には、姿かたちをきっちり整えた、人間で言えば「気をつけ」の姿勢で展示する方法と、普段の姿勢、いわば「休め」の姿勢を再現して展示する方法があります。無脊椎動物にとって「気をつけ」の姿勢とは、普通は頭を上に、腹を下にした姿勢であり、腕や脚を基準にはしないようです。イカの場合、眼や口のある部分が頭に、「胴」と呼ばれる部分が腹にあたるので、俗に「イカゲソ」と呼ばれる腕は自動的に上に配置されます。一方、近年の深海カメラの発達や、深海生物飼育技術の向上によって、これまで謎に包まれていたユウレイイカの生態が少しずつ明らかになってきました。すると、ユウレイイカは普段は腕を上に、ヒレを下にして海中を漂っていることがわかってきたのです。

つまり、ユウレイイカを展示する時の姿勢は「気をつけ」でも「休め」でも、わたしたちの思い込みとは反対だったのです。このことがわかったので、ユウレイイカを180度回転させ、上下を逆にする修正を施したのです。

(学芸員・佐藤 武宏

 

第5回「最古の化石の最新情報」

最古の化石の画像

生物が存在した直接の証拠となるのは化石です。今のところ最古の化石は、39億5000万年前のもので、カナダのラブラドル地方から見つかっています。見つかったのは、海底で堆積した泥岩が変成作用を受けたことによって生じたグラファイト(石墨)という物質です。生物の形はなく、グラファイトを構成する炭素の同位体組成(12C/13C 比)が現生生物のものと近いために生物由来と考えられています(Tashiro et al. 2017)。

最初の生物はバクテリアのようなものだったと考えられていますが、よくわかっていません。しかしおよそ40億年前の地球には生物がいたようです。この時代の堆積岩に由来する変成岩が広く地表に出ている場所が、グリーンランドのイスア地方(Ohtomo et al. 2013)とカナダ東部という隣り合う地域なのです。

当館では細胞がつながった化石が見つかった、オーストラリアのおよそ35億年前の岩石を展示しています。最古の化石からおよそ5億年(古生代から現在までと同じ時間)経った頃の生物ということになります。

詳しく知りたい方は、英語になりますが、「Ohtomo, Y., T. Kakegawa, A. Ishida, T. Nagase and M.T. Rosing. 2013. Evidence for biogenic graphite in early Archaean Isua metasedimentary rocks. AOP on Nature Geoscience's. 10.1038/ngeo2025.」や「Tashiro, T., A. Ishida, M. Hori, M. Igisu, M. Koike, P. Méjean, N. Takahata, Y. Sano, T. Komiya 2017. Early trace of life from 3.95 Ga sedimentary rocks in Labrador, Canada. Nature, 549:516-518.」を参照ください。

(学芸員・大島 光春

 

第6回「生命展示室の入り口で足を止めよう!メソサウルスの見どころ」

メソサウルスは、ペルム紀前期(約2億9000万年前)に生息した爬(は)虫類の仲間です。アフリカと南アメリカから産出しており、両大陸が繋がっていたことを示す証拠として、有名な化石です。また、この時代の多くの爬(は)虫類が陸上へと生活の場を広げていく中で、水中生活に適応した最古の爬(は)虫類としても知られています。例えば、団扇(うちわ)のように広がった後ろ脚は水をかくのに適しており、太い肋骨は水に潜る際の重りの役割を果たしたと考えられています。

次に頭部に注目してみましょう。口の両側に飛び出した無数の細い針のようものにお気づきでしょうか。これは、上顎(あご)と下顎(あご)の歯です。この歯ではフォークのように獲物を突き刺すのは難しそうです。では彼らはどうやって獲物を食べていたのでしょうか。最近の研究によると、上下の細い歯を檻(おり)のように使い、エビのように水中にフワフワ漂う柔らかく小さな獲物を口の中に閉じ込め、食べていたと考えられます。このように動物の骨や歯には、彼らが生きていた時の様子を知る手がかりが隠れています。博物館が開館したら、間近でじっくり観察してみてください。

