学芸トピックス―折原貴道―
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菌類担当学芸員の折原らによる、日本新産属の地下生菌 Chamonixia caespitosa に関する論文が出版されました

菌類担当学芸員の折原らによる、日本新産属の地下生菌 Chamonixia caespitosa に関する論文が出版されました

2015年12月19日更新

日本菌学会の発行する国際学術誌『Mycoscience』第57巻1号において、当館の菌類担当学芸員、折原貴道を筆頭著者とする、日本新産属の地下生菌(Chamonixia caespitosa)に関する論文が掲載されました。

Chamonixia caespitosa(シャモニクシア・セスピトーサ;和名は未定)は、イグチ科(ポルチーニなど、傘の裏が管状となるきのこが含まれるグループ)に所属する地下生菌です。19世紀末にフランスのシャモニー地方から報告され、主にヨーロッパと北米の針葉樹林帯に分布していますが、希少な種とされています。アジアでは90年以上前に中国四川省で一度採集されて以来、本種の確かな記録はありませんでした。

今回、折原らの研究グループは、長野県八ヶ岳の針葉樹林において、白色で強い青変性のある地下生菌の子実体を採集し、形態的特徴およびDNA情報による分子系統解析の結果から、本種であると結論付けました。本種の報告は、日本では初、アジアでも二例目となります。また、分子系統解析の結果から、今回の日本産標本が系統的にヨーロッパよりも北米の標本に近いことや、北米にC. caespitosa と形態的・生態的に酷似する隠蔽種が存在することが明らかになりました。Chamonixia 属の分子系統に着目した研究は本研究が初で、これまで本属の分布における空白地帯だった東アジアから今回新たに発見されたC. caespitosa の標本は、ミッシング・リンクとして生物系統地理学的に重要なものと言えます。また、分布上の特性から、今回の日本産標本は日本がより寒冷だった時代の遺存個体群であると考えられ、発生環境の永続的な保全が求められます。

本研究に用いられたC. caespitosa の日本産標本は、すべて当館に収蔵されています(標本番号:KPM-NC 18070~18072)。

 

論文

Orihara T., M. Ohmae & K. Yamamoto, 2016.  First report of Chamonixia caespitosa (Boletaceae, Boletales) from Japan and its phylogeographic significance.  Mycoscience 57: 58–63.
doi:10.1016/j.myc.2015.08.005

生えている様子
日本新産属として報告されたChamonixia caespitosa の子実体(KPM-NC 18071)

 

※KPM-NCは当館の資料番号であることを示す記号です。