メソサウルスの化石の画像
メソサウルスの化石

(学芸員・松本 涼子

 

第7回「最後の展示は人類です」

当博物館の観覧ルートの最後にあたるのが、人類進化をテーマにした展示「くらべてみよう!いろいろな人類」です。3階のジャンボブック展示室の奥にあり、濃いブルーの背景に人類の頭骨がずらりと並び印象的です。700万年前の化石サヘラントロプスから現代人まで、様々な形・大きさの人類がいます。真っ黒でゴリラの頭骨のように頭頂部にエッジ(矢状隆起といいます)がついている化石もあります。展示室の入口からみても、このページは目立つので、「わーい骸骨だあ」と子どもたちが集まってきます。頭骨から、脳の発達程度や食性がわかり彼らの暮らしが想像できます。ずらりと並べられると、人類の多様性と人類進化の道すじが実感できます。

地球の誕生から生命の誕生・発展と進んできた展示を人類進化の紹介で締めくくるのは意義深いことです。ジャンボブック展示室の更新は担当学芸員に任されており、2000年代以降のたくさんの重要な発見によって次々と塗り替えられる最新の人類進化理論をその都度紹介することができます。ネアンデルタール人と現代人の混血、同じ場所に3種の人類が同時にすんでいたことなど、興味深いニュースはたくさんあります。展示をみると、ニュースはさらに面白くなると思います。

ジャンボブックの画像
ジャンボブック

(学芸員・広谷 浩子

 

第8回「これか~!今の地球じゃできないコマチアイト」

コマチアイトの画像

皆さんは博物館でお気に入りの展示物を見つけたことはありますか? 私の場合、まだ学芸員になる前でしたが、この博物館を初めて訪れた時に出会って大変感動した標本があります。それは「コマチアイト」。一見ただの地味〜な石なので、その存在にすら気づかない方も多いかもしれません。でもこれ、今の地球じゃできない、すごい岩石なんですよ。

私がその名前を知ったのは、岩石学の講義を受けていた大学生時代。「マグマがものすごい高温のまま地表にまで上昇してきた時しか形成されない火山の石」「今よりずっと熱かった太古の地球の証人」と聞き、いつか見てみたいと思っていた憧れの岩石でした。この岩石の中では、8月の誕生石(ペリドット)としても知られる「かんらん石」という鉱物が、松葉のような細長い棒状の形をしています。現在の地球でできるマグマの温度だと、かんらん石は地表に出る前にマグマの中で結晶化してしまい、このような棒状(急に冷やされてできた結晶の形)にはならないのです。

当館では、教科書や図鑑に出てくる、あんな標本やこんな標本を各種取り揃えています。「本で読んだ、話に聞いてたあれの実物は、これか〜!」という一品を、ぜひ博物館に探しに来てください。
詳しくは、自然科学のとびら第7巻3号 展示シリーズ7「草の化石ではありません―コマチアイト―(PDF/924KB)」をお読みください。

(学芸員・石浜 佐栄子

 

第9回「リンドウの花の性」

リンドウは草原などの明るい環境に生育する植物です。3階の神奈川展示室にあるリンドウの模型を見てみると、左の写真にあるように、花の中心部分にあるおしべとめしべの配置がそれぞれ違っています。どうしてこうなっているのでしょうか…?

植物の中には自家受粉(同じ花の中での受粉)を避けるためにおしべが花粉を出す時期(オスの時期)とめしべが花粉を受け取れるようになる時期(メスの時期)をずらしているものがあります。そして、その様子がこの展示模型に表現されているのです。

中央下の花は咲いて間もない花を表現しており、5本のおしべが花の真ん中に集まって、めしべはおしべの下に隠れています(オスの時期)。その後、左上の花の様に、おしべはしおれて広がり真ん中にあるめしべが伸びてきます。そして、右上の花の様に、中央のめしべが伸びてきます(メスの時期)。

このような精巧な模型であるためか、「本物ですか?」と質問されたり、「水やり大変ですね」と声を掛けられたりすることもあります。

リンドウの模型の画像

リンドウの模型

(学芸員・石田 祐子

 

第10回「昆虫愛好家垂涎の珍虫 テントウゴキブリ」

博物館の展示室には、県内はもとより、世界中から集めた様々な昆虫が展示されています。生命展示室には、大きさ、形、美しさ、擬態などにテーマをおいて、厳選した昆虫たちを展示しています。しばしば博物館にある昆虫の中で、一番珍しいものは何ですか?と聞かれることがあります。バックヤードには世界に一個体しか標本がない昆虫もいくつかあり、選ぶことは難しいですが、展示室にある昆虫の中では、あるゴキブリが珍しい昆虫の筆頭であると私は考えています。それが今回の主役、テントウゴキブリです。

まずは、写真をご覧ください。この中にゴキブリが映っています。何匹がゴキブリでしょうか?実はすべてテントウゴキブリの仲間です。食べると苦いテントウムシに擬態しているといわれますが、テントウムシに比べると遥かに珍しく、昆虫愛好家があこがれる希少な虫です。ゴキブリは嫌われ者ですが、その中で害虫となる種はごくわずかで、多くは森林の中で静かに暮らしています。野外にいるゴキブリの中にはテントウゴキブリを筆頭に、美しい種類も多いのです。ぜひ皆さんも展示室の標本の中から彼らを探してみて下さいね。

テントウゴキブリの画像

テントウゴキブリ、あなたはどの模様がお好きですか?

(学芸員・渡辺 恭平

 

第11回「ゴンフォテリウムの眠った場所」

ゴンフォテリウム(レプリカ)の画像

この博物館の中には保存状態や1頭に由来するなど、いわゆる化石としての「良い標本」であるのに、全く学術的な記載がされていない標本があります。

Gomphotherium sp.(ゴンフォテリウム)もその一つです。ゴンフォテリウムはゾウの仲間(写真)ですが下顎にも牙があり、今のゾウとは少し違った趣きのあるゾウです。このゴンフォテリウムは、アメリカ合衆国の中西部のネブラスカ州で見つかりました。ネブラスカ州の北側のメリマンという所から南へ6kmほど行った、ナイオブララ川の近くです。産出した地層がヴァレンタイン層で、時代は新生代新第三紀中新世(1,200万年前ごろ)にあたります。化石は頭骨の一部、各足の先端、腰の骨の一部(恥骨(ちこつ))などが欠損部分で、その他の部分が残っていました。また化石は、ゴンフォテリウムが死んだ後、一気に堆積物によって埋められたらしく、骨がバラバラになっていませんでした。このような、この化石に関する基本的な情報ですら、まだ公表されていないのです。

(学芸員・樽 創

 

第12回「写真もみてね!地球の熱と火山の噴火」

火山の噴火の展示の画像

1階常設展示の「地球誕生」を過ぎると「地球の仕組」が始まります。この展示では、地球で起こっている大地の動きの仕組みを解説しています。映像やパネルでの説明が多く、少し難しく感じる方もいるかもしれませんね。そんな方に、この展示を理解するためのキーワードをひとつ、それは「熱」です。

地球の熱の源には2つあります。1つは地球ができる際に小さな惑星同士が衝突した時のエネルギーで、もう1つは地球内部にある放射性元素の核分裂によるエネルギーです。地球の内部は、そこから生まれる熱を冷ますように、物質を移動・循環させながら動いているのです。それが、大地が動く原因なのです。実は、大地の動きの1つである火山の噴火も地球が冷えるための現象の1つです。熱い溶岩や火山灰が出てくる火山は、まさに地球の中から熱が逃げていく現場なのです。そんな火山の噴火の様子について、円い柱の写真展示で紹介していて、さまざまな噴火を見ることができます。なぜ噴火の様子が違うのかは、また別の機会に。

(学芸員・西澤 文勝

 

第13回「比べてみよう!5体のクマ剥製」

大型の哺乳類や恐竜の標本は迫力があり、博物館の人気者です。皆さんは、大型哺乳類と聞いてどんな哺乳類を思い浮かべるでしょうか?子どもたちに問いかけると、クジラ!ゾウ!キリン!サイ!ライオン!といった声が聞こえてきそうです。クマもぜひ仲間に入れてほしいですね。なぜなら、クマ(正確にはヒグマ)は日本最大の陸上哺乳類だからです。

日本には、北海道にヒグマ、本州と四国にツキノワグマという2種のクマが生息しています。当館では、神奈川展示室に並んでいます。世界レベルで最大のクマは、ホッキョクグマで、大きなものでは体長3 m、体重800 kgほどあります。次に大きいのはヒグマです。こちらは生命展示室に並んでいます。ヒグマは地域によって大きさに違いがあります。アメリカ合衆国アラスカ州のコディアック島には、ホッキョクグマに匹敵する大きさの亜種コディアックヒグマが生息しています。エントランスホールに展示され、ウェルカムベアの愛称で親しまれている剥製が、それです。

博物館が再開館したら、ぜひクマの剥製を見に来てください。ヒグマ同士あるいは種の違うクマの大きさや形を見比べてみると、何か新しい発見があるかもしれません。

神奈川展示室のツキノワグマ(左)とヒグマ(右)の画像
神奈川展示室のツキノワグマ(左)とヒグマ(右)

(学芸員・鈴木 聡

 

第14回「鳥類の翼の形」

地球上には、現生種だけで1万種ほどの鳥類が確認されています。鳥類はほぼ全身が羽毛に覆われ、前肢は一般的に「翼」と呼ばれます。ダチョウやエミューといった走鳥類とコウテイペンギンやフンボルトペンギンといったペンギン類などを除き、多くの鳥類の翼は飛ぶために発達しています。

翼の形は種によって違います。例えば海に点在している餌場を求め、広範囲を移動するアホウドリ類やミズナギドリ類の翼は、空気抵抗の少ない細長く先端がとがった形をしており、高速飛行をすることができます。季節ごとに長距離を移動するコウノトリやサシバなどは幅の広い大きな翼をもち、風を受けて上昇し、グライダーのように緩やかに降下することを繰り返しながら、目的地まで移動します。一年を通じて陸上のほぼ同じ場所ですごすカケスなどの翼は、比較的短く丸い形をしています。このように鳥類の翼はすんでいる環境や移動距離など、その種のくらしぶりを反映した形をしているのです。

1階にある生命展示室には、様々な鳥類の飛翔時の姿勢を復元した剥製が展示されています。野外ではなかなか観察できない翼の形を、展示室でじっくりと見比べてみませんか。

生命展示室の鳥類剥製の画像
生命展示室の鳥類剥製

(学芸員・加藤 ゆき

 

第15回「ハマオモト-博物館の歴史を知る!?-」

ハマオモトの模型の画像

ハマオモト(別名ハマユウ)は海岸の砂地などに生育する植物です。日本では、本州(関東南部以西)から琉球に分布しています。神奈川県内では、天神島の自生地が県の天然記念物に指定され、『神奈川県レッドデータ生物調査報告書2006』でハマオモトは絶滅危惧種ⅠA類とされました。ハマオモトは平均気温15℃(年最低気温の平均値が-3.5℃)の等温線より南側の地域に分布するとされ、その分布北限線はハマオモト線と呼ばれ、気温による植物分布の1つの基準となっています。

このハマオモトの模型は、1995年3月、横浜馬車道の神奈川県立博物館(現:神奈川県立歴史博物館)の自然系部門が独立する形で生命の星・地球博物館が誕生する際に、神奈川県立博物館の開館当時(1967年)から展示室のジオラマにあったものを小田原の地に持ってきました。生命の星・地球博物館の前身が横浜にあった頃から50年以上、博物館の歴史を見守ってきた展示物の1つです。

古いものだけに、昨年(2019年)秋に、茎が折れてしまいましたが、どこを接いだのかよく分からないくらいに修理しました。さてどこを接いだでしょうか?再開館したら確かめに来てください。

(学芸員・石田 祐子

 

第16回「カモノハシ恐竜の鶏冠」

カモノハシ恐竜とよばれている吻端が平たい恐竜のグループがあります(鳥盤目鳥脚亜目ハドロサウルス科)。カモノハシ恐竜には大きくわけて骨質の鶏冠(とさか)があるランベオサウルス亜科(当館ではチンタオサウルスがこの仲間)と、骨質の鶏冠がないハドロサウルス亜科(当館ではエドモントサウルスがこの仲間)の2つがあります。しかし、2013年には骨質の鶏冠がないハドロサウルス亜科のエドモントサウルスにも軟組織の鶏冠(つまりまさに鶏の鶏冠ような器官)があったことがわかりました(Bell et al., 2014)ので、鶏冠はカモノハシ恐竜に共通の特徴だったようです。

カモノハシ恐竜は発見された化石の個体数が多いので、胚やふ化直後の個体から全長10メートルを超える個体まで、成長過程もよく調べられています。また、足跡化石や一度に発見される化石が多いことから群れを作って移動したことが、巣の化石の相互位置関係から集団営巣したことがわかっています。ランベオサウルス亜科は鳴き声を骨質の鶏冠で共鳴させて増幅し遠くまで響かせることができたと考えられるので、群れの中における個体間の距離が離れた群れを形成し、逆にハドロサウルス亜科は鳴き声を軟組織の鶏冠ではあまり増幅できなかったと考えられるので、群れの中における個体間の距離が短く、コンパクトに纏っていたと推定されています(D.Evans, 2019福井県立恐竜博物館における講演)。

詳しくは、 Bell, P. R., F. Federico, P. J. Currie and V. M. Arbbour. 2014. A Mummifited Duck-Billed Dinosaur with a Soft-Tisue Cock’s Comb. Current Biology. 24: 70—75.

併せてどうぞ 自然科学のとびらVol.6,No.4 展示シリーズ4「エドモントサウルス(PDF/876KB)

エドモントサウルス・アンネクテンス全身骨格(実物)の画像
当館のエドモントサウルス・アンネクテンス全身骨格(実物)
頭骨に骨の突起はないが柔らかい鶏冠があったらしい

(学芸員・大島 光春

 

第17回「あなたはハシナガチョウザメを見たか!?」

ハシナガチョウザメの画像

当館には標本と画像を合わせて34万点余りの魚の資料が登録されています。その中でも特に学術的価値が高く、希少性や入手困難性、トピック性に加えて高い経済的価値をも併せ持つ、とっておき の魚がさりげなく展示されていることをご存じでしょうか?それは中国の揚子江の固有種ハシナガチョウザメです!今から3,400~7,500 万年前に栄えたグループの生き残りで、「生きている化石」として有名であるだけでなく、最大全長7 メートルに達する世界最大の淡水魚でもあります。2019年に発表された論文によると、この魚は1970年代には年間25トン ほどの漁獲があったそうですが、その後ダム建設や乱獲によって数を減らし、1993年には繁殖することができなくなり、2005年から2010年までの間に絶滅したと推定されました。つまり、今後この魚は博物館の標本でしか見ることができなくなってしまったというわけです。ちなみに当館の剥製は1980年代に現地で入手したものを1995年の開館に合わせて購入したものです。この魚の剥製を惜しげもなく見ることができる博物館が当館以外のどこにあるのか、インターネットを使ってぜひ探してみてください。そうすれば自ずとその価値を理解していただけるでしょう。

参考資料
Zhanga, H., I. Jaric, D. L. Roberts, Y. He, H. Du, J. Wu, C. Wang and Q. Wei. 2019. Extinction of one of the world's largest freshwater fishes: Lessons for conserving the endangered Yangtze fauna. Science of the Total Environment, online. DOI: https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2019.136242

(学芸員・瀬能 宏

 

第18回「世界最大級のハチ、タランチュラホーク」

キョジンオオクモバチとオオスズメバチの画像

地球展示室の昆虫コーナーの一角に、巨大な昆虫たちを紹介しているエリアがあります。ヘラクレスオオカブトムシのような良く知られた昆虫を始め、様々な巨大昆虫を展示していますが、その中に今回紹介する世界最大級のハチ、タランチュラホーク(キョジンオオクモバチ)も展示されています。

このハチの大きさを、参考までに日本最大級のハチであるオオスズメバチの女王バチと並べてみたのが、右の写真になります。オオスズメバチの大きさはおよそ5 cmなので、タランチュラホークの大きさが良く分かると思います。オオスズメバチも同じコーナーに展示してありますので、ぜひ実物を見比べてみてください。タランチュラホークという名前の通り、このハチはタランチュラ(オオツチグモ科のクモ)を襲い、幼虫の餌にします。この仲間はクモバチ科(旧和名、ベッコウバチ科)に属し、日本にも様々な種類が分布していますが、日本にはタランチュラがいないため、ここまで巨大な種は分布していません。どんな風にタランチュラを襲うのか、いつか見てみたいものです。

(学芸員・渡辺 恭平

 

第19回「カエルの鳴き声クイズに挑戦」

3階ジャンボブックコーナーの人気展示の一つが、カエルの鳴き声クイズです。スタートボタンを押すと、5種類のカエルの鳴き声が順に流れ、声の主を全問正解すると祝福のメロディーが流れます(残念ながら感染症予防のため、当面の間は利用休止となっています)。

皆さんが野外でカエルの鳴き声を耳にするのは繁殖期です。オスの喉には鳴嚢(めいのう)と呼ばれる膜があり、鼻の孔(あな)と口をぎゅっと閉じて、肺からこの膜に空気を送り、風船のように膨らませ、音を反響させることで大きな鳴き声を作り出します。鳴嚢を持たない、ヒキガエルなども鳴くことはできますが、遠くまで響く大きな音にはなりません。カエルの種類によって喉の形が異なるため、作り出される音の高さやリズムも様々です。そのため、鳴き声は周囲の仲間に同種のオスであることを知らせる役割や、大勢のオスの中からメスに選んでもらうためのアピールの役割を果たします。

博物館の横を流れる早川では、5〜6月頃になると、日暮れ後に「フィフィフィ〜」というカジカガエルの鳴き声を聞くことができます。運が良ければ日中でも聞こえることがあります。また、小田原城でも日暮れ時になると、ニホンアマガエルの「ケッケッケッケッケ」という大合唱が始まります。博物館のカエルの鳴き声クイズはしばらく使えませんが、その代わりとして、博物館周辺の自然観察スポットを散策してみてはいかがでしょうか。

ジャンボブックの画像
ジャンボブック

(学芸員・松本 涼子

 

第20回「噴火の様子が違うわけ」

「地球の仕組」(1階)にある写真展示から、いくつか噴火の様子の違いが分かるものを選んでみました(図)。もくもくと大きな煙が立ち上る噴火に、赤い飛沫が飛び散る噴火、ドロドロと溶岩が流れる噴火が見て取れます。図の1、2、3の順で、噴火の爆発の大きさが小さくなる様子が分かります。では、なぜこのような違いが生まれるのでしょうか?

どのような噴火になるかは、たくさんの要素が複雑に関係していますが、噴火の爆発力に着目すると、その答えの一つはマグマに溶けている「水」が握っています。水は、液体から気体に変わると、体積が急激に膨張するため、噴火の爆発力の源となるのです。コーラに溶け込んでいる炭酸のように、マグマには水が溶けています。マグマの圧力が下がったり温度が上ったりすると、水は溶けきれずに気体となってマグマの中に泡をつくります。この泡がマグマの中で十分に成長できないまま地上に来て、突然に破裂すれば爆発的な噴火になるわけです。

そして、泡の成長の仕方や外への逃げ出し方はマグマの粘り気によって大きく左右されます。粘り気の小さいマグマでは、気体となった水が脱け出しやすいため、マグマが火口にたどり着く途中で、気の抜けたコーラのようになってしまいます。そのため、図の3番のようにあまり爆発的にならず、溶岩を穏やかに流す噴火になるのです。

 

1: 新燃岳(鹿児島)、 2: エトナ火山(シチリア島)、3: マウナロア火山(ハワイ島)の画像
1: 新燃岳(鹿児島)、 2: エトナ火山(シチリア島)、3: マウナロア火山(ハワイ島)

(学芸員・西澤 文勝

 

第21回「ザ・日本のカニ」

カニはお好きですか? 食の世界ではズワイガニ、ケガニ、タラバガニを日本三大ガニと呼ぶそうですが、ガザミやアサヒガニも人気ですね。当館にもカニはたくさん展示されています。

ところで、イチョウガニはご存じですか? 実は知る人ぞ知る由緒(ゆいしょ)正しいカニなのです。

イチョウガニの学名はCancer japonicus、Cancerはラテン語で「カニ」を、japonicusは「日本の」を意味します。つまり、イチョウガニこそが「ザ・日本のカニ」なのです。基準となった標本は東京湾で採集されたもので、関東以南の暖かい海の水深100メートル以浅に生息します。とても美味しいカニですが、サイズが小さく、まとまって得られないことから市場に出回ることは少ないようです。

さて、英語でcancerというとガン、つまり悪性腫瘍(あくせいしゅよう)を意味します。不規則に盛り上がる腫瘍の姿がカニの甲に、腫瘍を取り囲む無数の血管が甲を取り囲む多数の脚にそれぞれ似ていることが、その由来とされているようです。この病気を「cancer」と名づけたのは医学の祖ヒポクラテスとか。これにも由緒の正しさを感じます。

このイチョウガニ、神奈川展示室に展示されていますし、「ウェブで楽しむ地球博」の「ぬりえひろば:標本deぬりえ」でも取り上げています。「ザ・日本のカニ」、どうぞお見知りおきを。

イチョウガニの画像
イチョウガニ

(学芸員・佐藤 武宏

 

第22回「天井に光る“地球”」

エントランスホールの展示と天井画の画像

緊急事態宣言が続いていた5月のある日、博物館のエントランスホールに立ってみました。ダイナミックな空間に身を置いてみたくなったのです。

シンボル展示の白亜紀の化石たち(*1)を見上げ、さらに頭上の天井画(*2)を仰ぎ見てみました。そこには輝く“地球”がありました。臨時休館により照明が消された真っ暗な常設展示室とは対照的な光景です。実は停電の時でさえ、天井の“地球”の光は時間の移り変わりとともに変化します。屋上の天窓から採光した光を利用しているのです。博物館の内部空間に、リアルタイムに変化する天空光という外部空間の要素を取り入れることで、ダイナミックな地球の姿を見事に映し出していると思います。

また、恐竜と自分が立つ位置を白亜紀に見立ててみると、高いところに光る“地球”は、現在であり、未来を象徴したものにも見えてきます。なるほど、勝手な解釈ながら、シンボル展示の意義が深まってきます。展示の中に、タイムラインと「過去・現在・未来、ずっと地球は変化の中にありますよ」というメッセージを感じます。

Stay Homeでとどまり続けたハコの中で、未来を見つめた瞬間でした。

*1:白亜紀後期の恐竜(チンタオサウルス)、魚類(クシファクチヌス)、翼竜(アンハングエラ、トゥプクスアラ)の展示
*2:天井画は上哲夫氏による作品「宇宙波」

(学芸員・田口 公則